はじめに
NCARトーク001では、当センターが行う「アーティストの国際発信支援プログラム」プレ事業として採択され、2023年12月9日から2024年4月30日まで開催された「タイランド・ビエンナーレ チェンライ2023」に出展したアーティスト、木戸龍介氏と島袋道浩氏をゲストとしてお迎えし、キュレーターの飯田志保子氏をモデレーターとして、ビエンナーレでの経験やアーティストが国際的に活躍するための支援についてお話を伺いました。
NCARトーク001のようす(東京藝術大学上野キャンパス芸術未来研究場にて)
タイランド・ビエンナーレについて
2018年にスタートしたタイランド・ビエンナーレは、今回で3回目。毎回タイ国内で開催地を変えて実施され、美術による地方振興の役割も担います。2023年はタイ北部のチェンライとチェンセン2都市にまたがるエリアで開催され、18の会場で21カ国60名/組のアーティストが作品を発表した他、多数の連携事業や公的・私的機関が自主的に参加するパビリオン展示が行われました。「The Open World」というテーマの下、13世紀から今日に続く、タイ北部の豊かな伝統や自然を見つめる本ビエンナーレは、幾世紀にもわたって変化と発展を遂げてきたメコン川流域の地政学、経済成長、数多くの民族が暮らす多様な地域社会、ジェンダーや人々の宗教観と信仰の変化に目を向けます。今日の世界に共通する諸問題を、国内外のアーティストと共有すると共に地域の人々に開いていくことを目指し、開催地チェンライにゆかりの深いディレクター、キュレーターを交えたチームが企画を担いました。飯田氏の報告では、こうしたビエンナーレの概要に加え、各会場の展示の様子などが紹介されました。
飯田氏のタイランド・ビエンナーレ報告は下記関連記事からもご覧いただけます。
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木戸龍介氏の報告
木戸氏からは、海外からの招へい作家としては最長となる約2ヶ月の滞在制作を通して見えた現地の状況や地元の木工職人らとの制作の様子が紹介されました。彫刻家の木戸氏は、タイの農村地域で使用されていた木造の米倉を素材とする彫刻作品をチェンライの国立公園内に展示。高床式の米倉を公園に移設した後、毎日現場に通い制作をつづけました。
アジア圏の人々の生活に欠かすことのできない「米」を貯蔵する米倉は、社会の変化と共に消えつつある存在でもあります。そんな米倉を、木戸氏はタイの農産業の移り変わりやタイ固有の土地制度や社会構造を反映する存在と捉え、作品制作を通じて、タイ社会の複雑さを様々な角度から見ていくと共に、対話や関係性構築のきっかけを見出そうとします。その背景には、作家自身がタイを訪れる中で感じた小さな違和感(美味しいご飯や安いサービスを支える労働環境や農産業構造、職人たちが置かれた社会の状況など)から生まれた作品です。
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島袋道浩氏の報告
島袋氏は、木戸氏の発表を受けて、アートには現場で見ないと分からないことがある、というお話からスタートしました。写真では伝わらない、作品がつくられたその場の環境・空気の中で、気温や風、虫の声を感じながら見ることで伝わるものがある、と。その上で島袋さんはご自身の活動を「空気をつくること」であると話します。作品を置く位置を少しずらすだけで空気が変わることを感じながら、「空間のポエム」をつくるように制作をしているという島袋さん。
今回のビエンナーレのディレクターのひとり、リクリット・ティラバーニャ氏とは、過去にも仕事をしてきた「親戚のような関係」。《Flying People》の出展はビエンナーレ側からの希望だったとのこと。本作は、人の形の凧を作り、空を飛ばすというものですが、自分の形の凧が飛ぶのを見ていると、幽体離脱したような不思議な感覚があるのだそうです。展示のオープニングとクロージングの時期にワークショップが行われ、12月の時点で約120体程度の凧を制作した島袋さん。出来上がった凧は、凧あげの後、会場の壁いっぱいに展示されました。
ディスカッション
プレゼンテーション後のディスカッションでは、国際展の主催者が申請をする当センターのプログラムについて、「アーティストが自ら資金確保に奔走しなくて良いのは助かる」「アーティストに直接支援が渡る方が、支援者の顔が見えてよい」という声や「欧米では国籍が支援対象になるかどうかの判断に影響することは少なく、支援対象を広く柔軟に設定しプロモートをしていく必要がある」「センターが必要な支援や支援の先にある成果を判断し、主体的に支援を行うことが重要」といった意見があった他、様々な地域のアーティストが一堂に会する国際展におけるアーティスト同士やキュレーター陣との交流の意義についても意見が交わされました。またタイランド・ビエンナーレの特徴として、会期中も様々なパブリック・プログラムが行われていた他、ボランティアの方々が自ら進んで、誇らしげに作品を説明する様子など、地域全体がウェルカムな印象だったことがあげられました。
ディスカッションのようす(左から木戸龍介氏、島袋道浩氏)
NCARは、「アーティストの国際発信支援プログラム」を通じて、これまで13の国際展(46アーティスト)を支援しています(2024年8月時点)。「アーティストの国際発信」事業については、こちらをご覧ください。