グループワーク 高校生対象

星+寺島グループ 感じ取り、味わう鑑賞へ向けて

ファシリテーター:
星博人(福島県立保原高等学校 教頭)
サブファシリテーター:
寺島洋子(国立西洋美術館 学芸課 主任研究員)
受講者:
10名(高校教諭6名、学芸員4名)
課題作品:
アドルフ・ムーロン・カッサンドル 7点の作品: 《ハーパース・バザー誌表紙原画》1937-39年、《ポスター ラントランシジャン原画》1925年、《ポスター 北方急行―フランス北部鉄道》1927年、《ポスター 北極星号―フランス北部鉄道》1927年、《ポスター 青い鳥号―フランス北部鉄道》1929年、《ポスター フランス北部鉄道》1929年、 《ポスター ノルマンディー号》1935年
グループワークの進め方
  1. 普段の鑑賞活動で感じている課題を発表して自己紹介
  2. アート・キューブを使ってアイスブレイク
  3. カッサンドルの作品からどんなイメージを持ったか発表した後、作者の生い立ちと時代背景の文章を読み、印象の変化を全体で話し合う
  4. 作者の最期の解説文を読み、自死に至った理由について考え、全体で話し合う
  5. 作品が京近美に展示されていることの経緯を知り、活動全体を振り返る
  6. 高校生にとって鑑賞で大切にしたいことをグループで話し合い、発表する


  • アイスブレイク活動

  • 作品について話し合う

  • 鑑賞で大切にしたいことを発表

グループワークを振り返って

星+寺島グループでは、カッサンドルのポスターと原画の7点から高校生の鑑賞活動について考えました。造形的な特徴を読み取り、時代に思いをはせ、作者の生き方に迫り、それらを言葉にして共有する活動を繰り返すことにより、とても豊かな解釈ができました。それらの活動から、主体的な鑑賞へ向けた手だてや鑑賞で大切にしたいことなど、参加された先生や学芸員の方とともに考えることができました。グループのみなさんと寺島さんに感謝申し上げます。(星博人)

高校生は、作品だけでなく作家、時代、社会といった作品をとりまく要素にも思いを巡らせ、そこからより深い鑑賞を行なうことができます。星グループでは、鑑賞におけるコミュニケーションの大切さを重視しつつ、そうした背景の知識も活用したワークを試みました。ツールを利用したコミュニケーション、ポイントを押さえた解説資料の提供など、星さんの段階を追った導きに従って鑑賞も深まっていくのが感じられました。(寺島洋子)
講評

星・寺島グループは、ポスターという、絵画や彫刻とは違うジャンルの作品を対象にして、いろいろなレベルのワークをされました。そこから提起される問題も、共通のものとして受け止めるべきものもいくつかあると思います。デザイン、とりわけポスターに取り組まれて最終的にはどうでしたか? 面白いと思われたのか、あるいはデザインに切り込む道筋が見えてきたのか。カッサンドルのポスターにある種の予言的なものを見ることは、鋭い視点の鑑賞だと思いますが、すべてのデザイナーが自死するわけではない。ではデザイン、ポスターや自動車を鑑賞の対象にすることはどういうことかという問いは、別のレベルであるだろうと思います。高校生になると、日常生活にあふれるデザイン製品と山ほど付き合っているわけです。服や携帯端末やすべての購買欲をデザインがリードしている。日常生活はデザインを通して成立しているし、生活を豊かにするのもデザインの力であるとすると、デザインをどこで鑑賞するか。この問いに、今後も取り組んでいただきたいと思います。(長田謙一)

三澤+林田グループ 批評に挑戦

ファシリテーター:
三澤一実(武蔵野美術大学教職課程研究室 教授)
サブファシリテーター:
林田りつ子(京都市立七条中学校 教諭)
受講者:
10名(高校教諭・講師5名、学芸員4名、美術館主幹1名)
課題作品:
横山大観《飛泉》1930年
グループワークの進め方
  1. 展示室内(日本画の部屋)の作品を使って自己紹介
  2. グループワークの作品と対面
  3. 2グループに分かれ批評行為とはどのようなことか考えてみる
  4. 全員で批評の意味を確認した後、グループ毎に《飛泉》の批評を試みる
  5. グループで行なった批評について発表
  6. グループ批評の問題点と、現時点で批評行為に不足している問題を洗い出す
  7. 不足している作品情報などを取得し、個人で批評文を書いてみる
  8. 批評文の発表


  • 「批評とは?」を話し合う

  • 作品の背景も調べて

  • 批評文の発表

グループワークを振り返って

今回は高校教諭中心のグループなので、学習指導要領にも出てくる「批評」という鑑賞行為にチャレンジしてみました。批評という言葉はよく耳にしますが、批評行為の内容や意味は案外理解されていません。美術館での鑑賞活動のアドバンテージは、そこに実物があるという点です。まずは自分の目を通して目の前にある作品について主観的に語ることをしてみました。すると、作品の背景(客観的事実)が知りたくなります。そして、主観と客観を紡ぎ出来あがった文章(批評文)はどれも素敵なものとなりました。(三澤一実)

講評

この日参加された皆さんに、批評を課題にすえて授業を展開された方はいらっしゃるかと聞いたところ、手を上げた方はゼロでした。ですから、三澤・林田グループがテーマにされた批評の問題は非常に挑戦的な取り組みだったと言えます。批評は何が芸術なのかを含めて、それを言葉にしていくことです。批評するからには、何が芸術なのかをひとりひとりが考え、判断することを含んでいます。実際には高校生のなかに批評の能力が育っているのでしょうか? という私の問いかけへの「生徒の中に言葉はあるが、授業ではなかなか出てこない」という答が印象に残りました。批評は、深く、より鋭く、本物を見抜く力を育てていくことです。今後も日常的な取り組みを続けていかれることを期待しています。 (長田謙一)