2024.05.08

美術館におけるサスティナビリティの試み ―再利用可能なクレート(輸送箱)の作成

高嶋美穂(国立西洋美術館)

美術館におけるサスティナビリティの試み ―再利用可能なクレート(輸送箱)の作成

展覧会を開催するとき、美術館では貸与された作品を輸送し展示する作業を行います。作品を輸送するということは、振動などに伴う物理的損傷の可能性の他、温度・湿度の変化といった環境的影響に作品を晒すことを意味します。これらの要因から作品を保護するため、作品はクレートcrateと呼ばれる輸送箱に入れ美術品専用車に載せて輸送します。このクレートに関して、美術館におけるサスティナビリティに挑む国立西洋美術館の試みをご紹介します。

鳥海秀実(国立アートリサーチセンター)

いま、地球環境の保全のために、美術館でも温室効果ガスの排出や廃棄物などを削減することが求められています。これに応えるための1つの方法が、作品輸送の際に再利用可能なクレート(リユーザブルクレート reusable crate)を使用することです。このようなクレートの使用はすでに海外では一般的になりつつあり、たとえばオランダのTURTLE社の製品などが挙げられますが、日本の美術館での使用は稀です。国立西洋美術館でもこれまで、他の日本の美術館同様、作品の貸し出しのたびに作品サイズに合わせて都度クレートを作製し使い終えると廃棄してきました。しかし今後は、リユーザブルクレートを積極的にとりいれていくことを検討しています。そこで今回、国立アートリサーチセンターの協力の下、当館とヤマト運輸株式会社でリユーザブルクレートを共同開発しました。

このリユーザブルクレートは当館の海外輸送用のクレート仕様をもとに細部を変更したもので、木箱で、その内部には断熱材や緩衝材(クッション材)が入っています(図1 - 図4)。当館では長年にわたり作品輸送時における温度・湿度の実測データを蓄積してきており、当館仕様のクレートによる緩衝効果を確認しているため、この構造としました(図5)。またこのクレートは箱内部にある作品固定用の4隅の支え(木製)が可動式になっており、小さな作品から最大75 x 95 cmまで幅広い大きさの作品に対応することができるようになっていることが特徴です。

  • 図1 作品を入れる前の状態のリユーザブルクレート。白色の四角いブロックは、作品固定用の四隅の支え(合板+ウレタンスポンジ)。箱の内側の四辺に沿って白く見える薄い板は断熱材。
  • 図2 リユーザブルクレートに作品を入れたところ
  • 図3 リユーザブルクレートの内箱を閉じたところ
  • 図4 リユーザブルクレート。蓋を閉じたところ。通常は立てた状態で輸送する(作品の形状や保存状態に応じて、横に寝かせた状態(平)で輸送することもある)。

図5 註を参照

このリユーザブルクレートの運用によって、箱作製にかかる使用資材や廃棄物の削減のほか、箱作製とその運搬や廃棄に伴う労働、時間、経費の削減などが見込めます。一方で最大の課題は、当館ではリユーザブルクレートを何箱も保管するようなスペースを確保できないことです。これは、当館だけではなく他の美術館でも同様でしょう(これこそが、今まで私たちが使い捨てのクレートを選択してきた理由でもあったわけですが)。この問題を解決するためには、クレートの保管場所となる倉庫を借りるといった方法が考えられますが、費用もかかりますし、環境が悪いとカビや虫が発生し、その後、使用できなくなるおそれもありますから管理が大変です。個人的にはゆくゆくは海外のように、日本でもリユーザブルクレートを専門業者が所有し、各美術館に貸し出すような運用方法へと移行することが望ましいように思います。

※現在、このリユーザブルクレート(試作版)を、当館・常設展にて公開しています(2025年1月末まで展示予定)。また、これと同タイプのリユーザブルクレートを、2024年度の「コレクション・プラス」で使用予定です。

高嶋美穂(国立西洋美術館)

図5 クレートによる効果を示す参考資料。オランダの美術館から空輸で絵画作品が返却されたときの温度・湿度変化の様子。クレート内部に収めた作品の裏側と、クレートの外側の2箇所で、温度と湿度を測定した。(輸送過程:作品を収めたクレートを美術品専門車によって現地の空港まで運び(図中(1))、旅客機に搭載した(図中(2))。成田空港到着後、美術品専門車に積みなおして当館まで運び(図中(4)、(5))、しばらく収蔵庫に保管(「慣らし」)した後にクレートを開けた(図中(6))。
クレートの外側で測定した温度・湿度(赤と濃青)は、離陸および着陸前後に特に大きく変動している。これは、航空機にクレートを搭載・荷下ろしするときに外気に晒されることや、航空機の離着陸にともなう気圧の変化などに起因するものと考えられる。一方で、クレートに収めた作品の額縁の裏で測定した温度・湿度(オレンジと水色)の変動は、小さく抑えられている。

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