2024.03.13
ラーニングチャンネル舞台裏インタビュー

常設展のセルフガイドができるまで|国立映画アーカイブ

ラーニングチャンネル舞台裏インタビュー | 常設展のセルフガイドができるまで|国立映画アーカイブ

国立映画アーカイブ外観

話し手:玉田健太(国立映画アーカイブ研究員)
聞き手:原泉(国立アートリサーチセンター ラーニンググループ 研究員)
構成・編集:井尻貴子

国立映画アーカイブ(NFAJ)は、日本で唯一の国立の映画専門機関です。映画の保存・研究・上映を通して映画文化の振興をはかる拠点として、さまざまな活動を行なっています。
国立映画アーカイブ ウェブサイト

常設展「日本映画の歴史」では、多様なコレクションを時代ごとに展示することで、映画人・撮影所・映画技術・広報宣伝・映画と社会の関わりといったさまざまな側面から日本映画の歴史的な流れをたどることができます。
今回は、この常設展をさらに深く知るための学びのツール「NFAJセルフガイド」について、担当スタッフにその舞台裏を伺いました。

インタビューの様子(画面右上が玉田研究員)

どうしてセルフガイドをつくったの?

現在、当館では、中学生以下の来場者に「日本映画の歴史」「映画ってどうやって撮るの?」「どんな動物がいるかな?」「映画ってどうやって上映するの?」という、4種類のセルフガイドを配布しています。

★「映画ってどうやって撮るの?」、「どんな動物がいるかな?」、「映画ってどうやって上映するの?」は、ウェブサイトからダウンロードも可能です。

以前からセルフガイド「日本映画の歴史」はありましたが、書き込み式のものを2023年度に追加しました。書き込み式のセルフガイドを作ったのは、常設展を能動的に見て回ることを通じてこどもたちが映画に興味をもって、もっと知りたいと思うひとつのきっかけになってほしかったからです。2024年度からは「映画ってどうやって上映するの?」も追加します。

例えば「どんな動物がいるかな?」というテーマがあることで、何かを注意深く見るとか、自分で発見する楽しさを味わってもらえたらいいなと考えています。一見すると遊びのように見えるかもしれませんが、隅々まで見るということは、映画の見方の一つとしても重要だと思います。そのように、文脈にとらわれず自由に、細かいところまで展示を見てもらいたいという思いから、こうしたセルフガイドを作りました。これを通じて、ゆくゆくは日本映画の歴史にも興味をもってもらえればと思います。

映画ってどうやって撮るの?①

映画ってどうやって撮るの?②

どんな動物がいるかな?①

どんな動物がいるかな?②

実際に配り始めたら、皆さん、夢中になって使ってくださっていて。床に座り込んで自分が展示室で見つけた動物の絵を描いていたり、カメラの数を数えて「9個見つけたけれど、正解ですか?」と尋ねてくれたり。楽しんでくれていてとても嬉しいです。

映画のフィルムカメラって?

映画をフィルムを使って撮影するための機材です。動画で紹介しているのは、1910年代から実際に使われていたカメラで、ウィリアムソン式和製撮影機といいます。常設展で展示しているのですが、普段はその中の機械の動きまでは見ることはできません。ですので、今回セルフガイドの紹介動画を制作するにあたって、カメラの仕組みも紹介しようと思いました。どこにフィルムをセットして、どうやって撮影していたのか。中の機構を見せながら解説しています。

これは、カメラに関心のある大人からも、楽しいと言っていただいていて。大人が国立映画アーカイブに行こう、子どもも一緒に行こうとなって、一緒に1日楽しんでもらえたらいいな。その子どもたちが高校生、大学生となっても、展示や上映を見に来てくれたら、我々としてはとても嬉しいです。

ウィリアムソン式和製撮影機

国立映画アーカイブ常設展ならではの、ユニークな点って?

多くの美術館で、メインで展示されているものは、作品だと思います。
しかし、国立映画アーカイブの常設展で展示されているものの多くは映画作品ではなく、映画関連資料です。たとえば、カメラや映写機といった機材や、撮影台本やセット・デザイン図といった製作に関するもの、また、サイレント映画時代の弁士の番付表や、宣伝のためのポスターなど興行に関するもの、さらに戦前の「内務省映画検閲 検印」など社会と映画の関係を伝える資料まで様々です。そこが、国立美術館の一館でありながら、他館と異なる点です。

このように一本の映画が完成し、上映されるまでには多くの人とプロセスが関わっています。映画を見ているだけではわからないことを伝えてくれる資料は、映画と同じくらい重要で、奥深いものなのです。

ですので、常設展のセルフガイドはこどもたちに「どうやって作品ではなくて資料を楽しく見てもらうか、資料を通して日本映画やその歴史に関心をもってもらうか」というテーマで制作しました。「映画ってどうやって撮るの?」のセルフガイドで「カメラの数を数えてみよう」という呼びかけをしているのも、そういった考えからです。作品解説を聞きながら展示作品を見るという一般的なギャラリーツアーとは違う内容を意識しました。

国立映画アーカイブにはどんな人が来るの?

企画にもよりますが、普段の来館者の年齢層は高めで、シニアの方も多く来られています。子どもたちに向けた企画としては、「こども映画館」、「V4中央ヨーロッパ子ども映画祭」ですね。

V4は、ヴィシェグラード4カ国(V4:チェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキア)のこと。それらの国のアニメーションを日本で見ることのできる、貴重な機会になっていますよ。

それから、一般社団法人コミュニティシネマセンターさんとの共催で、巡回事業「こども映画館 スクリーンで見る日本アニメーション!」も開催しています。公民館や色々な場所を会場にして、上映会をするんです。映画館のない地域に住んでいる人や、国立映画アーカイブに来ることができない人にも、映画を見る機会を届けたいと思っています。



ほかにも、当館と国立情報学研究所が構築した「日本アニメーション映画クラシックス」というウェブサイトでは、日本の初期アニメーション映画64作品を公開しているんですよ。

こども映画館

当館では、中学生以下を対象に、毎年夏休みの期間に「こども映画館」というイベントも開催しています。

*こども映画館で行なっているサイレント映画上映の特徴と面白さについて、紹介しています(NFAJ Youtubeチャンネル

「こども映画館」の上映後には、映写室に入れる人数には限りがあるためじゃんけん勝ち抜き制ですが、映写室の見学も行っています。映画を見て、映写室も見て、セルフガイドを手に展示室でカメラなども見て、といったように、スクリーン上に映画が映し出されるまでの道のりを追うことができるようになっていると思います。

フィルムで見るということ

当館は「フィルムで当時公開された映画は、フィルムで上映する」ということを基本に考えています。これは「こども映画館」でも変わりません。なぜなら、フィルム特有の粒子感や、階層豊かな明暗や色合いによる細やかな表現があるからです。製作者の公開当時の意図にできる限り近い形で、みなさまには映画を楽しんでいただきたいと思っています。

それから、「こども映画館」はみんなで一緒に映画を見る機会です。今は、こどもたちも一人で、スマホの画面等で見ることが多くなっていると思いますが、だからこそ、映画をみんなで集まって見るっていう経験ができる場、その面白さを味わえる場をつくっていきたいなと思います。

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