第3回NCARスタディ・ツアー(台湾)を実施しました

Liang Galleryでのアーティストによる展覧会ツアーの様子(左上)、C-labでの展覧会ツアーの様子(右上)、国家撮影文化センターでの集合写真(右下)
概要
国立アートリサーチセンター(NCAR)では、国内外のナショナル・ミュージアムや美術専門家間の継続的なネットワーク構築を目的として、日本で活動するキュレーターや研究者を海外に派遣する「NCARスタディ・ツアー」の第3回目を2025年10月30日(水)~11月3日(日)にかけて実施しました。
第3回目のツアーは台湾を視察対象とし、国立及び公立美術館を中心に8施設を訪問しました。日本からは、公募選考を経た6名および国立美術館の研究員2名、計8名が参加しました。参加者は10月30日から11月3日の5日間で、台北市と台中市を訪れ、台湾現代文化ラボ(C-LAB)、台北市立美術館、国家撮影文化センター、国立台湾美術館など国公立美術館を中心に様々な場所を訪れ、台湾のアートシーンを視察しました。
現地での交流
今回のスタディ・ツアーでは、訪問先などとの調整にC-LABのご協力をいただきました。ツアー初日は、C-LABにて事業内容のプレゼンや施設・展覧会ツアー、レジデンス・プログラムに参加しているアーティストとのスタジオ視察の後、C-LAB主催で、台湾の美術関係者と日本からの参加者をつなぐ懇談会が催されました。台風が近づく中での開催となりましたが、台北市内に加え近郊の都市の美術館学芸員、アーティストの方々にもご参加いただき、有意義なネットワーキングの機会となりました。2日目以降も、訪問先各館で、館長・副館長はじめ各部門のキュレーター、研究員の方々との意見交換、交流の機会が設けられ、展覧会や施設ツアーを組んでいただきました。国立台湾美術館では先進的な作品管理の仕組みを拝見し、C-LABや台中国家歌劇院ではアート&テクノロジー分野の先進事例に触れることができました。また訪問した時期は、台北市立美術館、国立台湾美術館、国家撮影文化センターなどで、日本統治時代の美術や写真記録を含む展示が行われており、近現代を専門とする参加者にとって、台湾の美術館が所蔵する貴重な作品や資料に触れる機会となりました。
今後も、NCARスタディ・ツアーの継続的な実施により、より多くの国内外の美術専門家同士が深く交流できる機会を創出し、日本のアートの国際的なプレゼンスの向上に寄与します。
※今回、台風による旅程変更の中、視察の機会を設けていただきました鳳甲美術館及びLiang Galleryの皆さま、アーティストのシュウ・ジャウェイ氏に感謝申し上げると共に、旅程変更に柔軟にご対応いただきました、台北市立美術館と台北現代美術の皆さまにお礼申し上げます。
参加者からの声
「国立台湾美術館の収蔵庫及び前室の設備面での充実が印象に残る。顔認証システムによりスタッフの入退室管理を徹底しているだけでなく、従来のバーコードによる入出庫管理に代わる作品の所在追跡機能付き収蔵庫の導入検討のお話なども参考になった。収蔵作品が年々増え続け、人的リソースも限られる中、これまでと同じ方法では作品の管理が行き届かなくなることが懸念される。このような最新技術を活用した新たな試みの進展を今後も注視したい。」(東京都写真美術館 遠藤みゆき)
「国立台湾美術館および国家撮影文化センター(NCPI)では、写真作品の収集・展示担当者と交流し、双方の活動目標や関心について意見を交わす機会を得た。とりわけ、両機関の写真コレクションの中核が台湾を代表する写真家・鄧南光に関わるものであることが明らかとなり、今後の調査における重要な手がかりとなった。加えて、鄧南光と同様に日本統治期の台湾から日本へ留学し、日本の写真表現の動向と深く関わっていた彭瑞麟をはじめとする写真家の作品も多く含まれていることが確認された。今後はこうした写真コレクションの調査・研究を通じて、歴史の交錯と台湾写真の展開について、より深く把握していきたい。」(東京国立近代美術館 小林紗由里)
「台北市立美術館の「喧囂的孤獨:臺灣膠彩百年尋道(Too Loud a Solitude: A Century of Pathfinding for Eastern Gouache Painting in Taiwan)」が印象に残った。本展は台湾の日本統治時代から現代に至るまでの「膠彩画」に焦点を当てた展覧会である。日本の「日本画」に相当するジャンルだが、台湾においてはその名称ひとつをとっても様々な角度からの議論が必要とされる。複雑な美術史の様相を優品で辿る展覧会であり、代表的な作品を網羅するとともに、幅広い鑑賞者に向けた丁寧な文脈作りが伝わってきて、近代を扱う学芸員として学ぶべきところが多い展覧会であった。」(山梨県立美術館 森川もなみ)
C-LAB(台湾現代文化実験場)は、勤務先である山口情報芸術センター[YCAM]とも共通点の多い組織と伺っており、今回スタッフの方々の案内で施設を見学できたことは貴重な体験となった。レジデンス・プログラムに参加している台湾のアーティストたちの表現が多彩で、使用している技術の範囲が広いことが印象的だった。台中国家歌劇院では若いアーティストの育成プロジェクトにアート&テクノロジー分野の先駆者をメンターとして迎えていること、国立台湾美術館でもデジタルアートの展覧会が定期的に行われているなど、文化政策の一環として、アート&テクノロジーの分野、特にVRやARといったイマーシブな表現に取り組む姿を知ることができたことが収穫だった。YCAMとして将来的なコラボレーションの可能性を感じさせる視察となった。(山口情報芸術センター 竹下暁子)
視察先リスト(行程順) | |
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1日目(出国日・台北泊) |
台湾現代文化ラボ(C-LAB)(現代美術部門ディレクター・Wu Dar-Kuen氏、各部門責任者ほか) 施設見学、展覧会ツアー、懇談会(参加者によるプレゼンテーションと交流)など
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2日目(台北泊)/台北視察 |
※台風のため旅程を変更 鳳甲美術館(Zoe Yeh ディレクター) 展覧会ツアー、意見交換など Liang
Gallery(Yu Yen-Liang・Claudia
Chen ディレクターほか) アーティストのHsu Chia-wei氏による展覧会ツアーなど
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3日目(台北泊)/台中視察 |
国立台湾美術館(Chen Kuang-Yi館長、キュレーター、レジストラー・チームほか) 台中国家歌劇院(Chi-Ping Yen副館長ほか)
各視察先で施設見学、意見交換、展覧会/作品鑑賞など |
4日目(台北泊)/自由研修日 |
※台風でキャンセルとなった2日目の予定の一部を任意参加で実施 台北市立美術館( Jun-Jieh Wang館長、広報担当ほか) 台北現代美術館( Hua-tzu Chan副館長ほか) Taipei
Nuit Blanche、Digital Art Festival Taipei(キュレーター・Hsiang-Wen Chen氏、参加アーティストほか) 各視察先にて展覧会ツアー、施設見学、意見交換など
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5日目(帰国日) |
国家撮影文化センター (台北事務所長Fu Yuan-Cheng氏ほか)
展覧会ツアー、意見交換など |
参加者リスト(姓のアルファベット順):※所属先は2024年10月出発時点のもの | |
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氏名 | 所属先(施設名) |
遠藤みゆき | 東京都写真美術館 |
小林紗由里 | 東京国立近代美術館 |
近藤亮介 | 東京藝術大学 |
南島 興 | 横浜美術館 |
宮本法明 | 国立映画アーカイブ |
森川 もなみ | 山梨県立美術館 |
能勢 陽子 | キュレーター |
竹下 暁子 | 山口情報芸術センター |