グループワーク

日程:
7月31日(月)
グループワーク:10:50~12:30、13:30~16:00
グループワークの成果発表:16:15~17:30
会場:
京都国立近代美術館 4階コレクション・ギャラリーおよび1階展示ロビー
発表:
小学校対象
藤田・小野グループ、今井・東上グループ、西村・中西グループ
講評:奥村高明(聖徳大学  児童学部長・教授 芸術学博士)
進行補助:杉浦央子(国立西洋美術館学芸課 研究補佐員)
中学生対象
渡邉・若狭グループ、乾・濱脇グループ、松永・岡グループ
講評:山田一文(戸田市立美笹中学校 校長)
進行補助:山中悠(国立国際美術館学芸課 研究補佐員)
高校生対象
星・寺島グループ、三澤・林田グループ
講評:長田謙一(名古屋芸術大学美術学部・同大学院 教授)
進行補助:荒井美月(東京国立近代美術館企画課 研究補佐員)

概要

12年前に指導者研修がスタートしたときから、グループワークはこの研修の核です。今年も80名以上の受講者が8グループに分かれ、京都国立近代美術館で展示中の所蔵作品を対象に、約4時間かけて鑑賞活動を行ないました。この活動の目的は、児童・生徒のための鑑賞教育の検証にあります。しかし、いきなり雛型を作ってしまうのではなく、まずは指導者である受講者自身が実作品を前に鑑賞を体験することによって、子どもたちの内面に起こりうるさまざまな変化を想定しやすくしようとするものです。また、グループメンバーの考えに触れることで、鑑賞の多様性を認識し、それを共有することで広がる鑑賞教育の可能性を実感されたことと思います。
ワークのまとめとして、今年は小学校3グループ、中学校3グループ、高校2グループに分かれて作品の前で成果発表を行ないました。ファシリテーターによるオリジナリティあふれる進行をベースに、受講者の個性が反映された発表から、充実した活動の様子がうかがわれます。 なお、昨年に続いてかつての受講者の再受講も可能としました。


小学生対象

概要

藤田・小野グループはマルセル・デュシャンの《泉》を取り上げ、「身近なものが作品になる驚き」を大切に、3チームに分かれて授業案作りを行ないました。
今井・東上グループは、《型染鯛文着物》と《変織縮緬訪問着 花》を題材に、2チームに分かれて鑑賞の導入に工夫を凝らした授業案を考えました。
西村・中西グループは麻田浩の絵画3点について、3チームに分かれて授業案を作成。「自分だけが見つけたもの」「もの、場所、気持ちを発見しよう」「いきものを見つけよう」というテーマの授業案を作成しました。
最後の講評では、奥村先生がグループワーク見学を通して導き出したキーワードをホワイトボードに書き出し、それを基に各授業案について感想や意見を話していただきました。(杉浦央子)

講評(要旨)

奥村高明(聖徳大学 児童学部長・教授 芸術学博士)

「講評」ではなく、一参加者として感じたことを述べたいと思います。藤田・小野グループは学びの「道具」としてカメラを効果的に使っていました。レディメイドという主題を扱っていましたが、小学校では難しいと思われがちな「文脈」をとりあげることは可能だと思いました。今井・東上グループが行なっていた対話型鑑賞のアクティビティは興味深いものでした。「主体的・対話的で深い学び」というのは学び方の問題であり、主体性が確保された学び方をしないといけないし、対話的というのは多様な資源や新たな素材を取りだしながら行なうものだと感じました。西村・中西グループは「問い」の問題を扱い、「鑑賞活動」、美術館という「制度」についてもさまざまなことを考えさせられました。以上は私が参加しながら参加者として考えたことの一部です。みなさんの発表を見て、共有して、社会が開かれると感じたのです。一人であるというのは共有するということ。「ひとりの限界と協働の可能性」を思い、このような場がみなさんの現場で展開されることを願って、私の感想とさせていただきます。

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中学生対象

概要

渡邉・若狭グループは、ジョルジュ・ルオーの作品を参加者自身の印象で鑑賞した後、年表等の資料を読み作品鑑賞を繰り返すことを通して、鑑賞者の見方の変化に着目する鑑賞を行ないました。
乾・濱脇グループは、3つのグループに分かれて玉村方久斗の日本画の作品を鑑賞し、作品から見てとれる情報を深く掘り下げて共有し、見方の多様性について議論しました。
松永・岡グループは、2グループにわかれ、「対象学年」「予想される生徒の反応」等7つの具体的な視点で整理しながら、それぞれリチャード・ロングの作品を題材とした鑑賞授業を考案しました。
各グループの成果発表が終わった後、もう一度それぞれのグループに分かれ、振り返りを行ないました。最後に、各グループの代表者が活動の感想を発表しました。(山中悠)

講評(要旨)

山田一文(戸田市立美笹中学校 校長)

渡邉・若狭グループは、非常に和やかなムードの中で話合いが進んでいたのが印象に残りました。ビジュアル・シンキングをされるなかで、いろいろな気づきを得たことと思います。「私はこんな風に解釈できます」というところまで中学生を導くためには、どうやって作品と出会わせるのかが重要だと思いました。乾・濱脇グループはとても活発な議論をされていました。新しい指導要領にある「感じ取ったり考えたり、見方・感じ方を深めていく」ことについて、流れを押さえていると思いました。一方で新鮮な気持ちを忘れず、そしてあまり落としどころにこだわりすぎるのではく、幅広い見方に寛容であっていただきたいと思います。松永・岡グループは、発表する際の模造紙がとてもきれいにまとまっていたのが印象深いです。対象学年、教科、身につけさせたい力、学習の展開などの問いは、絶えず考えていかなければならないと思います。先入観にとらわれず、気持ちや考え方を柔らかくしていただきたいこと、そして学習指導要領の解説29ページの3行目の文章「鑑賞は単に知識や作品の定まった価値を学ぶだけの学習ではなく、自分の見方や感じ方を大切にし、知識なども活用しながら、様々な視点で思いを巡らせ、自分の中に新しい意味や価値をつくりだす学習である。」を忘れず、この研修の成果および地域の美術館との関係を広げていただければと思います。

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高校生対象

概要

星・寺島グループでは、カッサンドルのポスターを題材に、高校での鑑賞教育の課題に取り組みました。「高校での鑑賞教育で大切なもの、大切にしたいもの」「学校と美術館で、どのような鑑賞が可能か」という視点から、絵画や彫刻とは異なる、デザイン表現を対象として検討を進めました。
三澤・林田グループでは横山大観《飛泉》を取り上げ、「批評」をキーワードに研修を行いました。「批評とは何か」というテーマにグループで向き合った後、実際に作品を批評することで個人の考えも深めました。
2グループの成果発表の後には、各グループのファシリテーターに長田先生が加わり、総評を行ないました。高校生という、社会に出て行く前段階の存在に対して、鑑賞教育がもつ可能性を全員で共有しました。(荒井美月)

講評(要旨)

長田謙一(名古屋芸術大学美術学部・同大学院 教授)

星・寺島グループはポスター、三澤・林田グループは批評という、どちらも挑戦的なテーマを掲げて今日一日のプログラムを組んでいただきました。高校と美術館をつないでいく鑑賞自体が非常に挑戦的なことだと言えますが、加えて、高校の授業のレベルで考えてもふたつともチャレンジングです。おそらくこのふたつの問題に切り込んでいけるのは、学校と美術館がリンクするという、幸せな結びつきによって勇気づけられた課題だろうと思いながら見ていました。デザインの領域は、現在の私たちの生活のなかで圧倒的な力をもつビジュアルの世界です。今後もいわば宿題のように「デザインを対象にした鑑賞はどうしたら可能なのか」を考え続けていただきたいと思います。一方、批評は何が芸術なのかを含めて、それを言葉にしていくことです。批評するからには、何が芸術なのかをひとりひとりが考え、判断することを含んでいます。実際に高校生のなかに批評の能力が育っているのでしょうか?より深く、鋭く、本物を見抜く力を育てていくことが重要だと思います。チャレンジングな課題に果敢に取り組まれた皆様に敬意を表します。

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