はじめに
NCARトーク003では、アルル国際写真フェスティバル2024にて、「Reflection - 11/03/11 Japanese Photographers Facing the Cataclysm」展の共同キュレーターを務めた天田万里奈氏と、参加アーティストの藤井光氏、岩根愛氏をお招きしました。本展は、東日本大震災と津波、福島第一原発の事故をめぐるコミュニティの記憶や回復に焦点を当てたグループ展で、9名のアーティストが参加しました。本トークでは、キュレーターとアーティストそれぞれの視点から、展覧会のテーマに込められた思いや作品制作の背景をお話いただきました。
天田万里奈氏の報告
まず、キュレーターを務めた天田氏より、展覧会のコンセプトについてお話いただきました。展覧会のタイトルには、「大災害」を意味する「Catastrophe」ではなく、「大変動」という意味も含む「Cataclysm」という言葉が使われています。ここには、破壊や喪失だけでなく、震災と原発事故がもたらした長期的な変動に思考を巡らせ、震災から10年以上の年月を経て改めて見えてきた社会の姿を浮き彫りにするという意図があるといいます。しかし同時に、天田氏にとって、3.11の現実を数枚の写真のみで伝えることは不条理な挑戦でもありました。震災と原発事故は、目に見えない放射能による汚染や差別と格差の構造、そして戦前にまで遡る日本と原子力の関係など、数枚の写真では捉えることのできない複雑な日本社会のあり方を露わにしました。本展は、このような限界に直面しながらも、革新的な方法で写真表現に何ができるのかを問い続けてきた作家たちに光を当てる取り組みです。天田氏は、様々な危険や困難の中で撮影を続けた作家の行動力と精神力は、写真史においても重要な意味を持つこと、そしてその成果を長い写真の歴史を持つフランスで発表できたことの意義を強調しました。
岩根愛氏の報告
岩根氏は、ハワイと福島で行ったプロジェクト《KIPUKA》を発表しました。このプロジェクトは、福島からの日系移民によってハワイ・マウイ島に伝わった盆唄「フクシマオンド」を追い、マウイ島と福島県双葉町の交流の物語に焦点を当てています。ハワイ語で「新しい命の場所」を意味するこのプロジェクトでは、境界や世代を超えて育まれるハワイと福島のつながりが、溶岩が流れた後に新たな種子が広がり森が再生していくイメージと重ねられているといいます。報告の中では、岩根氏が実際に用いたハワイの日系コミュニティの古いパノラマフィルムカメラも紹介されました。岩根氏の作品では、カメラを360度回転させながら撮る伝統的な手法が用いられているといいます。2023年にラハイナで大規模な山火事が発生した際に、再びハワイに戻り山火事の跡を撮影したという岩根氏。福島とハワイを往復しながら、破壊と再生の繰り返しに焦点を当てた作品は、過去から現在、そして未来へと人々がつながっていく物語を伝えています。
藤井光氏の報告
藤井氏にとって、問題を提起し、常に新たな関心領域を作り出していくことはアーティストとしての重要な仕事であり続けてきたといいます。藤井氏は、アルル国際写真フェスティバルで、忘却の問題に目を向けた二つの作品を発表しました。2011年から2015年にかけて津波の跡を記録した《沿岸部風景記録》は、メディアによって作られた一元的な「災害」のイメージの裏で忘却されてきた、長期的な課題や社会の変動を明らかにします。もう一つの作品《あかい線に分けられたクラス》は、差別の問題を情報として「記録」するのではなく、「記憶」するにはどうしたらよいかという問いに向き合う作品です。地理的な境界線に沿って差別が発生する世界で、差別する者と差別される者のロールプレイを子どもたちが演じる様子を記録した本作品は、観る者を作品世界に巻き込み、差別についての開かれた問いを提示します。このように被災地に働きかけ続けることで見えてくる問題や、議論を重ねることで提起される新たな問題に焦点を当てた藤井氏の作品は、見るものに問いを発し、忘却や差別をめぐる問題への思考を促します。
ディスカッション
最後に、現地での反響や、国際展に参加することの意義、そして作家支援に期待することなどが議論されました。天田氏は、日本の社会に問いを投げかけるような取り組みが大きな反響を呼んだと振り返ります。国際的なアートシーンにおいて、日本の写真家は社会的・政治的なテーマを扱わないというイメージが定着しつつあった中で、日本の社会問題に切り込んだ作家の眼差しを紹介した本展は、日本のアートの新たな側面を見せる意義のあるものであったといいます。
また、岩根氏、藤井氏はともに、世界中からアート関係者が集まる国際展は、将来のプロジェクトにつながる新たな機会やつながりを獲得できる場でもあり、より多くの作家やキュレーターが国際展に参加する機会を得ることの重要性を強調しました。そのために期待される支援として、インディペンデントで活動する個人も取り込んだ支援システムを充実させること、また、作家に限らずキュレーターの支援も積極的に行うことで、国際的なアートシーンにおいて日本のアートをキュレーターの視点から、より主体的に発信することが挙げられました。
NCARは今後も、国際展での出展支援にとどまらず、アーティストおよびキュレーターの活動を多層的にサポートし、日本のアートの国際発信に貢献します。
トークの様子(左から天田万里奈氏、岩根愛氏、藤井光氏)