2026.03.03

【ワークショップおよび講演会の開催報告】「文化財保存修復に関するワークショップ-額縁の歴史・技法と保存修復について-」「イギリスと日本における額縁の歴史と保存」

【ワークショップおよび講演会の開催報告】「文化財保存修復に関するワークショップ-額縁の歴史・技法と保存修復について-」「イギリスと日本における額縁の歴史と保存」

 2025年10月29日から3日間、国立アートリサーチセンター、東京文化財研究所保存科学研究センター、国立西洋美術館の共催により「文化財保存修復に関するワークショップ-額縁の歴史・技法と保存修復について-」を開催しました。またワークショップに引き続いての11月1日、同じく3機関共催による一般講演会「イギリスと日本における額縁の歴史と保存」を開催しました。

 日本では入手することの難しい額縁に関する情報を日本の専門家と共有するため、イギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)で家具・額縁修復士として活躍するバロウ由紀子氏を招聘し、ワークショップでの講義・実技指導をお願いしました。

 ワークショップは10月29日~31日までの3日間、各日とも午前は東京文化財研究所にて講義を行い、午後は国立西洋美術館にて実習を行いました。午前の講義は66名が受講し、そのうち15名が午後の実習までを履修しました。

画像1:ワークショップ講義の様子

 1日目の講義では、額縁の修復工程を解説したV&Aの常設展示スペースをどのように企画・デザインし、展示品を製作したかについて、展示目的と理念、展示品の製作工程までを分かりやすくご紹介いただきました。また、午後の実習に参加できない方々にも配慮し、実習の概要について豊富な画像や動画を用いてご説明いただきました。
 2日目には、イギリスにおける美術館での作品鑑賞の歴史、額縁の発展についてお話しいただきました。社会的・文化的背景に影響された額縁様式の変化や、額縁とその中に収められた絵画との関連を、実際の画像と額縁の断面図を用いてご説明いただきました。
 3日目には、額縁の保存修復に関する課題として、グレージング(絵画表面を保護するガラス板またはアクリル板)を取り上げ、その効果と手法についてグレージングの事例とともにご紹介いただきました。
 

  • 画像2:手板への白亜塗布
  • 画像3:額縁からのシリコン型取り
  • 画像4:シリコン型から製作した石膏型

 午後の実習では、1日目はチョーク(白亜)作り、手板へのチョーク塗りから始まり、クロスハッチング、ハザリング、型取りといった額縁製作特有の技法を体験しました。

  • 画像5:手板へのギルディング
  • 画像6:メダリオンへのギルディング

 2日目には額縁修復に使用される5種類のギルディング(水箔、油箔、アクリル溶液を用いた2種類の偽水箔、偽油箔)の中から、特に扱いやすく、使用頻度が高いアクリル溶液によるギルディングへの理解を深めるため、それぞれの手板サンプルを製作し、比較しました。手板以外にも、メダリオンやレリーフなどの立体サンプルにもギルディングを施しました。

  • 画像7:水彩絵具を用いたトーニングの様子
  • 画像8:クリーニングテストの様子

 3日目にはギルディングを施したサンプルへのトーニング(古色仕上げ)を行い、また、アルカリ性溶剤を使用した額縁のクリーニングテストを行いました。クリーニングテストでは、テストピースとして明治期に日本で製作された額縁の破片を東京藝術大学からお貸出しいただいたことにより、実践に近い貴重な体験となりました。

 参加者からは、「美術館の実物の額縁を見たくなった」「額縁の変遷、地域差、技法を学ぶことで、作品調査・修復方針の立案に活かせる」「材料の種類・濃度・メーカー名など具体的情報が得られ、再現性が高い」「道具や材料が購入しやすそうなものばかりで、技術的にもそれほど難しくなく、取り入れやすい」といった意見が寄せられました。

画像9:講演会におけるディスカッションの様子

 11月1日の講演会では、バロウ由紀子氏、東京都美術館の中江花菜氏のお二人を発表者にお迎えしました。バロウ氏には、イギリスの額縁の歴史と保存修復、イギリスの額縁に見られる日本の影響についてご発表いただき、日本の洋風額縁を研究する中江氏には、日本における額縁の歴史と様式についてご発表いただきました。
 バロウ氏のご発表では、第1回ロンドン万国博覧会を契機として定着した美術品鑑賞の習慣に伴い、19世紀中頃のイギリスですでに提起されていた展示環境、保存修復に関する問題、そして現在のイギリスの美術館における額縁修復の事例をお話しいただきました。また、19世紀後半、日本で洋風額縁の製作が開始される少し前のイギリスでは、日本風のデザインを取り入れた額縁が作られていたという興味深い事例についてもご紹介いただきました。
 中江氏のご発表では、洋風額縁が日本でどのように発展してきたのかについて、ヨーロッパ留学を経験した山本芳翠ら画家たち、日本における額縁製作の第一人者である長尾健吉の貢献についてお話しいただきました。ヨーロッパのデザインを真似て製作され、白馬会に発表された作品を収めていた額縁や、額縁の材料やデザイン、製作工程をめぐっての長尾と画家らの交流についての解説から、西洋文化を忠実に再現しようと試みた明治期の日本美術の発展の様子を垣間見ることができました。
 講演の後には、お二人に加えて東京藝術大学大学院文化財保存学専攻保存修復油画研究室の鳥海秀実特任教授に司会としてご登壇いただき、質疑応答とディスカッションを行いました。会場からは、額縁修復に使用する具体的な材料や技法、美術館における保存修復に関わる組織運営、日本における額縁製作の背景、などについて質問や意見が集まり、活発な意見交換の場となりました。

 69名の参加者からは、「額縁の歴史・様式・役割について体系的に学べて良かった」という意見が多く、また、「専門外の参加者にも分かりやすかった」という声も寄せられました。

 今回のワークショップを通して、日本では実践的な情報を得ることの難しい額縁修復についての知見を、国内で活躍する専門家と共有する機会を提供できました。また、一般向けの講演会は、普段、絵画の付属品として扱われ、注目を集めてこなかった額縁に関する情報を多くの方と共有できる有意義な機会となりました。

日高翠(国立アートリサーチセンター)


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