2023.11.14

作品の高精細画像を活用した新しい鑑賞体験の協働制作
(東京国立近代美術館×大日本印刷株式会社(DNP))

社会連携促進グループ 北村麻菜

作品の高精細画像を活用した新しい鑑賞体験の協働制作(東京国立近代美術館×大日本印刷株式会社(DNP))

2023年3月、東京国立近代美術館のエントランスロビーに、常設のデジタルコンテンツとしては初となる「MOMATコレクション ナビキューブ」が設置されました。これは、東京国立近代美術館と大日本印刷株式会社(以下、DNP)が協働で制作したものです。
国立アートリサーチセンター社会連携促進グループは、このプロジェクトの推進に携わりました。美術館のニーズと企業の力とを掛け合わせる、美術館と企業の連携事業の一例として、協働制作プロジェクトをご紹介します。

1. 開発のねらい-美術館のニーズ

「MOMATコレクションナビキューブ(以下、ナビキューブ)は、東京国立近代美術館が所蔵する作品の高精細画像を活用した、来館者向けのインタラクティブな作品鑑賞サービスです。美術館側のナビキューブの開発のねらいは、以下の3つがあります。

・所蔵作品展「MOMATコレクション」への導入
・デジタル技術を通じて所蔵作品の多様さ、豊かさを表現
・インタラクティブな演出を搭載

(1)所蔵作品展「MOMATコレクション」への導入

東京国立近代美術館には13,000点を超える所蔵作品があり、所蔵作品展「MOMATコレクション」では、会期ごとにそのうちの約200点を展示しています。4階からスタートし2階まで、全12室での展示を通じて、日本の近現代美術の流れをたどっていただくことができます。一人でも多くの方にご覧いただくため、1階エントランスロビーに導入となるコンテンツを用意したいと考えました。

(2)デジタル技術を通じて所蔵作品の多様さ、豊かさを表現

「MOMATコレクション」では約200点の作品を展示していますが、所蔵作品全体から見るとご覧いただける作品はごく一部です。また年5回程度ある展示替えで、毎回異なる作品が展示されます。展示室で鑑賞できる作品以外にも、多様で豊かな作品があることを知っていただくために、デジタル技術の力を借りることにしました。また、同館にある作品の高精細画像の活用にも資する取組みにつなげたいとも考えました。

(3)インタラクティブな演出を搭載

作品との出会いは、「見るだけ」あるいは「解説を聞くだけ」よりも、「対話」を通じて双方向である方が作品の魅力を深く掘り下げ、楽しむことができます。これは東京国立近代美術館が大切にする考え方です。今回のコンテンツ制作でも、作品との出会いを楽しみ、新しい発見へとつなげていただくため、インタラクティブな演出を持つことを目指しました。

2. DNPとの協働制作

ナビキューブはDNPと協働で制作した作品鑑賞サービスです。DNPは東京国立近代美術館が推進する、企業による支援プログラム「MOMAT支援サークル」(※)に加入いただいており、2017年から技術メセナパートナーとして東京国立近代美術館との取り組みを行っています。2021年からコンテンツ制作の検討に入り、美術館として来館者にどのようなサービスやコンテンツを提供したいか、繰り返し議論を行いました。

最終的に、DNPのインタラクティブコンテンツシステム「みどころキューブ®」に、今回独自に開発した、好きな作品の傾向を診断しおすすめの作品をナビゲートする機能を搭載した「ナビキューブ」を制作しました。

3. ナビキューブの特長-好きな作品の傾向を診断・おすすめ作品を紹介

ナビキューブの特長は、体験する人の好きな作品の傾向を調べる「診断画面」と、おすすめの作品を紹介する「キューブ画面」を持つことです。

まず「診断画面」で、最初に表示される所蔵作品の画像から、好きな3作品を選んでもらいます。ナビキューブは、それらの傾向からおすすめの所蔵作品を「キューブ画面」でナビゲートしていく仕掛けです。

この演出を加えることにより、自分では思ってもみなかった作品との出会いを創り出すことを企図しました。作品解説とともに、4Kモニターに映し出される高精細画像で作品をじっくり観察できるため、おすすめされた作品との距離を縮めることもできます。

おすすめの作品は、「展示中の作品」からも紹介されます。所蔵作品展「MOMATコレクション」で作品を探す楽しみも味わえます。

  • (診断画面)
    好きな作品を3点選び、選んだ作品をもとにおすすめ作品を診断する。
  • (キューブ画面:作品情報)
    ナビキューブでおすすめされた作品の高精細画像を、4Kモニターで作品解説とともにじっくり観察できる。
  • (キューブ画面操作マニュアル)
    キューブ画面での操作方法をイラストで説明。

4. 企業と美術館の協働-美術館の社会連携-

ナビキューブでこだわった「おすすめ作品を紹介する」という機能には、東京国立近代美術館での作品との出会いを「自分ごと化」することを通じて、作品鑑賞をよりパーソナルな体験として深めてもらうことを狙いました。一人一人の感性と共鳴する体験の創造は、美術館が展示(展覧会)を通じて行っていますが、ナビキューブはその入口となるような気軽に遊べるツールと考えています。占いのような感覚で楽しんでいただきたいと願いながら制作しました。

このように、美術館にない技術を必要とするコンテンツ開発には、豊富な専門知、ノウハウ、技術を持つ企業の力が必要です。今回の協働制作は、美術館と企業の連携という関係性が非常に明確な事例となりました。
美術館は美術館での体験を豊かにするよりよいツールを来館者の方に提供する、一方企業は、美術館とのプロジェクトで次なるサービスの開発につなげる、このように双方にメリットとなる関係が成立すればこれに勝るものはありません。
国立アートリサーチセンター社会連携促進グループは、このような「美術館と企業・団体とが連携して構築する、お互いにとって価値ある事業の推進」を主たる活動と捉え、これからも生み出していきたいと考えています。

また、普段は忙しくて美術館と接点が少ないかもしれないビジネスパーソンの方に、美術館の活動や作品と仕事でつながりを持っていただくことができる点も、美術館側にとっては企業との連携事業のプラスな一面と言えるでしょう。制作の過程で、DNPの社員の方がどんどん作品に詳しくなっていった様子は、大変うれしく思いました。

私たちはこのような美術館と企業との連携(パートナーシップ)の構築を積み重ねていくことが、社会における美術館の可能性を拡張する活動になり得るのではないかと考えています。この仮説のもと、社会連携促進グループとして活動を展開していきます。

※ MOMAT支援サークルについて https://www.momat.go.jp/support/circle

同じカテゴリのNCAR Magazine

同じカテゴリの活動レポート

最新のNCAR Magazine

BACK