2024.03.13
ラーニングチャンネル舞台裏インタビュー

こども・おやこ向け鑑賞ツールができるまで|東京国立近代美術館

ラーニングチャンネル舞台裏インタビュー | こども・おやこ向け鑑賞ツールができるまで|東京国立近代美術館

話し手:藤田百合(東京国立近代美術館 企画課特定研究員)
聞き手:原泉(国立アートリサーチセンター ラーニンググループ 研究員)
構成・編集:井尻貴子

インタビューの様子(画面左上が藤田研究員)

「セルフガイドプチ&みつけてビンゴ!」、「こどもセルフガイド」ってなに?

東京国立近代美術館 (以下、「東近美」と略記)は、東京の中心部、皇居、北の丸公園、千鳥ヶ淵など、日本文化や自然豊かな環境に位置する日本で最初の国立美術館です。

美術館外観写真

今回の動画では、東近美で配布されている2つのこども向け印刷物「MOMATコレクション セルフガイドプチ&みつけてビンゴ!」(未就学児向け)と「MOMATコレクション こどもセルフガイド」(小中学生向け)が紹介されています。

見つけてビンゴ!(写真:宮澤 響(COG WORKS Co., Ltd.))

こどもセルフガイド(写真:宮澤 響(COG WORKS Co., Ltd.))

★こども向け印刷物「MOMATコレクション セルフガイドプチ&みつけてビンゴ!」と「MOMATコレクション こどもセルフガイド」について詳しくはこちら

2つのツールはどんな背景や課題から生まれた?

「MOMATコレクション セルフガイドプチ&みつけてビンゴ!」(以下、セルフガイドプチ、みつけてビンゴ!と略記)と「MOMATコレクション こどもセルフガイド」(以下、セルフガイドと略記)は、作品をよく見てもらうためのきっかけを作りたいという思いから生まれました。最初に作ったのは「こどもセルフガイド」。2007年頃のことでした。書き込み式の解説つきワークシートで、1シートにつき1つの作品を取り上げています。少しずつ枚数を増やし、現在は50種類ほどあります。6枚1セットにして配布していますが、所蔵作品展の展示替にあわせてセットの内容も変わります。

展示を観覧する小中学生に受付で無料で配布していました。美術館ではこども向けのワークショップなども行っていますが、希望したすべての方にご参加いただけるわけではなので、どうしても参加人数が限られてしまいます。スタッフがアテンドしなくても、作品をじっくりと鑑賞できる体験を持ち帰ってもらえるといいなと思ったのも、セルフガイドを作った理由の1つです。

それから、学校の授業で美術館に来館した時にも使ってもらいたいと思っています。これまで先生からセルフガイドの活用の有無を判断するためにセルフガイドがどのようなものか、問い合わせをいただくことが多かったんですが、お電話で説明しても、なかなかイメージが伝わりにくい状況でした。子どもたちが展示室でセルフガイドを使っている様子を先生たちに動画で見ていただけたことにより、セルフガイドがどういったものなのかというだけでなく、どのような学びが得られるのかも理解していただけるようになりました。実際に、セルフガイドを使っていただける機会も増えました。

セルフガイドは、個人でも、学校等の団体で来た子どもたちにも配っています。一人でも使えるし、誰かと一緒にも使えます。複数の人と使うときはコミュニケーションを育むツールにもなってほしいと考えています。たとえば、自分が書いたものを他の人に見せたり、どう思う?って他の人に聞いたり。そういう使い方もしていただけたらいいなと思います。

自分が書いたものを他の人に見せたり、どう思う?って他の人に聞いたり。そういう使い方もしていただけたらいいなと思います。

学校の先生から、セルフガイドは展示室での鑑賞時間を深めるだけでなく、事後学習でも役に立つことがあると聞いています。美術館に行くというちょっと特別な日の後、どう日常の授業につなげるか。そのときにセルフガイドで美術館体験をふりかえることができたそうです。

一方で、セルフガイドがあることで、展示室の作品ではなく、印刷されている作品の方ばかり見てしまうということもあって(笑)、本末転倒だなと思うこともあります。

セルフガイドはあくまでも、作品をよく見てもらうためのきっかけ。これ1枚で作品のことがわかるように作っているのではありません。これをきっかけにして、実際に展示されている作品をよりよく見てほしいという思いがあります。

紙版とデジタル版 どちらのよさも

実は、こどもセルフガイドはデジタル版「MOM@T Home こどもセルフガイド」も作成しています。展示室内で自分のスマートフォンやタブレット等から利用でき、家のパソコンからURLにアクセスして見ることもできます。

「MOM@T Home こどもセルフガイド」

こうしたデジタル版は、手元で、画像を拡大して見ることができますし、館としてはセルフガイドの在庫を抱えなくていいよさがあります。今、SDGSの観点からも紙媒体をどこまで残していくのかが課題となっています。そうしたことを考えたときに、デジタル版への移行は重要かもしれません。

一方で、学校の先生とお話ししていると、紙版は作品を見た「その時」に感じたことを書き留めておけるところ、また、後で振り返りができるところが魅力であるという声が多いです。あとは、持ち帰れるよさもあります。絵葉書のようなお土産にもなるので、記憶にも残りやすく、お家で今日こういう作品見たんだよっていう会話の糸口にもなるかもしれない。紙版とデジタル版、どちらもよいところと課題があり、悩ましいです。

大人向けのものはないの?

配布対象である小中学生以外の方、例えば大人の方からもセルフガイドが欲しいという声をいただくことがあります。デジタル版は、対象年齢を限定することなく、アクセスできます。

よりよく見てもらうための工夫とは

「どんな色が使われていますか?」という色に関するアプローチのセルフガイドがあります。これは見つけた色の名前を書くというものですが、多様な色を見つけても、その微妙に異なる色の名前を書くのは少し大変・・・という反省点がありました。
でも、パウル・クレー≪花ひらく木をめぐる抽象≫のカードでは、同じ問いなんですが、カードに作品の色自体を印刷することで、こたえやすくなっています。でも、デジタル版だと、使い手の端末の設定により、色が変化してしまう可能性もあります。そういう意味では、紙版であることをいかせたセルフガイドだと思っています。

色を見つけることや、色の名前を言えるようになることだけがゴールじゃないんです。
色をきっかけに、隅々まで観察するっていうところがゴールだと思っています。

でも、このセルフガイドに限らず、色を見つけることや、色の名前を言えるようになることだけがゴールではないんです。色をきっかけに、作品を隅々まで観察することがゴールだと思っています。色探しを介して、たとえば同じ黄色でも複数あるとか、あとは厚塗りのところがあるとか、そういったところに気づいてくれたら嬉しいです。

みつけてビンゴ!

セルフガイドプチとみつけてビンゴ!は、美術館に未就学児のこどもたちも来るようになり、セルフガイドの対象年齢をひろげるかたちで生まれたと聞いています。



例えば、未就学児の子と、小学生の子の兄弟がいたとしたら、同じ「まるを探そう」というテーマでも、小学生の子は作品からまるを探す、未就学児の子は、作品をじっくり見ることに慣れていないので、建物の中でまるを探すとか。作品鑑賞だけでなく、親子で一緒に美術館で過ごす時間の楽しさを味わえるようにと考えています。

小中学生向けのガイドでは「彫刻と同じポーズをとってみよう」と投げかけているんですが、未就学児向けのものでは「真似っこ遊びをしてみよう」としています。使い手が普段使う言葉や、身近な遊びに照らし合わせて伝わるようにするなど工夫しています。そもそも、セルフガイドを使いたいという気持ちになるかどうかは、「問い」にもかかわってきます。どんな言い回しの問いにするかは、対象年齢によって違ってきますし、そこが難しくもあります。

大人と子供が一緒にツールを使っている様子

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