グループワーク 中学生対象

渡邉+若狭グループ 絵を通して見えてくるものは何だろう?

ファシリテーター:
渡邉美香(大阪教育大学教育学部 准教授)
サブファシリテーター:
若狭愛(京都市立朱雀中学校 教諭)
受講者:
10名(中学校教諭7名、学芸員2名、指導主事1名)
課題作品:
ジョルジュ・ルオー《ダンサー》1948-52年
アンリ・マティス《鏡の前の青いドレス》1937年
グループワークの進め方
  1. 中学生の鑑賞指導の中で大切にしたいものを紹介しながら、自己紹介
  2. ナビ、フォーヴ派の作品を3グループに分かれ鑑賞。モチーフが類似する絵を比較し、描き方の違いを見つける
  3. ルオー《ダンサー》を見て受けた印象を話し合う(対話型鑑賞)
  4. ルオー《呪術治療者》と比較しルオー作品に共通してみられる特徴を見つける
  5. ルオーの作品と同時代のマティス《鏡の前の青いドレス》の作品とを比較し、作家が追求したものを推察する
  6. 作家に関する資料を参考に、作者が何を描こうとしたのか推察する
  7. 3~6の行程で記載した付箋を模造紙に貼り発表し、KJ法でまとめる
  8. 再度絵を見、絵を通して考えたことを1人ずつ発表する


  • 車座になり自己紹介

  • 比較しながら作品を見る活動

  • 対話型鑑賞の様子

グループワークを振り返って

G・ルオーとA・マティスの作品、有名だけれどどう見たらよいのかわからない、そんな雰囲気が対話型鑑賞を通して、そして美術館の素晴らしい作品を目の前にしてどんどん変わっていきました。作品について比較や対話を取り入れ興味をもつ、絵を見ただけではわからない疑問や不透明な部分を知識をもとに見る、はじめに受けた絵の印象を根拠づけるものが作者の生き方や言葉の中にある。ワークを進めるうちに受講者の真剣さに圧倒されました。先生方自身が絵の見え方の変化を体験し、そこから鑑賞することとは何かを学ぶというワークが子どもたちへの美術作品の価値を味わう力、見方を広げる一助となるのだと実感しました。(渡邉美香)

講評

私が渡邉・若狭グループの進行を見にこの部屋に入った時、笑いが渦巻いていました。ルオーの作品の対話型鑑賞をしていたのですが、皆さんが思いついた意見を自由に発言していました。目に飛び込んできたものが何かについては、最終的に気づけばよいので、その意味で、見事な対話型鑑賞のなかで、皆さんがいろいろな気づきをされていたと思います。また、ルオーの資料が単に文字情報ではなくビジュアル的に飛び込んでくる資料だったことにはっとしました。資料の選定や、はっと思わせるタイミングは重要です。そのとき、大人目線ではなく、子どもの目線にあった資料を提供できるようにしてください。スタンダードはありません。子どもたちの実態にあわせて活用していくことができるかが問われていくと思いました。(山田一文)

乾+濱脇グループ 身のまわりが“美しく”変わる鑑賞活動とは

ファシリテーター:
乾茂樹(京都市立藤森中学校 教諭)
サブファシリテーター:
濱脇みどり(西東京市立青嵐中学校 教諭)
受講者:
10名(中学校教諭7名、学芸員3名)
課題作品:
玉村方久斗《碍子と驟雨(紅蜀葵)》1943年 
玉村方久斗《碍子と驟雨(梧桐)》1943年
玉村方久斗《休日》1931年
グループワークの進め方
  1. 自己紹介(中学生の時の美術との出会いを紹介)
  2. 普段の授業や鑑賞活動の内容や悩み,疑問などを話し合う(基準づくり)
  3. 個人で作品鑑賞(視点づくり①)
  4. 感じ取ったことの意見交流(感覚の統合①)
  5. 鑑賞活動のプログラム制作(3・3・4人でのグループ討議、視点づくり②)
  6. 各グループの意見交流(感覚の統合②)
  7. まとめ


  • 心地よい“贅沢”を過ごす

  • “考え”が対話する

  • “思い”を綴る時間

グループワークを振り返って

中学生が鑑賞活動を通して「自分のまわりがこんなに”きらきら”と美しかったんだ」と気づいた瞬間、生徒の心の中にはドラマの一場面のようなテーマソングが流れ、人生を切り拓いていく強さや優しさを見つけるでしょう。それは”美しい”が人生の「味付け」に変わった瞬間です。今回は、身のまわりを感性で捉え、大切に描いた作家の作品を鑑賞することで、生徒自身の中に新しい意味や価値を作り出す、生徒を”変える”鑑賞プログラムを考えました。子どもたちのことを真剣に考える時間が持て、心地良かったです。ありがとうございました。(乾茂樹)

乾グループは本研修2回目の参加者が複数おられるなど、経験豊富なメンバーとともに鑑賞プランを練り上げる密度の高い1日となりました。対象作品は日本画でありながら題材・表現形式・表現方法とも実験的で、まさに「何これ!?」と声をあげたくなるもの。ファシリテーターの熱意と十分な事前研究が進行と配布資料に凝縮されていました。3本のプランは見事に多様で、対象作品と参加者の見方・考え方のコラボの力強さを感じました。(濱脇みどり)

講評

乾・濱脇グループはとても活発な議論をされていました。子どもたちに作品を理解してもらうには段階が必要であり、知識・理解をどのタイミングで与えるかということ、そして落としどころをどこにするかということについてもさんざん議論をしながら進めていて、頭をぐるぐる回転させながら、皆さんが作品に向き合っている様子が伝わってきました。オーソドックスな作者の生い立ち、考えていること、時代背景はもちろん、いろいろな想像をしながら皆さんが作品を鑑賞していたのが印象に残っています。ひとつ申しあげたいのは、落としどころにこだわりすぎないでいただきたいということです。幅広い見方にぜひ、寛容であってください。(山田一文)

松永+岡グループ 抽象的な作品から中学生の鑑賞について考える

ファシリテーター:
松永かおり(東京都教職員研修センター 研修部 教育経営課 統括指導主事)
サブファシリテーター:
岡もと女(京都市立桃山中学校 教諭)
受講者:
10名(中学校教諭7名、学芸員2名、指導主事1名)
課題作品:
リチャード・ロング《滝の線》1996年
リチャード・ロング《京都の泥の円》1996年
グループワークの進め方
  1. これまでの経験を踏まえた自己紹介
  2. 《滝の線》でファシリテータによるギャラリートーク体験1(受講者自身が楽しみながら鑑賞を体験)
  3. 《京都の泥の円》でサブファシリテータによるギャラリートーク体験2(中学生だったらどのような反応を示すか考えながら鑑賞)
  4. 作品に関する資料提供
  5. ワークシート(①対象学年、②教科等[美術以外でも可])、③この作品の鑑賞で身につけさせたい力、④学習の展開、⑤予想される生徒の反応、⑥生徒の鑑賞を深めるために必要な情報はどの程度、どのようなものか、⑦美術館学芸員、教育普及員、ガイドスタッフ等との連携の在り方はどのようなものか)を用いて、鑑賞プログラム案を個々で検討
  6. 2グループに分かれて各グループで鑑賞プログラムを検討
  7. 各グループによる発表、意見交換


  • 様々な角度から鑑賞を楽しむ

  • 中学生になったつもりで鑑賞し、
    予想される反応を考える

  • 2つのグループに別れてプログラムを考え、発表

グループワークを振り返って

抽象的で大きな作品を楽しみながらグループワークができました。今回は、1.受講者自身が鑑賞の楽しみやそこから生まれる学びを自覚できるようにすること。2.個人の考えをまとめ、練る時間を確保すること。3.グループで新たな発見や可能性、疑問等を共有し個人の考えを深化できる環境を作ること。4.受講者自身が何を学び、どう考えたかを振り返る時間を確保することの4点を大切にしました。より授業に近い流れでグループワークを行ないましたので、この経験が今後の作品選定や展開のあり方を深く考えるきっかけとなれば幸いです。受講者の皆さんの今後の御活躍をお祈りします。(松永かおり)

講評

対象学年、教科、身につけさせたい力、鑑賞を深めるための情報はどの程度必要かという問いがありました。学習の展開、予想される生徒の反応、生徒の鑑賞を深めるための情報はどの程度必要か。美術館学芸員、ガイドスタッフとの連携のありかたをどうするか。こういうことは常に考えていかなければならないと思います。リチャード・ロングの作品には具体的な対象が描かれているわけではないので、なんだこれ、これ作品なの?という子どもも何人かいると思います。授業でやりとりをするなかで「こういう作品があっていいんだ、こういう作品も面白いんだ、好きになった」となってもいいし、「好きではないけど、作品についてはわかったよ」でもいいと思います。そのためにどのようなアクティビティ、取り組みをするのかが重要になってくると思います。(山田一文)