グループワークの成果発表

小学生対象   柴﨑グループ/遊免グループ/奥村グループ
進行役 :一條彰子(東京国立近代美術館 企画課 主任研究員)
進行補助:細谷美宇(東京国立近代美術館 企画課 特定研究員)
中学生対象①   濱脇グループ/松山グループ
進行役 :今井陽子(東京国立近代美術館 工芸課 主任研究員)
進行補助:酒井敦子(国立西洋美術館 学芸課 研究員)
中学生対象②   青木グループ/道越グループ
進行役 :渡邉美香(大阪教育大学 教育学部 准教授)
進行補助:真住貴子(国立新美術館 学芸課 主任研究員)
高校生対象   星グループ
進行役 :東良雅人(文部科学省 初等中等教育局 視学官)
進行補助:松尾由子(国立西洋美術館 学芸課 特定研究員)

小学生対象  柴﨑グループ/遊免グループ/奥村グループ

文責:細谷美宇(東京国立近代美術館 企画課 特定研究員)

概要

柴﨑グループでは、「遊び心のある楽しい鑑賞活動(鑑賞遊び)」を構想しました。高松次郎《影》、須田悦弘《チューリップ》をギャラリートークでしっかりと鑑賞してから、これらの作品を題材に授業案を検討しました。《影》では、描かれた影のもととなる人物のポーズをとったり、懐中電灯を利用して実際に影を作ってみたりしながら体験的に鑑賞を進めます。《チューリップ》では、一見わかりづらい位置に設置されているこの作品から、子ども自身が作品を配置し、それを見つけあう活動や、美術館内に設置する場所を検討する活動などを学年別に提案しました。

柴﨑ファシリテーターの振り返り
「グループのみなさん、私の“無茶ぶり“にご対応くださりありがとうございました。無茶ぶりには創造性がないと対応できません。造形遊びならぬ鑑賞遊び、という話をしました。遊んだ結果として、楽しみながら鑑賞が深まることを目指しました。子どもたちの頭はやわらかく、チューリップにもなりきることができます。壁にだってなれるかもしれません。このような創造性を大切にしていただければと思います」

遊免グループは、受講者が日頃感じている課題について共有するところから始まりました。その後、ジョアン・ミロの《無垢の笑い》を受講者のファシリテートにより鑑賞しました。作品を見る場所による視点の違いを感じ、午前中を終えました。午後は3つのグループに分かれ、展示室の作品を鑑賞することを想定して「子どもたちにどんな学びがあるか」「授業をするならどのような活動ができるか」「現場に戻って今から実現できること」の3つの視点についてグループごとに協議しました。


遊免ファシリテーターの振り返り
「授業の提案では、みなさんは1つの作品を選んで鑑賞の授業を考えると思っていました。ところが、実際には課題とした展示室の作品全体を使った案が出てきたことが新鮮でした。学校の外に出て美術館などに行くと、1つひとつの作品よりもその空間の印象が強くなるという傾向はあると思います。空間全体を考える視点は大切だと思いました」

奥村グループは、6つの活動を行ないました。(1)体で鑑賞:彫刻を身体であらわす。(2)ラウンド・スケッチ:彫刻の周囲(複数の角度)から、3分ごとにメンバーを入れ替えながらスケッチする。(3)彫刻の空間:彫刻の周囲の空間をスケッチし、そのあと彫刻を描き入れる。(4)モールで彫刻:彫刻から受けた印象をもとにモールと色紙で表現する。(5)感覚のポエム:作品から得た感覚(五感)を言葉にし、組み合わせて詩を作る。(6)ジャコメッティを考える:展示室での鑑賞。ジャコメッティが何を感じ考えながら表現したのか、解説パネルなども読みながら考える。コピー用紙を冊子状にした「見たログ」をハンドブックとして、これら6つの活動の感想、振り返りなどを書き記してまとめました。

奥村ファシリテーターの振り返り
「(1)(3)と「見たログ」はテート美術館のハンドブックで紹介されている活動です。(2)は北海道の森見先生が開発した鑑賞方法で、準備体操的に使えます。 (4)はワシントンのナショナルギャラリー、(5)はグッゲンハイム美術館で実際に行なっている活動です。6つの活動は、それぞれ(1)形・(2)動き・(3)空間・(4)主題・(5)視点・(6)文脈をテーマとしています」

補足:振り返りセッション

遊免:グループワーク中に参加者から挙がった質問について、おふたりにうかがいたいです。「鑑賞の授業について、評価はどうしたらよいのでしょうか?」
奥村:評価は目標に対応するものです。ねらいを絞って設定することで、1、2行のコメントからでもきちんと評価ができると思います。
柴﨑:先生たちの自然な感覚を大切にしてください。子ども特有の「ことば世界」(子どもたちが使う独特のことば遣い)を見とることが、子どもたちの学びに対する理解や評価につながるのではないでしょうか。
遊免:もう1つ質問をしたいと思います。「鑑賞する作品を指導者の主観で選んでよいのでしょうか?」
奥村:鑑賞のねらいに合っていれば問題はないと思います。また、専門的な知識や経験をもつ学芸員の助言が有効です。
一條:学芸員は、各館のコレクションについて知識や経験をもっています。学習のねらいや児童生徒の実態から相談していただければ、鑑賞に向く作品をご提案できます。
柴﨑:子どもはどんな作品でも話ができる(鑑賞できる)力を持っていると思います。大人が子どもにとって難しいと思う作品や展覧会でも、子どもと一緒に見てみると楽しめたりします。まずはやってみる、というのも良いと思います。

小学生対象のワーク詳細はこちら >>

中学生対象①  濱脇グループ/松山グループ

文責:酒井敦子(国立西洋美術館 学芸課 研究員)

概要

濱脇グループでは2つのグループに分かれて取り組んだ、菅井汲の《空間力学》を見る授業案が発表されました。1つのグループは、作品を構成する「形」の面白さに着目した案、もう一方は、目に見えない感覚の表現に気づく、考えることをねらいとした案でした。いずれも、中学生にとってなじみの薄い抽象絵画とどう向き合わせるのかという課題のもと、事前の活動について練られており、作品図版を切り分けたパーツを使ってそれぞれのねらいに応じた活動が考案されました。同じ作品でもアプローチの異なる2つの授業案が生まれたことから、子どもたちに何を感じてほしいのか、「ねらいをもって行なうことが大切だと思った」という感想が述べられました。

濱脇ファシリテーターの振り返り
「敢えてとっつきにくい作品ということで《空間力学》を選びました。どうやって中学生に近づけるのかを考えるのは、簡単ではなかったと思いますが、これを乗り越えて自信をつけてほしいという思いからです。今日だけでは時間が足りないと感じた方もいるかと思います。授業の意図を実現するためには手間や時間を要するということも共有できたのではないでしょうか」

松山グループは2つのグループに分かれ、それぞれ今井俊満の《混沌》と元永定正の《作品》を題材にした授業案の発表がありました。両者ともに抽象絵画にどう中学生を出会わせ深めるのか、段階を追った様々な提案がなされました。例えば、前者では「混沌」という言葉の意味から始まり、制作と鑑賞を行き来しながら抽象的な表現についての気づきや理解を深める、後者では色や作品制作の過程に着目して作品を見たり、オノマトペを使って表現したり、作家についての情報を提供したりする中で、抽象表現を自身に引き寄せ、作品を作るとはどういうことなのかを考えさせるものでした。作品1点を深く見ることで、他の作品の見方も広げてほしい、との願いも語られました。

松山ファシリテーターの振り返り
「『中学生が作品とじっくり向き合える鑑賞活動とは?』というテーマでグループワークを行ないました。先生方ご自身が、形や色のはっきりしない作品に向き合っていただくことで、現場に戻った時に子供たちが作品から何を感じ取り、その根拠は何なのかを考えるきっかけにしてほしいと思いました。グループワークを通じて、中学生の普段の様子をよく見ていて、彼らの経験によりそうような鑑賞を考えていたのが印象的でした」

補足:振り返りセッション

両グループをまたいで、4班に分かれてグループワークの振り返りを行ないました。外に生徒たちを連れ出すにはいろいろな課題があることを受講者同士共有しながらも、「知識がないと鑑賞はできないと思っていたが、たくさんのアプローチがあることを知り、やれるのではないかと思った」「何点も見なければいけないと思っていたけれど、1点でも十分だと思った」などの感想が飛び交い、「帰ったらまずは美術館に電話してみたい」「あきらめないでやっていきたい」と前向きな意見を共有して本セッションを終えました。


中学生対象②  青木グループ/道越グループ

文責:真住貴子(国立新美術館 学芸課 主任研究員)

概要

青木グループは、ジャン・デュビュッフェ《愉快な夜》を選んだグループと、荒川修作《作品》を選んだグループがそれぞれ発表しました。《愉快な夜》のグループは、作品タイトルを伏せてタイトルを考える指導案を通じて、鑑賞することで交流を深め、描きたいように描いた作者のパワーを感じて、自分の価値観を変える体験につなげられるような授業を組み立てました。《作品》のグループは、鑑賞による自己理解と他者理解を目的とし、最終的に作品が箱を使っていることに注目し、そこを制作活動につなげ、自分なら何を箱に入れるかを考える事で作者への近づきを試みる指導案を発表しました。

青木ファシリテーターの振り返り
「かなり美術館の展示空間を意識したファシリテートをさせてもらいました。ちょうど立体作品が(それぞれの壁に)3点ずつ並んでいたので、組み合わせを考えるなど展示によって生まれる意味を意識する活動も行ないました。活動の中心は、作品にまつわる情報から離れて、作品から触発された見る側の思い出などを引き出すことでした。そのために個人的な話をたくさん交わしてもらうことに注力しました。それは、美術館が与える作品情報や展示の意図に近づくことだけが鑑賞なのではなく、見ている人の経験値から生み出された鑑賞体験について、積極的に価値づけをしていくことが大切だと考えているためです。美術館が思ってもみなかった作品の持つ意味を、展示室で自由に作品と結びつけてほしいと思っています。またその楽しさを他の人と共有することで、他者と自分の違い、美術館という場の価値に気づいてほしいと思っています」


道越グループは3つのグループに分かれて同じ作品《馬の死について》でそれぞれ授業を構想しました。それぞれのグループは作品をじっくり見て、十分な対話をかわした後、作品タイトルや背景など、少しだけ情報を与え、それによる自分の見方の変化を認識させる活動を、それぞれ違ったアプローチで提案しました。自分の考えの根拠を作品からしめさせたり、作品にセリフを入れてみたり、作品の造形的な要素を思考につなげさせたりと、学び手の立場に立って授業を考えることができました。

道越ファシリテーターの振り返り
「青木グループと道越グループ、それぞれのカラーが出ているなと思いました。そして、道越グループは美術の授業づくりに絞られていったなと思います。新学習指導要領では、子どもが美術でどんな力をつけるのかということがとても重要です。たとえば、ピカソのゲルニカを鑑賞したときに、ピカソが1937年に制作したという事実としての知識を子どもが覚えることはあまり意味がありません。それよりも、子どもが自ら、形や色といった造形的な視点を豊かにもってゲルニカを味わい、自分なりに感じ取り考えることができるかということが重要です。このような造形的な視点を自分から獲得するということで、子どもには活用できる「知識」が身につきます。私たちは、子どもがどんなところに気づくのか、どんなふうに考えるのか、子どもと作品に思いをめぐらせたいものです。今日は自分のグループだけではなく、違うグループとの交流もできたことで、私たちの造形的な視点も広がったと思います。とてもよい振り返りができたと思います」

中学生対象のワークの詳細はこちら >>

高校生対象  星グループ

文責:松尾由子(国立西洋美術館 学芸課 特定研究員)

概要

星グループは2つに分かれ、ジャコメッティの彫刻《ヤナイハラⅠ》の授業プランを発表しました。最初のグループは、彫刻作品とドローイングとの比較を行なうことで創作のプロセスを理解し、作る過程そのものの楽しさを感じとる授業を発表しました。またその先に、創作の一過程を体験する活動も提案しました。もう一方のグループは、《ヤナイハラI》と同一モデルの油絵《男》の2作品が並ぶ展示空間を利用しました。彫刻と油絵をじっくり見た後に比較し、共通点を探すことで、作者が追い求めたものや制作に向かう姿勢にまで想いを巡らす授業を発表しました。

星ファシリテーターの振り返り
「今回のグループワークは対話的な深い学びを目指して始まりました。先生方が積極的に発言し真剣に考えてくださった結果、ひとつのものが生まれたというより、色々な疑問が集まったものが1個できたと感じています。参加者の感想にあったように、私自身も濃密ないい時間を過ごすことができました。このワークでは当初、学芸員の橋本さんによる解説の予定はありませんでした。しかし内容を練る中で、橋本さんからお話を聞かなければ鑑賞が深まっていかないと感じ、お願いをしました。美術館を活用する際に、学芸員と教師とでやりとりをすることが鑑賞の深まりにつながる1つの例だと思います。ジャコメッティは「見えるものを見えるとおりに」というある意味簡潔で単純な、しかし壮大で深い志をもっていました。そんなジャコメッティを通して、高校生に人間の生き方や人生観について考えさせるところまでもっていければと思っていました」

高校生対象のワークの詳細はこちら >>