事例紹介
アートと言葉 〜「色」をテーマとした教科融合型学習への挑戦〜
- 講師:
- 永松芳恵(大分県津久見市立第一中学校 教頭)
事例紹介要旨:以下は永松氏の発表を大幅に要約・再構成したものです(編集部)
「連携」(つながり)をキーワードに
津久見市は、大分県の南東部に位置する海あり山ありの自然豊かな町です。第一中学校は創立71年、生徒数255名の中規模校です。さまざまな教育活動を通して自らの可能性にねばり強く挑戦する生徒の育成をめざしています。とても素直で素朴であり、可愛い生徒たちですが、生活・成功体験の不足から、語彙が少なく、表現力に課題があり、自己肯定感も低く、豊かな環境を実感していないという現状があります。
このことから、市の教育委員会は教育方針の中で、「郷土を学ぶこと」を通して人材育成を目指す、「ふるさと教育」を重点項目として掲げています。そして、平成29年度、本校をモデル校に、公益財団法人大分県芸術スポーツ振興財団に事務局を置く「地域の色・自分の色」実行委員会の協力と助成を得、さらに公益財団法人博報時児童教育振興会による「2017年度第12回児童教育実践」についての教育助成も受け、津久見市教育委員会教育長を実行委員長として「津久見プロジェクト」を立ち上げました。本校の平成28年度入学生を対象として、美術・国語・理科・総合的な学習などの教科融合型学習を実施しました。
「津久見プロジェクト」を始めるにあたり、平成28年度に前段階としての取り組みを行ないました。「ザ・ピグメント〜絵の具は石からできている〜」と題した美術と理科の融合的な学習では、美術の時間において地域の岩石から、様々な色の絵の具ができるということを味わうと共に、理科の時間に「サイエンスレクチャー」として、光と色のしくみや、地域の無人島「網代島」に眠る2億4千万年前の隕石のかけらについて学習しました。その1週間後には大分県立美術館の巡回展を本校の体育館で行ない、大分県立美術館の学芸員や鑑賞スタッフから生徒たちが絵の見方を習いました。これらの活動を経て、平成29年度、「アートと言葉~色をテーマとした教科融合型学習への挑戦~」がはじまりました。それでは実践内容をご紹介していきます。
実践1 美術×国語「その絵…どんな絵?」
津久見市出身の作家、南寿敏夫(なすとしお)の作品7点を鑑賞しました。
まず、班のなかでひとりだけ絵を鑑賞し、ジェスチャーを使わずに言葉だけでグループに伝えます。みんなはそれをきいて、絵を想像します。最後にみんなで絵を鑑賞し、同じ絵に対して複数のイメージをもつことができることを体感します。
実践2 総合×理科×美術〜美術×国語
「地域の石から色をつくろう」
上の図にあるように4つの段階に分けて行ないました。まず東京の国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の小俣珠乃氏を講師として招聘し、網代島の大地の成り立ちについての「サイエンスレクチャーⅡ」を受けました。そして2億4千年前の隕石のかけらが眠る無人島・網代島に出かけ、現地で観察をしました。理科の分野です。
その次に網代島で採取した石を並べ、砕いて顔料をつくり、日本の伝統色をもとに、色に名前をつける作業をしました。これは国語です。
津久見色辞典原画をつくり、粉にした絵の具とともに文化祭で展示し、地域に発進しました。
実践3 美術×国語×総合「移動美術館」
「美術にみる遙かな海・神秘の大地」と題して、地元作家を中心に大分県の作家の作品27点を体育館に展示しました。そして生徒たちが一日学芸員となり、鑑賞者に自分の言葉で作品の魅力について伝えました。
この活動の前に、美術科は「感じる・伝える」、国語科は「話す・聞く」、総合は「主体的に発信する」という評価基準を設け、美術科の指導では鑑賞のシミュレーションとルーブリック自己評価によって到達度を確認し、国語科の指導では「君は『最後の晩餐』を知っているか」という単元を使い「すごい」「素晴らしい」等、曖昧な表現の言葉を使わずに根拠を表現して感動を伝えるという学習を行ないました。
移動美術館の会場にいらした方や聞き手になった他学年の生徒や教職員から、大変楽しかったという感想をいただきました。
実践4 「発信」と「検証」
まず、国語×美術「地元作家の作品から鑑賞文を書こう」を国語科で行ないました。生徒たちは、対象、構図、素材、におい、季節感などについてたくさんの言葉を使うことができるようになりました。
さらに、国語×美術×総合「誰に伝える?津久見の色・私の色 〜アートと言葉新聞~」では、「はがき新聞」をつくりました。地元の新聞記者をゲストティーチャーとして招き、見出しの作り方や要約する文章づくりを教えて頂き、仕上げました。
最後に「その絵・・どんな絵?パートⅡ」を行ないました。6月の授業と同じやりかたで抽象絵画を鑑賞し、「伝える」という視点で、作品の見方、感じ方が広がったかを検証いたしました。
プロジェクトの効果と課題、まとめ
効果としては、生徒たちの自己肯定感が33.7%から55.1%に向上し、また国語科の学力を比較すると学びに向かう力の向上を確認できています。また地元の新聞で発進してもらい、地域や保護者の理解を得ることができました。
まだまだ課題はあります。組織的な授業改善を進め、教科融合型学習を推進し、最終的には国際交流まで視野に入れていこうと学校内で話しています。
実は、昨年9月の台風18号襲来で街は大きな被害を受け、学校も地域も泥と瓦礫に埋まりました。生徒たちは、もっとも大変だった9月にこの授業を受けました。懸命に授業をうけ、合間に泥をかき、ふるさとを取り戻そうと頑張りました。今後もふるさとを愛し、誇りを持ち、その良さを心をこめて人に伝えられる人間になってほしいという私たちの願いをこめて、今、授業をしております。