国立アートリサーチセンター(NCAR)は「アートをつなげる、深める、拡げる」をミッションに、アートの魅力を拡げるため、NCAR Magazineにて情報発信ページ「CATCH!」を公開しています。隔週金曜更新(次回は11月15日更新予定)です。
特集|NCARスタディ・ツアー
CATCH! 2024年11月1日号は「NCARスタディ・ツアー」をご紹介いたします。今回は国際発信・連携グループの真角薫、齊藤千絵に話を聞きました。
まず、「NCARスタディ・ツアー」とはどのような目的で行われているものでしょうか?
- 真角:国内外のナショナル・ミュージアムや美術専門家間の継続的なネットワーク構築を目的として、日本で活動するキュレーターや研究者を海外に派遣し、各々の活動や研究領域の理解を深める機会をサポートするものです。第1回目を2023年11月(韓国)、第2回目を2024年2月~3月(カナダ・アメリカ)それぞれ実施しました。
スタディ・ツアーを通じて知的交流を深め、将来的な事業連携や共同研究の可能性を創出することを目指すとのことですが、今までにどのような手ごたえを感じましたか?
- 齊藤:例えば第1回目の韓国では、視察先から「このような大規模なキュレーターをはじめとした専門家同士の顔の見える交流は、互いを知る上で非常に重要だと思う。一度つながりができれば、互いのネットワークを今後さらに活用し、共同プロジェクトの実現性も格段に上がる。」とのお言葉を頂戴しました。今後の具体的な連携の可能性を探るため例えば韓国の訪問先の一つであった釜山市立美術館が国立新美術館や京都国立近代美術館など日本側の参加者の所属館を訪問するといった交流が生まれています。一部の参加者のなかからも交流のあった施設や関係者との共同研究の計画や、展覧会の共同企画に結実したという報告もあり、今後も継続した事業への発展が期待されます。
第2回目のカナダ・アメリカツアーはいかがでしたか?
- 真角:最初にカナダを訪れましたが、近年カナダ政府はヨーロッパからの入植者とその子孫が先住民に対し行ってきた過去の不適切な行いや問題に対峙し、先住民と「和解」し共生する努力を政治のプライオリティとして全面に打ち出しており、2021年からは「真実と和解の日(The National Day for Truth and Reconciliation)」という法廷祝日も定められました。今回の訪問では、アーティストの選定やマネジメント層の雇用も含め、美術館全体が如実にその流れを反映していることを参加者にも実感していただけたようです。続いて訪れたアメリカでは、Black History Month(黒人歴史月間)である2月の訪問だったため、多くの美術館で黒人の歴史やアーティストに焦点をあてた展示を見ることができましたし、日系・アジア系を始め多くの移民のアーティストや女性アーティストが積極的に紹介されていました。北米の高名な美術館の圧倒的な施設やバラエティに富んだプログラム、潤沢な予算にただただ感嘆することもありましたが、歴史的に「周縁」とみなされてきたアーティストや表現に光が当てられ、アート界全体が確実にシフトしつつあるムーブメントを肌で感じていただけたように思いますし、それが日本ではどのように応用されうるのか、またされるべきなのかを含め、参加者に考えていただくきっかけになったのではないかと思います。
最後に、今後の展開ついておきかせください
- 齊藤:2024年度は台湾、オーストラリアへの視察を予定しています。参加は公募制で、2025年度以降も地域を変えて継続的に実施する予定です。視察地域によって文化政策やアプローチの違いはさまざまにありますが、本プログラムを通じて美術関係者同士の知的交流を深め、将来的な事業連携や共同研究の可能性を創出することを目指すという目的は共通しています。参加者にそれぞれの所属先や活動分野で研修の成果を長期的に活かしていただくことで、本プログラムが日本のアートの持続的な振興の一助となるよう継続的に働きかけていきたいと考えています。
(取材・執筆・撮影:NCAR Magazine)