ワールドカフェ
ワールドカフェとは
ワールドカフェは、カフェのような設えのリラックスした雰囲気の中で、話し合うメンバーを変えながら、4~5人の小グループで話し合いを続けることによって、お互いの想いを共有したり、知識や知覚を触発したりしながら、集合知を生み出す話し合いの手法です。
結論を出すことを目的としていない「決めない会議」でもあり、1995年、米国のアニータ・ブラウンとデイビッド・アイザックスによって編み出され、研修や会議などで拡がってきたといわれています。
「全国から集まった参加者と情報交換がしたい」、「連携をして行くために、同じ地域の参加者と出会いたい」という要望を叶えるために、昨年度から導入した結果、参加者アンケートでも非常に好評を博したため、今年度も開催することにしました。
- 日程:
- 8月2日(火)12:45~14:45
- 会場:
- 国立新美術館 2階
- 司会:
- 藤吉祐子
- 目的:
- 参加者同士の話し合いを通して、鑑賞教育の目的や課題を再確認するとともに情報交換や将来の連携のきっかけづくりの場を提供する。
- 方法:
- 参加者(委員、ファシリテータ、サブファシリテータを含む)は、地域(北海道~宮崎)ごとに4人ずつ、30卓のテーブルに着席。テーブルには、模造紙が敷かれ、マーカー、飲み物、菓子、「カフェのマナー」カードが用意されている。鑑賞教育にまつわるテーマについて、メンバーを変えながら話し合いを続け、各々の考えや思い、意見を共有・交換する。
- テーマ:
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第1ラウンド「あなたの心に残っている鑑賞体験は?」
第2ラウンド(メンバーを変えて第1ラウンドと同じテーマ)
第3ラウンド「(メンバーを変えて)これから子どもとやってみたい鑑賞活動は?」
第4ラウンド(再び最初のメンバーとともに、それまでに聞いた話や、各自の感想、アイディアなどを話し合う)
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ワールドカフェとは? 始めて耳にする参加者も多く、興味津々 -
「あなたの心に残っている鑑賞体験は?」 -
話しに聞き入りながら、笑顔がこぼれます -
ワールドカフェでは人の話しをじっくり聴くことが大切 -
20分が過ぎると、別のテーブルに旅立ちます -
前のラウンドの話しを新しいメンバーと掘り下げます -
模造紙にアイディアを 書き込んで行きます -
「これから子どもと やってみたい鑑賞活動は?」 -
アイディアをつないでいくことが 重要 -
書かれていることからの新たな発見もあります -
模造紙一杯のアイディア -
アイディアが掘り下げられ、つなげられていった様子が見て取れます -
長田謙一先生からのコメント -
沈黙の時間 -
ワールドカフェを振り返りながら、 キーワードなどを付箋に記入 -
全員で共有できるよう、 付箋を貼り出します
活動の詳細
- 第1ラウンド
「あなたの心に残っている鑑賞体験は?:その1」 -
第1ラウンドでは、「あなたの心に残っている鑑賞体験は?」というテーマについて、20分間オープンに話し合います。模造紙には会話をしながら、キーワードなどを自由に書いたり、イラストを描いたりします。発表用ではなく、その後のラウンドで新しくテーブルに移動して来たメンバーに、各テーブルでどんな話し合いがなされたかを説明するためや、メンバーのアイディアをつなぎあわせていくために使用します。
- ※メンバー交代
- 第2ラウンド
「あなたの心に残っている鑑賞体験は?:その2」 - 各テーブルには1名のテーブル・ホストが残り、他のメンバーは、旅人として別のテーブルに自由に移動します。
テーブル・ホストは、旅人に自分のテーブルでの対話内容について簡単に説明します。
旅人も、自分のテーブルで出たアイディアを紹介し、第1ラウンドと同じテーマについてさらに20分間話し合いを続けます。 - ※メンバー交代
- 第3ラウンド
「これから子どもとやってみたい鑑賞活動は?」 - テーブル・ホストは残り(テーブル・ホストは最後まで最初と同じテーブルにいます)、旅人は再び別のテーブルに移動します。
2番目のテーマ「これから子どもとやってみたい鑑賞活動は?」について20分間自由に話し合います。 - ※最初のテーブルに戻る
- 第4ラウンド
これまでの話し合いの振り返りとまとめ - 最初のテーブルに旅人は戻ります。
テーブル・ホストは、それまでにそのテーブルで出た話しを紹介し、旅人は旅先で得たアイディアなどを紹介しながら、気付きや発見を統合し、つながりを探求します。 - 全体セッション
- 数名の参加者から、ワールドカフェで得た気付きや思い、テーブルで出た質問などを紹介していただきます。
最後に、長田謙一委員(首都大学東京システムデザイン学部教授)から実際に参加された印象など、コメントをいただきます。 - 「沈黙の時間」
- ワールドカフェの感想、印象に残った言葉や自分自身にとってキーワードとなって来た言葉などを、付箋紙に自由に書いて貼り出します。
- ワールドカフェで使用したパワーポイントはこちらからダウンロード出来ます。
講評
長田謙一
(首都大学東京システムデザイン学部教授)
[略歴]
東京藝術大学大学院修了(美学)
美と芸術の「近代」をアヴァンギャルド・デザイン・美術館・受容者・教育・日欧比較などのアスペクトから研究
著書には『斎藤佳三』(INAX出版)、『歴史展示のメッセージ』(UM BOOKS、共著)、『近代日本デザイン史』(美学出版、共編著)など多数
価値を振り分ける経験を一緒にしていくということ
私は、このワールドカフェに去年初めて参加して、文字どおり本当に全世界に古巣の蜂が飛び交って、いろいろな交配が行われていく様子を、感動をもって経験しました。今日、2度目のワールドカフェに参加させていただいて、一人ひとりの鑑賞体験がどんどん共有され、そして、子どもたちにどのような鑑賞の場を作っていきたいか、というところに向けて、多様性をはらみながら、でも、それぞれのテーブルごとにユニークなものができていくプロセスを、あらためてすごいなと思いました。
最後の全体セッションでもコメントが出ていましたが、私のテーブルでも身近な所に鑑賞の機会というのはいろいろあるはず、という議論が出ました。その中で、では、そのような身近にある物が、どのようにしたら本当に鑑賞の対象になるのだろうか、例えば、このような小汚い物をわざわざ子どもたちと一緒に見る意味があるだろうか、という問題になるよねという話になりました。だとすると、何を鑑賞の対象にして、何を鑑賞の対象にしないのかというのは、一体、何で決められるのだろうか、ということになります。
つまり、みんなで語り合うことで「これは見る価値がある物」「これは見る価値がない物」という、意味がある物・ない物の振り分けを私たちは鑑賞するときにやっているということだな、と思いながら、私はその議論に参加していたのですね。
見る価値がある物・価値がない物、実は、これはふるいに掛けていますね。このふるいに掛けるのを、美術館の学芸員や学校の教員がすることで鑑賞の場が作られるとすると、教師が本当に感動をしながら見るという経験をしていないと、結局、お仕着せの物を、これは世の中で見る価値があると思われているから鑑賞の場を作るのだ、ということになってしまいかねない。
対話をしながら、子どもたちが、意味のある物・ない物をふるい分けていくのと同じように、教師あるいはファシリテータも意味がある物・意味がない物を見分けていく、振り分けていく経験を子どもたちと一緒にしていくという結構大変なことをやるのだなと、このワールドカフェをあちらこちら回りながら考えさせていただきました。
多分、そのように意味がある物に対する責任を大人たちはどこかで負う。ただし、その責任を負った物を子どもたちに押しつけるのではなくて、子どもたち自身が見出していく意味がある物と大人の我々が、これが意味がある物というものが、やはりどこかで最後には対話するという、そのような鑑賞の場がこれからいろいろな形で繰り広げられていくに違いないという感想を持ちました。どうもありがとうございました。
受講者アンケート(ワールドカフェ)
受講者感想(抜粋)
小学校教諭
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- いろいろな場所のいろいろな立場の方の話が聞けたのがとても嬉しかった。
- 新しい手法で特に興味があった。校内研究で小人数の話し合いにもいいと思うので、学校でも紹介したいと思う。
- ワールドカフェの進め方等の資料がいただきたかった。
- 同じ県の方と顔見知りになれたことがありがたい。
- メンバーが替わるたびにいろいろな話ができ刺激的な内容だった。ただ話を深めるには時間が短くちょっともの足りなさも感じた。
- 鑑賞教育に対する多くの意見を交流することで新たな考えや価値観を共有することができたし、子どもを地域にある生活に根づいたものへと目を向けさせて、根拠をもって美しさを感じ取らせるという鑑賞が大切であるということに共感できた。
- 自由に話し合う雰囲気だったので、多くの方々といろいろな話をすることができて楽しかった。違った立場の方々や、地域の方々と話をしていくことがおもしろかった。自分の意見も気軽に言え、かつ、学ぶことも多く有意義だった。
- 初めてのスタイルだったが、より多くの情報を交換することができ、鑑賞のあり方や美術館との連携についても考えることができた。
中学校教諭
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- 様々な人と会話をする中で、自分や自分の周囲だけでは出てこないような新鮮なアイディアを得ることができ、とても有意義だった。
- 面白い、これだけでもまた参加してみたい。
- 全国各地の美術教員、学芸員の方々と意見交換する機会はめったにないので大変勉強になった。もう少し時間を延長してもらっても良かった。
- 多くの人との意見交換は大変勉強になった。ワールドカフェの手法はいろいろな場面で応用できるなと感じた。
- 全体の最初にもってきた方が良いのではないかと感じた。
- 全国各地の美術に携わる方々とそれぞれの経験や思いを分かち合い、リラックスできる場面設定の中、積極的に話し合いに参加でき、かなり充実感があった。
- 初めての取り組みで新鮮に受けられた。シンプルなルールだが、一つのテーマに対して、人と人が交流して考えていく、追求していくことができることに驚いた。
- 複数の人と話すと、頭の中にひらめきが生まれると思った。今まで一人で考えていたことが、納得につながるなと感じた。
指導主事
- 時間があっという間に過ぎ、濃く、広く、鑑賞について話し合うことができ楽しかった。
- まさに「鑑賞」をテーマとしたギャラリートークのようで楽しかった。大人数でもこんなふうに行えば交流が図れるのだと知ることができた。いろいろな場で活用できる方法だと思う。
- このような形式での対話は初めて体験した。様々な研修会の際に活用できる形式だと思う。ホスト役の方の進行もとても良かった。
学芸員
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- いろいろな方の意見を聞くことができたが、特に「これからやってみたい鑑賞活動」については建設的で前向きなアイディアは少なかった。
- 最後のまとめは大切といわれたがなくても良かったような気もする。それよりも最後にそれぞれが書いた付箋紙をゆっくりみたかった。
- 自由な意見交換から、共通認識や自分の疑問解決もでき大変面白かった。
- 短時間にたくさんの方とお話をして、各々の体験や状況や考えを知ることができ、鑑賞教育プログラムを再考する材料になった。
- 意見交換や交流というのは相手のいるところと遠いほど得るものが多いと思う。今回のように、全国の皆さんがいる中でのワールドカフェは大変意義深いと思った。