ワールドカフェ

概要

ワールドカフェは、カフェのような空間の中で、お互いの思いや知識を共有したり、知覚を触発したりしながら、集合知を生み出す話し合いの手法です。4、5人の小グループで、メンバーを取り替えながら話し合いを続けることによって、あたかも参加者全員で話し合っているかのような効果を得ることができます。結論を出すことを目的としない「決めない会議」でもあり、1995年に米国のアニータ・ブラウンとデイヴィッド・アイザックスによって編み出され、研修や会議などでの活用が拡がってきました。指導者研修でも、平成22年度以降、この話し合いの手法を導入しています。

日程:
8月2日(火)13:10~15:00
会場:
国立新美術館 1階ロビー
目的:
参加者同士の話し合いを通して、鑑賞教育の目的や課題を再確認するとともに、情報交換や将来の連携のきっかけづくりの場を提供する。
方法:
参加者(事例報告者、ファシリテーター、スタッフ、インターンを含む)は、地域(今回は北海道から鹿児島まで)ごとに4、5人ずつ、29卓のテーブルに着席。テーブルには模造紙が敷かれ、マーカー、飲み物、菓子、「カフェのマナー」カードが用意されている。メンバーは与えられたテーマについてテーブルで話し合い、メンバーを替えながら4ラウンドにわたって話し合いを続け、各々の考えや思い、意見を共有・交換する。
司会:
一條彰子(東京国立近代美術館 企画課教育普及室長 主任研究員)
講評:
三澤一実(みさわ かずみ|武蔵野美術大学教職課程研究室 教授)



  • カフェのような開放的空間

  • 文章を書いても絵を描いてもよい

  • ラウンドごとに席替えを行う

  • 既存のメモに新たに書き加えていく

  • 熱心な意見交換が続けられた

  • 模造紙いっぱいに書かれたアイデア

  • 得られたアイデアや提案を発表

  • 印象に残った言葉などを書き出す

  • 付箋紙を模造紙の自由な位置に貼る

  • アイデアの数々が貼り出された

活動の詳細

ラウンド1
「あなたの心に残っている鑑賞体験はどんなものですか?──とくに6歳から18歳までの体験を思い出してみましょう。それは、いまのあなたにどんな影響を与えましたか?」というテーマについて20分間、オープンに話し合います。模造紙には、自由にキーワードなどを書いたり、イラストを描いたりします。
ラウンド2
テーブルごとに1名のテーブルホストが残り、ほかのメンバーは、旅人として別のテーブルに自由に移動します。 テーブルホストは新たな旅人に対し、模造紙に書かれたメモをもとに、ラウンド1で話し合われたことを簡単に説明し、旅人も自分のテーブルで出たアイデアを紹介します。その後、新しいテーマ「小・中・高を通して育む〈鑑賞の力〉とはなんでしょう?」をテーマに20分間、話し合います。
ラウンド3
テーブルホストは残り、旅人は再び別のテーブルに移動します。ラウンド2のテーマに加えて、新たなテーマ「そのために、私たちはなんの役に立てるでしょう?」について20分間、話し合います。
ラウンド4
旅人は最初のテーブルに戻り、旅先で得たアイデアなどを紹介します。引きつづき、「そのために、私たちはなんの役に立てるでしょう?」について話し合い、気づきや発見を統合します。
全体セッション
ワールドカフェで得た気づきやアイデアについて、数名の参加者が発表し、全員で振り返ります。最後に、講評をいただきます。
沈黙の時間
講評のあと、ワールドカフェの感想や印象に残った言葉、研修後に実行したいと思っていることなどを付箋紙に自由に書き、貼り出して終了します。

講評

三澤一実(武蔵野美術大学教職課程研究室 教授)

印象的だったのは、みなさんの笑顔がいちばん見られたのがラウンド1で、最も真剣な顔つきをしていたのがラウンド4だったことです。ラウンド1は自分を語るテーマでしたから、自分自身の話を聞いてもらうことで、笑顔になったのではないでしょうか。話を聞いてもらえるという体験が、まずは重要だと思いました。 また、このプログラムでは、最終的に、各テーブルに作品が生まれました。それぞれの思考の過程がコラボレートして、言葉と絵によって表された作品です。ひとつとして同じ物はありませんし、それぞれ違う個人の考え方を存分に発揮しながら、楽しい社会をつくっていこうとする対話の構造で、これこそが美術教育ができることなのではないでしょうか。
私たちは、現実に何ができるか。そして、いまは頭の中にあるものを、いかに現実に存在させるか。その思考法のひとつとして、ワールドカフェは有効でした。私たちは創造的な活動を担っている美術の教員ですから、ここで議論した内容を、新しい鑑賞方法として見えるかたちで実現していけば、新しい文化を生むこともできるのではないかと思います。