事例紹介+ワールドカフェ 前半

日時:
8月1日(火)9:30~11:25
会場:
京都市勧業館みやこめっせ 地下1階大会議室
事例発表:
「〜本物との出会い〜 子どもが見て・感じて・楽しくなる 美術館を活用した鑑賞」
村中誠士(京都市立花園小学校 教諭)
「京都国立博物館 京都文化協会と進める美術科鑑賞教育」
湯口みゆき(京都市立洛北中学校 教諭)
ワールドカフェ:
ラウンド1
ラウンド2
方法:
参加者(1日目グループワークのファシリテーター、サブファシリテーター、インターン等を含む)は、地域(今回は北海道から沖縄まで)ごとに約5人ずつ、20卓のテーブルに着席。テーブルには模造紙が敷かれ、マーカー、飲み物、菓子、「カフェのマナー」カードが用意されている。メンバーは、2件の事例発表を聞いた後、与えられたテーマについてテーブルで話し合う。話し合いはメンバーを変えて前半では2ラウンド行なわれ、それぞれの考えや意見を共有・交換する。
司会:
真住貴子(国立新美術館 学芸課 教育普及室長・主任研究員)
吉澤菜摘(国立新美術館 学芸課 研究員)

事例発表

「〜本物との出会い〜 子どもが見て・感じて・楽しくなる 
美術館を活用した鑑賞」

村中誠士(京都市立花園小学校 教諭)


事例発表要旨:以下は村中氏の発表を大幅に要約・再構成したものです(編集部)

子ども美術館鑑賞教室

今日は、2015年10月17日(土)に実施された「子ども美術館鑑賞教室」についてご紹介したいと思います。京都国立近代美術館を会場に、小学校3年生から6年生の計43名が参加、スタッフは京都市図画工作教育研究会、美術館研究員など約12名でした。

当日のタイムテーブルに沿ってお話しします。まず最初に、アートカードを使用したアイスブレイキング アートゲームで「名探偵ゲーム」をしました。子どもたちが打ち解け、よいウォーミングアップになったと思います。続いて、鑑賞マナーについての話をしました。子どもたちにとって、美術館を知る良い機会になったように思います。

その後、4階のコレクション・ギャラリーに移動して4グループに分かれ、実際に作品の鑑賞を行ないました。最初は「立ち止まって鑑賞」。ファシリテーターが選定した作品の前で、思い思いの質問や感想などを自由に話し合う形式です。選定されたのは、佐藤敏、水越松南、ドミニク・ゴンザレス・フォルステルの作品。グループ内の友人やファシリテーターとの会話により、子どもたちはさらに打ち解け、楽しむようになっていきました。

続いて、3階の企画展示室に移動し、特別展「琳派イメージ展」での「歩いて鑑賞」を行ないました。ここでは、図画工作研究チームによって子どもたちがより楽しんで鑑賞できるように、予め「モチーフを見つけよう」というテーマが考えられていました。琳派の作品を、草花や水紋や動物のモチーフを見つけながら鑑賞し、子どもたちは様々な発見をしていました。

「歩いて鑑賞」終了後は、子どもたちが保護者や友だちと思い思いに鑑賞する「自由鑑賞」を経て、感想を述べ合う10分間の交流会で終了となりました。「楽しみながらいろいろ学べた」「いままで美術に関心がなかったが、こんな絵が書いてみたいと思ったり、意味を考えたりしました」「いろいろな美術館に行ってたくさんの作品をみてみたい」などの活発な感想が寄せられました。

所感

今回のように美術館と連携したことは、非常に発展的でした。美術館を美しいものや本物に触れられる場所としてのみ捉えるのではなく、友人たちとのコミュニケーションを通して、新しい考えに触れたり、気づきを得る場所としても捉えることができるようにするのが、この鑑賞教育ならではの成果かもしれません。「図工の時間でもこの経験をいかしたい」という子どもの感想があったように、美術館での体験と学校の授業、その相互の関係を築きながら、今後も取り組みを進めていくことに大きな意味があると考えています。


* * *

「京都国立博物館 京都文化協会と進める美術科鑑賞授業」

湯口みゆき(京都市立洛北中学校 教諭)


事例発表要旨:以下は湯口氏の発表を大幅に要約・再構成したものです(編集部)

文化財ソムリエ授業

文化財ソムリエ授業とは、京都国立博物館と京都文化協会が共同で京都市教育委員会の協力のもとに行なっている事業で、平成21年度に始まりました。京都市内の小中学校を対象とした訪問授業です。授業では凸版印刷のデジタルアーカイブ技術による高精細複製品を使い、博物館でスクーリングを受けた大学生・大学院生の「文化財ソムリエ」が講師を務めます。

2011年11月28日、蜂ケ岡中学校で1年生200名以上を対象に文化財ソムリエ授業を行ないました。俵屋宗達の「風神雷神図屏風」の高精細複製品を使ったものでした。京都大学院生、同志社大学院生6名が交代で講師を務めました。小さな教科書を見ながら構図などを説明し、ゲームをしたのですが、作品をじっくり観ることができませんでした。ソムリエたちも慣れていないせいで声が小さく、子どもたちがざわざわしてしまいました。子どもたちの心をつかむ演出ができていなかった。つまり失敗の回です。

私は、授業の形体・内容の再検討をしました。そして、小さいサイズの複製を使うよりも、デジタル技術による本物のサイズを実現した模造品を教材として使い、子どもたちがじっくり作品を観ることができるようにしたいと考えるようになりました。

2016年6月、洛北中学校での文化財ソムリエ授業

こうした反省を踏まえ、2016年6月7日、8日に洛北中学校で文化財ソムリエ授業を実施しました。対象は1年生約280名、講師は京都大学院生、同志社大学院生・大学生の6名でした。鑑賞した作品は俵屋宗達の「風神雷神図屏風」です。このときは美術室に暗幕をひき、じゅうたんを敷き、教室内を暗転にし行灯の光のもとでの鑑賞ができるようにする演出をしました。また8クラス、のべ8回にわたり本物の金箔を見せました。スライドや画像も使用し、構図、見るときの光の違い、色などの話をソムリエにしてもらいました。子どもたちはソムリエの話を聞きながら、かなり集中して見ることができたと思います。

今後の展望など

京都の街では、大丸京都ウインドウで伊藤若冲「樹花鳥獣図屏風」や狩野永徳の国宝「上杉本 洛中洛外図屏風」の高精細度作品が展示されるなど、凸版印刷のデジタルアーカイブ技術を日常で目にする機会があります。今度もこの技術を利用して、さらに充実した鑑賞教育授業ができるのではないかと思っています。京都には「古いもん」と「新しいもの」があります。それは伝統と革新が同時に存在することです。人と人の生の対話がなければ、このふたつを伝えていくことはできないと思います。私は中学教師として、「面授」という言葉の大切さを感じております。


ワールドカフェ


  • 4、5人でテーブルを囲む

  • 話し合いが始まる

  • ラウンド毎に席替えを行なう

  • 机上の模造紙に書き加えていく
ラウンド1
「鑑賞体験が子どもにもらたすものは何でしょう?」というテーマについて20分間、オープンに話し合います。テーブルの模造紙には、自由にキーワードや気づきを書きます。
ラウンド2
テーブルごとに1名のテーブルホストが残り、ほかのメンバーは旅人として別のテーブルに移動します。ひきつづき「鑑賞体験が子どもにもらたすものは何でしょう?」というテーマについて、テーブルホストは新たな旅人に対して模造紙に書かれたメモをもとに、ラウンド1で話し合われたことを簡単に説明します。旅人も自分のテーブルで出たアイデアを紹介しながら、20分間、話し合いを深めます。