事例紹介+ワールドカフェ 後半
- 日時:
- 8月1日(火)13:00~14:55
- 会場:
- 京都市勧業館みやこめっせ 地下1階大会議室
- 事例発表:
- 「『高校の美術でできること』~次世代育成の協働の形とその効果について~」
山崎仁嗣(滋賀県立膳所高等学校 教諭) - 「山口情報芸術センターが展開するメディアリテラシー教育 — 自分で探す視点、自分で深める思考 — 」
朴鈴子(山口情報芸術センター YCAM エデュケーター)
- ワールドカフェ:
- ラウンド3
ラウンド4 - 方法:
- 参加者(1日目グループワークのファシリテーター、サブファシリテーター、インターン等を含む)は、地域(今回は北海道から沖縄まで)は昼食前に座っていたテーブルに着席。メンバーは、2件の事例発表を聞いた後、与えられたテーマについてテーブルで話し合う。話し合いはメンバーを変えて2ラウンド行われ、それぞれの考えや意見を共有・交換する。その後全体セッション、講評、沈黙の時間を経て終了した。
- 司会:
- 真住貴子(国立新美術館 学芸課 教育普及室長・主任研究員)
吉澤菜摘(国立新美術館 学芸課 研究員)
事例発表
「『高校の美術でできること』
~次世代育成の協働の形とその効果について~」
山崎仁嗣(滋賀県立膳所高等学校 教諭)
事例発表要旨:以下は山崎氏の発表を大幅に要約・再構成したものです(編集部)
連携授業について
膳所高校は琵琶湖の近くにある文武両道の学校です。私がこの学校で「美術で何ができるか」を考え、実践していることをお話します。本校の美術の授業は、まだ見ぬ世界と様々なつながりを知る中で、生徒が主体的に感じ、考える活動を目指しています。今回は、本校で2006年から実施している校外の美術館等との「連携授業」の中から、2年次の美術Ⅱ(週1時間)で行なう2つの事例を紹介します。文化の理解と考察を体験によって深める「鑑賞」の授業です。
「利休と茶道~その形と心に学ぶ~」(全10時間)
1年次の基礎編を経て、2年次は発展編として茶道の精神性や千利休の美意識をさらに深く学びます。授業には、美術館学芸員、陶芸家、京菓子司、茶道家など専門家を招き指導して頂きます。講話、黒楽茶碗や花入の制作、生徒どうしで茶碗に銘をつけ合い、御菓子制作と花活けの体験、生徒が制作した茶碗とデザインした御菓子を用いた御茶会を行ないます。知識を実体験で確かめ、「知る」とは何かを考えます。
「アール・ブリュットを知り、考える」(全16時間)
アール・ブリュットを題材として、さまざまな視点からものを見ること、多様な考え方を知り、尊重することを学びます。まず、新聞記事や論文を読んで各自の問いを立て、立場の異なる関係者(研究者・学芸員・福祉施設職員・文化行政など)から話を聞きます。実物作品を用いた対話型鑑賞、生徒どうしの話し合いを経て、各自が考察を深め小論文にまとめます。自分の偏っていた見方に気づいたり、考え方の変化を省みる記述も見られました。
高校生と美術の授業
茶道とアール・ブリュットの授業には、生徒の活動には「自分で確かめ考える」「多様性を尊重する」こと、内容的には様々な「つながりを知り」、その時代の常識や価値観への「批判的な思考」という共通点があります。これらは、これからの社会を生きるために必要な「対話する力」にも通じます。生徒の感想には、文化芸術への見方が広がったことで将来の自分との関わりを想像したり、講師の先生がご自身の専門や仕事を熱く語り、授業に協力して下さる姿を見て「自分はどう生きるのか」を考えたものもありました。滋賀では、美術館等地域の人的資源を活かした次世代の育成が「学校」で行なわれています。これからも高校生を、本物の文化芸術や、何が大切かを語って頂ける人々に直に会わせ、共に育てていきたいと思います。
「山口情報芸術センターが展開するメディアリテラシー教育
— 自分で探す視点、自分で深める思考 — 」
朴鈴子(山口情報芸術センター YCAM エデュケーター)
事例発表要旨:以下は朴氏の発表を大幅に要約・再構成したものです(編集部)
山口情報芸術センターについて
山口情報芸術センター[YCAM]は、情報化社会を背景に作られた新しいスタイルのアートセンターです。扱うのは主にメディアアートと呼ばれるジャンルで、絵具や土などと比較すると新しいメディアと言える、現代のテクノロジーを表現に応用しています。視覚だけにとどまらない体験的な作品も多いことが特徴のひとつで、非常に広範囲の表現が含まれています。そういった作品には鑑賞のサポートが重要な役割を果たします。YCAMは公共の文化施設では珍しく専任のエデュケーターが4名もおり、来館者をサポートする教育普及コンテンツを日々模索しています。
YCAMは、アーティストとともにインスタレーション作品などを制作し、委嘱作品として発表していますので、いくつかご紹介します。
《GRAVICELLSー重力と抵抗》は、三上晴子+市川創太による、重力と空間のつながりを体感する作品です。
作品空間に人が入ると、重力がかかった部分に波紋が広がり、その変化がリアルタイムで映像や音に変換されていきます。
池田亮司の《SUPERSYMMETRY》という作品です。
彼は先端的な電子音表現とインスタレーションで知られる作家ですが、この作品は、量子力学や量子情報理論を美学的に解釈して新たな構想を展開したインスタレーションです。
パフォーミング・アーツもYCAMが紹介する主なジャンルです。
梅田宏明《HOLISTIC STRATA》は、ダンサーの体につけられたセンサーからの情報をもとに背景の光粒子と音が変化し、ダンサーのみならず周辺の効果と照らし合わせながら鑑賞できるダンス作品です。
オリジナルワークショップの制作
作品を紹介するのみならず、作品制作も行なっている私たちの活動は「創り出す、発信する、普及する」と言えます。鑑賞教育はこのうち「普及する」に属し、これまでギャラリー内での鑑賞プログラムなど、作品と直接向き合うプログラムを行なったこともあるのですが、YCAMが扱うジャンルには、感想を共有する対話による鑑賞の行程がうまく調和しない例が多々ありました。色々と模索した結果、現在はオリジナルワークショップが1つの方法として提案できると思っています。オリジナルワークショップには3つのテーマがあります。「情報化社会を理解する」「自分の身体を理解する」「最新メディアテクノロジーを理解する」というテーマのもと、これまでに15くらいのワークショップを開発してきました。人間の知覚の特性を知り新しい概念に触れることで、メディアアートのような新しい表現にも自分の意見をもつ鑑賞者が増え、対話が生まれることを期待しています。今後の課題は、一定の指針をもって効果測定をしていくことで、オリジナルワークショップの意義を見出していきたいです。YCAMの取り込みを、鑑賞教育を考えるためのひとつのエッセンスとして捉えていただければ幸いです。
ワールドカフェ
- ラウンド3
- 昼食をはさんで始まった後半では、参加者は昼食前に座っていたテーブルに着席し、2つの事例発表を聞きました。発表終了後、「あなたができる『社会と連携した鑑賞活動』は何でしょう?」という新たなテーマについて、20分間、これまでに得た情報をシェアしながら話し合います。
- ラウンド4
- 参加者は最初のテーブルに戻り、ラウンド2、3で得たアイデアや情報を紹介しながら、メンバーそれぞれの気づきや発見を統合し、つながりを探求します。
- 全体セッション
- ワールドカフェで得た気づきやアイデアについて、数名の参加者が発表し、全員で振り返ります。その後、各ラウンドの話し合いのテーマ設定を担当した奥村高明 聖徳大学児童学部長・教授より講評をいただきました。
- 沈黙の時間
- 講評の後、参加者一人ひとりが話し合いについてふり返る「沈黙の時間」を設けました。そして、ワールドカフェの感想や印象に残ったキーワード、研修後に実行したいと思っていることなどを各自が付箋紙に自由に書き、貼り出して終了します。