国立アートリサーチセンターが設立されてから3年が経ちました。この間、世界の政治・経済・社会は、さらに混迷の度を増し、不確実性も高まりました。そのような状況において美術が果たすべき社会的役割も注目されつつあります。包摂性、多様性、サステナビリティなどの社会的課題は、美術においても、その解決に向けた使命を担っています。また、社会が急速に変化し、日本のアートをめぐる環境も新たな段階へ向かうなか、国際的文脈において日本の美術をいかに位置づけ、未来の世代へその価値を継承していくのか。このこともまた、これまで以上に重要性を増しているといえるのではないでしょうか。
国立アートリサーチセンターは、発足以来、美術館の枠を超えて専門的知識と実践を有機的に結び付けながら、日本のアート振興を支える基盤整備に努めてまいりました。美術館コレクションの活用促進、日本のアートに関する情報の集約と発信、国際的ネットワークの構築と連携の強化、社会的課題の解決にも資するラーニングの充実、社会とアートとの結びつきの橋渡しといった多様な領域における活動を展開するなかで、次なる展開に向けた課題と可能性も徐々に明らかになりつつあります。
このたびセンター長としてその舵取りを担うにあたり、これまでの蓄積を糧として活動をさらに発展させ、日本のアートが世界と持続的に結びつくための役割を一層深めていきたいと考えています。アートの社会的価値を可視化し、未来を築くための議論と知恵が集う場として、センターの活動を発展させてまいります。これからも皆さまと共に学び、考え、日本のアートの未来を築いていきたいと願っています。引き続き、温かいご理解とご支援を賜れれば幸いです。
2026年4月1日
国立アートリサーチセンター長
田中正之
- 国立アートリサーチセンター長
- 田中 正之
撮影:稲口俊太
1963年東京生まれ。東京大学大学院修士課程修了後、ニューヨーク大学美術研究所で学ぶ。専門は西洋近現代美術史。1996年より国立西洋美術館研究員、『マティス展』(2004年)、『ムンク展』(2007年)などを担当。同館主任研究員を経て、武蔵野美術大学造形学部准教授。2009年に教授に昇任。2011年より同大学美術館・図書館館長、造形研究センター長も務めた。2021年4月より国立西洋美術館長(~現在)、2023年7月に独立行政法人国立美術館理事。2026年4月より独立行政法人国立美術館理事長および国立アートリサーチセンター長。近著に『西洋美術史』(美術出版社、2021年)、『西洋絵画を知る100章』(平凡社、2022年)。