講演
「みること・みつめること」
東良雅人
(文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官)
[略歴]
昭和62年に京都市立の公立中学校の美術科教諭として赴任
その後、京都市の公立小学校図画工作の専科を担当
平成14年から平成23年3月まで京都市の教育委員会で指導主事を務める
平成23年4月より現職
ごあいさつ
改めまして、こんにちは。文部科学省で教科調査官をしております東良と言います。図画工作、美術、工芸に関係する教科調査官は2人おりまして、初等教育と中等教育に分かれております。
私は中等教育の担当ですので、中学校の美術と高等学校の美術、工芸の担当の教科調査官ということになります。
今日は講演ということですが、もう十分どっぷりと鑑賞に浸っていただいて、かなり鑑賞の力がみなぎっている状態の皆さんの前でお話をするということなので、ちょっと緊張しております。短い時間ですけれどもよろしくお願いいたします。
1.はじめに
今日は、テーマを、ということでしたので「みること・みつめること」ということをテーマにしました。「みること」や「みつめること」ということを通して、この二日間、先生方が研修の中でいろいろと得たものを私のほうで少しでもつなげていけたらなというように思っております。
どうでしたか、昨日から始まって二日間、それぞれのファシリテータの先生方を中心に、鑑賞の内容や授業のプログラムのことについて話し合いがあったり、参加者が学校の先生、学芸員の方、それから指導主事の方ということで、職種や校種が多岐にわたっておりますので、そのような交流もあったりしたのではないかなと思います。それから、それぞれのファシリテータの皆さんが事前に作品を選ばれたり、活動の手順などを考えたりされたので、私の方はちょっとずつ回らせていただきましたけれども、非常にいろいろな工夫がなされていて、皆さんも他のチームのことを知りたいというようなこともあったのではないかなと思います。
小学校の事例「すてきな色を見~つけた」
まず、話をする前に少し事例を紹介させてもらって、それをきっかけにお話しできたらなと思います。
小学校の第3学年の実践です。「すてきな色を見~つけた」という事例です。
まず、これは自分たちの街に出掛けて、素敵だなと思う色を見つけようということを子どもたちに投げ掛けて、そして自分たちの慣れ親しんでいる地域に出掛けていって、自分たちが素敵だなと思う色を見つける活動から始まります。私は、中学校の元々教員だったせいか、なかなか生徒の前で「素敵」という言葉を使わなかったといいますか、ちょっと恥ずかしいなという感じがあったのですけれども、小学校の先生は結構「素敵」という言葉をよく使われるのではないかと思います。
改めて考えますと「素敵」という言葉はいいですね。「好き」とはちょっと違いますね、「素敵」というのは。だから「素敵」というのは本当に子どもたちに投げ掛ける言葉としては、私は非常にいいなと思うのですね。だから、子どもたちが一生懸命、自分が好きだけではなくて、他の人にも素敵と思われたいという、そのような思いも生まれたのではないかという、本当に「素敵」という言葉が素敵ということを思っているのです。 子どもたちは、このように街の中に出掛けて、街の中でいろいろな色や色の組み合わせを探して、先生にお願いして、そこを撮ってもらうのですね。子どもたちは、いろいろな色を見つけます。これは、関西のほうの小学校の実践ですけれども、今、この色の組み合わせを見て皆さんの中で「あれ?あれは、あれかな」というように思うのがひょっとしたらあるかもしれませんね。
子どもたちは、そのような自分が素敵だなと思う色を見つけて、それをどのような楽しい色や組み合わせを見つけたかということを、そして、それを見てどのように思ったかというのを交流します。気に入った理由を書いて、生活班のグループや同じ色のものを選んだ子たちのグループ、いろいろな色を見つけた子たちが集まって、それぞれ自分が見つけた色の素敵さを紹介して、色の組み合わせを交流したりします。 これが先ほどの色の看板です。分かりましたかね、中華のお店なのですけれども、そこの色の下の組み合わせを選んだと。「緑とオレンジと黄色と赤の組み合わせがきれいだなあと思ったので、この写真にしました」というように、このように子どもたちがそれぞれ素敵だなと思ったことをワークシートに書いて、それを基に交流をしています。
「わたしが、なぜこの色をえらんだかというと、オレンジの中にいろんな色があって素敵だと思ったからです」
「この写真が、なぜ好きかというと、オレンジ色とみどり色と赤色の組み合わせが虹みたいにカラフルだからです」
「青の所は川みたいだから、黄色の所も太陽みたいできれいだから気に入っています」
この子は、これを虹色というように、それが素敵だなと思って選びました。
でも、ある子は、上の犬の所と下の携帯電話の色は、同じ色でちゃんとコーディネートしてある、それが素敵だなと思って選んでいます。
このように同じものを選んでも、子どもたちによってその素敵と思うところの違いがやはりあるわけですね。このようなものが交流の中でいろいろと出てくるわけです。気に入った理由のところを少しまとめてみました。
「わたしは、黄色の所が太陽みたいだと思ったけれども、Aさんは太陽の光が濃くなっていると言っていました。交流して楽しかったです」
「やっぱり自分と友達は思い方が違っていて、不思議ですごいです」
「街にもこんなきれいな物や紙があるなんて思いませんでした」
「みんな僕が知らないことを書いていたので、すごいなあと思いました」
などですね。
交流の中で自分の見方や感じ方ではない、他の児童の見方や感じ方と出会って、そして自分の見方や感じ方を少しなりとも広げていくことがワークシートの交流の結果から読み取れるのではないかな思います。
今度は、街にあったら自分で素敵だなと思うパネルを作ってみようということで、色画用紙を使って自分たちで街を素敵にする色の組み合わせを考えていきます。
このようにこの題材は自分でも街に出て、いろいろな色と出会い、そして友達との交流の中で見方を広げた中で、最後は自分自身でこのようなものをつくっていくというような表現もしますが、見るということを真ん中に据えた題材だと思います。