2024.08.09

特集|NCARピックアップ Vol. 3 社会連携

「NCARピックアップ」は国立アートリサーチセンター(NCAR)の活動の中から、皆さんに注目していただきたい事例をピックアップして動画コンテンツとともに紹介する特集企画です。

第3回は、2024年6月に刊行されたNCAR社会連携事業 [事例集]「Shake Hands 企業×美術館 ひろがる可能性」を紹介します。今回はNCAR社会連携促進グループの北村麻菜に話を聞きました。

北村麻菜

—— まず、NCARの社会連携事業について教えてください

北村  私たちが所属している社会連携促進グループでは、美術館とさまざまな企業・団体とのパートナーシップの構築を通じて、美術館の可能性を拡張するというミッションを掲げています。具体的には、企業活動そのものと美術館が連携し、両者にメリットのある事業を組成・実施しています。私たちはこれを社会連携事業と呼んでいます。社会と連携した美術館活動を追求することで、人々とアートの接点を身近で多様なものとし、センターのミッションの一つである「アートの社会的価値の向上」を目指しています。

—— 今回の事例集は、基になっている動画があるということですが、どのような狙いで制作されたのでしょうか

北村  はい。企業・団体の方とお話しする際に、美術館と連携して何ができるのか、なかなか具体的なイメージが湧きにくいという課題がありました。そこで、私たちが企業の方と実際に行った、あるいは対話を重ねてきた内容を、企業・美術館双方の担当者の生の声を、顔がみえる形で発信してはどうかと考え、映像コンテンツを制作しYouTubeに公開しました。今回、美術館との連携に関心のある方に参照しやすい機会を増やしたいと考え、事例集を制作することにしました。

—— 動画・事例集の内容を少し紹介してください。

北村  全5回を通して見ていただくと一つのパッケージとなるような構成にしています。第1回はイントロダクション、第2回~4回が事例、最終回が各事例に対するレビューという流れで、シリーズ動画として見ていただけるように考えました。もちろん、各回個別に見ていただいても楽しめるような形を意識しています。

—— シリーズのラインナップを見ると各回それぞれテーマがあって、企業と美術館というつながり方に多様性を感じますね

北村  そうですね。第2回は「企業と美術館からはじめるアート」ということで、企業と美術館が生む付加価値をテーマにGINZA SIXリテールマネジメント株式会社の藪田雄一さんからお話をお伺いしました。国立新美術館の教育普及プログラム「かようびじゅつかん」に対する協賛が企業にとってどのような意味を持つか、そして、企業活動にアートを取り入れることについての事例です。
第3回は「美術館で思考のスイッチを切り替える」というテーマで、ビジネス分野とアートの新しい関係について株式会社三菱総合研究所の橋本由紀さんにお話をお伺いしました。東京国立近代美術館で開催している「対話鑑賞プログラム」の経験に触れながら、企業から見た美術館の魅力と期待についてお話いただいています。
第4回は「企業と美術館の持続可能な協働事業を目指して」というテーマでTOPPAN株式会社の遠藤志津子 さん、奥窪宏太さんにお話をお伺いしました。アートやミュージアムを取り巻く事業領域で、企業として持続可能な事業モデルを構築する、という具体的な内容になりました。
すべての回を並べて見ると、美術館が社会と連携することにたくさんの可能性があることを改めて実感しています。

—— 動画・事例集の制作を通じた気づきがあったといったことでしょうか

北村  美術館・博物館が企業・団体の方々と連携して事業を行っていくということ自体、展覧会を除けば、実はあまり前例の多くない取り組みです。企業の方はもちろん、美術館側もどのようなことができるのか、それが両者にとってひいては社会にとってどのような波及効果をもたらすのか、まだまだ想像しづらいことと思います。私たち自身も、事例を積み重ねるとともに、折に触れて今回のように自らの活動を俯瞰して発信をすることで、社会連携促進グループとしての活動の意義を整理していくことができると感じました。

—— 社会連携促進グループの活動は広範囲というイメージがあります

北村  動画や事例集に掲載した企業の方々との社会連携事業のほか、「企業・団体向けプログラム」「社会的な課題に対するプログラム」といったテーマを定めたアートプログラムも、各国立美術館と開発・実施しています。また、美術館の活動の下支えとなるよう、「美術館に関する意識調査」を実施するとともに、結果の一部の公開を行っています。多岐にわたるそれぞれの事業を有機的に連関させ、美術館と社会の接点を豊かで多様なものにするための活動を展開しています。

—— 今回の動画・事例集をきっかけに、NCARの社会連携事業に関心を持つ人が増えるといいですね

北村  手探りの部分もありますが、私たちはさまざまな形で企業・団体の皆さまとの連携(パートナーシップ)を積み重ねていくことが、社会における美術館の可能性を拡張する活動につながり得るのではないかと考えています。この動画シリーズは常設コンテンツですし、事例集はデータで公開しています。是非企業・団体の皆さま、美術館・博物館の皆さま、またこのような取り組みに関心のある学生の方々にもご覧いただき、ご関心をお寄せいただければ幸いです。

NCAR社会連携事業 [事例集]「Shake Hands 企業×美術館 ひろがる可能性」はこちらからご覧いただけます

(取材・執筆・撮影:NCAR Magazine)

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