事例紹介

美術館鑑賞教室 〜4年間の学習を通して〜

講師:
伊藤貴光(東京都葛飾区立西小菅小学校 教諭)

事例紹介要旨:以下は伊藤氏の発表を大幅に要約・再構成したものです(編集部)

継続的に実践した美術館での鑑賞学習

葛飾区立西小菅小学校は東京都の葛飾区と足立区の境にあります。周囲を建造物と川に囲まれ、学区域には大きな官舎があります。児童数は190名ほどで、全8クラスの比較的小規模の学校です。皆名前を知っていて仲がよいのが特徴です。

3年生から毎年美術館に出かけているのですが、そのきっかけはふたつあります。ひとつは以前の職場でお世話になった江戸川区立松江第三小学校前校長の北山先生から「東京だからできる教育」があると言われたこと。もうひとつは、私が属している東京都図画工作研究会の美術館連携局(現在休止中)で公開研究授業をやることになったことです。では学年毎に授業を紹介していきます。


3年生@東京国立近代美術館工芸館 2016年1月

2回構成になっており、1回目は東京国立近代美術館工芸館の方に作品をもってきていただいて、外部スタッフを招聘しタッチ&トークの授業を行ないました。2回目は工芸館に行き、1回目に教わったファシリテートの仕方を参考に、6年生が3年生へのファシリテーターを務めました。6年生は緊張しながらも一生懸命がんばってくれました。

作品の魅力と美術館の環境が児童に集中力を与えたのは確かですが、児童は潜在的に作品を感じる力をもっていると私は感じました。この3年生時のギャラリートークで児童たちが学んだことは、「楽しい」ということではないかと思います。興味本位ではなく、美術館で鑑賞してみて、見ることは楽しいということを体験的に実感し、学んだのです。


4年生@国立西洋美術館 2016年9月

3作品について「遠くから見てみよう」「彫刻と同じポーズをとってみよう」「何をしているのかな」などを考えながらギャラリートークをやりました。同じことを3年生のギャラリートークでも行なっていますが、初めての時はやはり「楽しい」という気持ちのほうが大きいのですね。もう1回出かけ、あらためてポーズをとるなど、考える活動を通して鑑賞が深まっていくのだと思います。4年生の時に学んだことは、3年生の時の「楽しい」という土台のうえに「想像する」ということだったと思います。


5年生@東京国立近代美術館 2017年10月

1、2作品目は通常のギャラリートークを行ないました。3作品目はガイドスタッフなしで、児童だけのギャラリートークを実施しました。実際に映像をご覧いただきましたが、児童たちはどんどん言葉がでてくるようになっています。思ったことを口にして意見を出し合い、皆と議論しています。自分の意見を言葉で表せるようになるためには、ガイドスタッフさんとの信頼関係も大切だと思っています。児童だけのトークのほうが楽しいという意見もありますが、鑑賞するために大切なことをガイドスタッフさんから学んでいると思います。マナーも指導してくださり、児童たちは安心して鑑賞ができています。これは1回でできることではなく、継続することによって、スタッフさんとのやりとりも含めてどのように進めれば楽しいのか体験的に学んでいます。5年生で学んだことは、信頼と言語化だと思っています。


6年生@東京国立近代美術館 2018年6月

1、2作品目までは通常のギャラリートークで、3作品目はそのエリアから好きな作品を選び、児童たちだけでギャラリートークを行ないました。彼らが一つひとつの作品を楽しんでいるのが確かに感じられ、ここから何か次の展開をしたいと考えています。子どもがきちんと鑑賞できることがわかったことは、とても大きな収穫です。

6年生は、根拠をもって発言をし、さらに友だちの考えを受容することができるようになっていました。すべての活動のベースとなるのは、やはり楽しいということ。鑑賞することは楽しいというベースを積み重ねることによって、さまざまな力が身についているのではないかと感じています。

振り返りには、鑑賞した作品について簡単にコメントを書き込める「つぶやき手帳」を使っています。ある児童の3年生から6年生のつぶやき手帳を見ると、3年生時には直感的なことを単語のみで、4年生時には想像したことや感想のようなことも、5年生時には一気に文字量が増え、6年生時には根拠を持ったコメントを書き込んでいる姿が見られます。自分が思ったことに対する根拠を探れるようになっているのではないかと思います。


最後に

鑑賞はなかなか数値化できないものだと思います。でも児童は鑑賞したこと、見たことをしっかり覚えています。私が見て取れている以上に、子どもたちのなかに4年間の蓄積があるのではないかと感じています。

美術館で本物に触れ、空間を味わうこと、4年間継続することによって学習が成立していくと思いました。美術館での鑑賞は楽しい。これが基本になって美術館が好きという子どもが増えてほしい。映画や、本や、コンサートを楽しむように、美術館を好きで楽しむ、心豊かな人間になってほしいと願い、活動しています。