2025.06.26

2024年度第4回NCARスタディ・ツアー(オーストラリア)を実施しました

2024年度第4回NCARスタディ・ツアー(オーストラリア)を実施しました

ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館での展覧会視察の様子

概要

国立アートリサーチセンター(NCAR)では、国内外の美術館や専門家間の継続的なネットワーク構築を目的として、日本で活動するキュレーターや研究者を海外に派遣し、各々の活動や研究領域の理解を深める機会をサポートする「NCARスタディ・ツアー」の第4回目を2024年12月に実施しました。

第4回目のツアーはオーストラリアを視察対象とし、第11回アジア・パシフィック・トリエンナーレの視察を中心に、近現代美術を中心とする美術館やギャラリー、アートスペースなど11以上の文化施設を訪問しました。日本からは、公募で選出された6名(全国の美術館や研究機関のキュレーターやエデュケーター)および国立美術館所属の研究員3名、計9名が参加しました。

本ツアーは2024年12月2日から10日までの10日間、ブリスベンとシドニーの2都市にわたって実施され、クイーンズランド州立美術館/近代美術館、ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館、オーストラリア現代美術館をはじめとする公立美術館や大学美術館、ギャラリーや独立系アートスペース、市営のアーティストスタジオなど、多様な運営形態の施設を複数訪れ、オーストラリアのアートシーンを様々な角度から体験しました。

現地での交流

訪問先では、館長をはじめ、多くのキュレーターやエデュケーター、アーティストとの意見交換や交流の機会が設けられました。展覧会やコレクションのギャラリーツアーをはじめ、参加者の専門性や研究テーマに応じた専門スタッフの案内により、保存修復工房やデザイン工房、ライブラリーやアーカイブ、ラーニングに特化したスペースなど、通常は立ち入りが困難なスペースや取り組みについても、それぞれに研鑽を深めました。特にオーストラリアでは、先住民族や地域にルーツを持つ多様なアーティストの作品調査・収集・展示のあり方において、複雑な歴史的背景を踏まえた専門的な研究と実践が数十年にわたり積み重ねられており、今回訪問した各施設ならではの取り組みや直面する課題、今後の展望についても多くの知見を得ることができました。

今後も、NCARスタディ・ツアーの継続的な実施により、より多くの国内外の美術専門家同士が深く交流できる機会を創出し、日本のアートの国際的なプレゼンスの向上に寄与します。

  • オーストラリア現代美術館での交流会の様子
  • グリフィス大学美術館での作家展示解説の様子

参加者からの声

「(クイーンズランド州立美術館/近代美術館について)予算規模もさることながら、展示企画、保存修復、あるいはクレートや会場で使う看板制作に至るまでもインハウスで調達していることに衝撃を受けた。(中略)その前提として美術館に対する社会の期待度の高さが窺えた。全体を通していえることだが、美術館、大学、ギャラリー、スタジオ、インキュベーション施設など、それぞれの拠点が明確なアイデンティティを持っており、拠点同士がミッションに応じた有機的な連携を試みているように感じた。アーティストやキュレーターのキャリア形成にとっても、こうした連携はとても有効に思えた。」(沖縄県立博物館・美術館、亀海史明)

「今回面会したアーティストや視察した展覧会の多くが、APT(アジア・パシフィック・トリエンナーレ)の開催にあわせてか、パプアニューギニア系、イラン系、中華系など、非欧米出自の人物及び作品であり、「多様性」「多文化共生」に対する意識と実行力の高さが見受けられた。また、APTは、いわゆる知名度の高い=人気アーティストを呼んで話題を集めるのではなく、地道なリサーチとコミュニケーションに基づいてアジアとオセアニアのアーティストを紹介している点に、近年見た国際展の中では高い説得力とまとまりを感じた。APTは入場料も無料であり、チケット販売に左右されない展覧会のあり方が、それを可能にしていると想像した。」(横浜美術館、大澤紗蓉子)

「Art Gallery of NSW(ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館)におけるコレクション活用に感銘を受けた。自国の美術を主軸に据えつつ、欧米、アジア太平洋というレベルの異なる諸文脈を、錯綜させつつまとめ上げる方法は、大いに参照すべきものだと思うし、過去と現在を並走させ、共鳴させる構成も学ぶところが多い。異質な系譜を区別し、分けて展示することが「差別」の意識にもつながり得るのだとしたら、既存の区分を取り払い、再構成しようとする試みは効果的だと考える。」(国立国際美術館、福元崇志)

「訪問した各美術館の教育普及的な取り組みは、日本でよく言われるおもてなしやサービスなどではなく、多様な人々がミュージアムを楽しむ権利を保障するため当然行うべきことと考えられているように見受けられた。多文化社会における市民の多様性を正しく認識し、それに対応する美術館は自ずと海外からの観光客にも利用しやすい場になると思われる。今回のツアーで得た知見や考え方をまずは勤務館の職員に共有し、日頃の館の運営状況を再点検することで、より適切な対応方法について検討し、できることから実践に移したい。」(名古屋市美術館、清家三智)

  • クイーンズランド州立美術館/近代美術館でのデザイン工房視察の様子
  • ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館でのアーカイブ視察の様子
  • ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館での交流会の様子
視察先リスト(行程順)
1日目(出国日・機中泊)
2日目(ブリスベン泊) クイーンズランド州立美術館/近代美術館
 ―キュレーターEllie Buttrose氏ほか
3日目(ブリスベン泊) インスティテュート・オブ・モダン・アート
 ―Robert Leonard館長
レンシャウズ・ギャラリー
 ―Ryan Renshaw氏、展示作家Dane Mitchell氏
グリフィス大学美術館
 ―アート・コレクション・マネージャーCarrie McCarth氏、展示作家Yuriyal Eric Bridgemen氏
4日目(ブリスベン泊) クイーンズランド大学美術館
 ―キュレーターKyle Weise氏ほか
ミラーニ・ギャラリー
―Joshua Milani氏、展示作家Judy Watson氏、Megan Cope氏、Ruha Fifita、James Barth氏
5日目(シドニー泊) ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館
―シニア・キュレーターMelanie Eastburn氏ほか
6日目(シドニー泊) パラマタ・アーティスト・スタジオ
―キュレーターNithya Nagarajan氏ほか、滞在作家11名
パリ・ギャラリー
―キュレーターSehej Kaur Sehmbhi氏
アートスペース
―展示作家Tamara Henderson氏
7日目(シドニー泊) 自由研修
8日目(シドニー泊) オーストラリア現代美術館 
―シニア・キュレーターPedro de Almeida氏ほか
クリエイティブ・オーストラリア 
―美術部門長Mikala Tai氏
9日目(帰国日・機中泊)
参加者リスト(姓のアルファベット順)
※所属先は2024年12月出発時点のもの
邱 于瑄 東京都写真美術館
福元 崇志 国立国際美術館
亀海 史明 沖縄県立博物館・美術館
大澤 紗蓉子 横浜美術館
﨑田 明香 福岡市美術館
清家 三智 名古屋市美術館
新藤 淳 国立西洋美術館
田中 直子 女子美術大学研究所
尹 志慧 国立新美術館

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