2025.05.19

企業・団体向けアートプログラム 【協働型プログラム】
社会課題に対する企業・団体と美術館の取組み

社会連携促進グループ 北村麻菜

企業・団体向けアートプログラム 【協働型プログラム】社会課題に対する企業・団体と美術館の取組み

国立アートリサーチセンター(NCAR)では企業・団体向けに提供するアートプログラムを2種類用意しています。ひとつは「参加型」としてNCARと国立美術館の各館が企画するプログラムにご参加いただくもの、もうひとつは「協働型」としてNCAR・各館と企業・団体の方がともにプログラムを企画・開催するものです。
NCARは2024年、社会課題に対して美術館には何ができるかということを考え、国立西洋美術館・国立新美術館と、外部の団体の方々とともにそれぞれ2つの取組みを実施しました。美術館と企業・団体が、両者のリソースを活用して作った、協働型のアートプログラムの一例としてご紹介いたします。

1. 社会課題に対し、美術館の社会連携を通じてできることを考える

NCAR社会連携促進グループでは、「美術館の社会連携」という枠組みの中で、社会課題に対して美術館に何ができるのかを問い続けています。さまざまな課題に、美術館単体ではできることは限られるかもしれません。しかしながら、美術館以外の企業・団体の方々と連携しながら取り組むことで、美術館が今まで以上に力を発揮できることがあるのではないかと考えています。

まず私たちが課題として捉えたのは、子どもたちの「体験格差」についてです。昨今、色々な事情で、子どもたちの間で体験格差が生じていることが指摘されています。美術館に行きアートに触れる体験を持つことについても、格差が生じてしまっているのではないかという問題意識を持つようになりました。

2. 国立西洋美術館×NCARの取組み

NCARだけでなく、国立美術館全体でも同じ問題意識を持ち、取組みを行っている館が複数あります。たとえば国立西洋美術館(以下、西美)では、2023年からオフィシャルパートナーである川崎重工業株式会社の提供で、西美の所蔵作品(常設展)の無料観覧日“Kawasaki Free Sunday”を実施し、アートを鑑賞する機会を平等に広く提供しています。

そこでNCARは、西美には“Kawasaki Free Sunday”をはじめとする常設展無料の日があること、そして高校生以下は常設展が常に無料であることを広く伝え、より積極的に活用していただけるよう、子どもたちが手に取りやすくご家庭で読みやすいチラシを西美と共に作成しました。
このチラシを国立西洋美術館が位置する台東区と上野の山文化ゾーン連絡協議会のご協力のもと、台東区内の施設と小学校に配架していただくことができました。

3. 認定特定非営利活動法人Learning for All ×国立新美術館・NCARの取組み

また、国立新美術館(以下、新美)でも、子どもの体験格差を関心事として捉えていました。館職員の有志が中心となって、子どもを取り巻く貧困、虐待、不登校といったさまざまな問題に対して活動を行っている認定特定非営利活動法人Learning for All (以下、LFA)からレクチャーを受けるなどコミュニケーションを積み重ねていました。
NCARはこの動きにも共感し、LFA・新美・NCARの3者で具体的な動きとして実現させるべく、プログラムを組成したのです。

「子どもたちの美術館デビュー応援プログラム」の実施

2024年3月、新美とNCARは、LFAが子どもたちの居場所として提供している活動拠点に通う子どもたちとその家族を新美に招待し、春休みの一日を美術館で過ごしながら、展覧会の鑑賞とワークショップを体験する「子どもたちの美術館デビュー応援プログラム」を実施しました。
NCARでは、参加者である子どもたちが美術館へ移動するために、各地のLFAの拠点から新美までのバスを用意し参加者を受け入れました。
到着後は、新美教育普及室のスタッフが子どもも大人も楽しめる缶バッジづくりのワークショップを実施、そのほか開催中の展覧会を、音声ガイドを聞きながら鑑賞していただきました。
同時に、一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパンのご協力も得て、美術館による子ども向けのプログラム、そして社会課題に対する取組みに関心のある企業の方にもご見学いただく機会を設けました。

★プログラムの概要はこちらのイベントページをご覧ください。
(https://ncar.artmuseums.go.jp/events/socialcooperation/corporatepartnerships/cooperativeprogram/post2024-2294.html)

LFAの中で参加者を募集した際には、大変ありがたいことに、多くの方から参加希望があったといいます。また、参加した子どもたちからは、美術館に来るのははじめてだったという声がいくつも聞かれました。美術館をはじめて訪れる子が多いことに関して、各拠点から参加者の引率をしてくださったLFAのスタッフの中には、不安に思われていた方もいらっしゃったようです。それでも終了後には、「展示室で他のお客さんの様子を見て自然とたたずまいを学んでいるようだった」、「お気に入りの絵を見つけて眺めていた」、「ワークショップでは、それぞれ考えたりこだわりを見せたり楽しんでいる様子が嬉しかった」という感想をお寄せいただきました。
美術館という場だからこそできる、自由に感じ表現するという経験は、参加した子どもたちや家族にとって思い出に残る出来事となったのではないでしょうか。今回の美術館デビューをきっかけに、参加した子どもたちや家族が、アートや美術館を今後も近しい存在と思ってくださることを願ってやみません。

4. 社会課題に対する協働型プログラムへの期待

私たちNCAR社会連携促進グループでは、子どもの体験格差の問題に限らず、SDGsやさまざまな社会課題に対して美術館が企業・団体の方々と連携して取り組むことを、これからも推進していきます。また、企業・団体の方々だけではなく、国立美術館以外の美術館・博物館とも一緒に取り組めるような枠組みができれば、より大きな波及効果をもたらすことができるかもしれません。
美術館の在り方への期待が多様化しているなか、連携の形を積極的に試行錯誤し、社会における美術館の可能性を拡張していきたいと考えています。

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