グループワーク 中学生対象
渡邉グループ 版画の見方 楽しみ方:精緻な線による表現
- ファシリテーター:
- 渡邉美香(大阪教育大学 教育学部 准教授)
- 受講者:
- 11名(中学校教諭10名、学芸員1名)
- 課題作品:
- 版画企画展示室全体(アルブレヒト・デューラー《ネメシス(運命)》1502年、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン、ピーテル・ブリューゲル(父)の原画に基づく《金銭の戦い》1570年以降など)
グループワークの進め方
- 鑑賞指導で大切にしたいことを併せ自己紹介
- 「運命」を主題に展示された15-17世紀の西洋版画作品を鑑賞し、作者は当時の人々に何を伝えようとしたのか、版画という表現媒体の特質も含め感じたこと考えたことを発表
- 銅版画の線について、他の版種と比較した資料展示、技法解説ビデオ、道具展示、拡大鏡で見る線(印刷局の絵等)の展示から学ぶ。エングレーヴィング技法の線の特徴に着目し気づいたことを発表
- 銅版をビュランで彫る体験(木版と比較)
- グループに分かれ、中学校で実践したい授業案「版画の見方、楽しみ方」について指導のねらい、具体的な活動計画、学習評価を話し合い検討
- 授業案の発表・意見交流。以下の授業案が発表された
①版画というメディアの特質から作者の思いや主題に迫ろうとするもの
②ものが作られる技術に着目し生活との関わりを理解しようとするもの
③線の分析から作品の見え方や質の違い、作者の表現の工夫を理解しようとするもの
グループワークを振り返って
受講者の皆さんが考えた授業案は、それぞれどれも銅版画の見方・楽しみ方を伝える素晴らしいものとなりました。作品の鑑賞を通して、どんどん本質に迫る先生方の意識の高さにも驚かされました。美術館の調査研究の成果を見聞することで授業へのヒントを得ることも大事な美術館の活用方法です。このグループワークでは、研究成果を丸ごと享受し楽しむ先生方の姿を見ることができました。(渡邉美香)
弘中グループ 中学生の実態に合う美術鑑賞とは?
- ファシリテーター:
- 弘中智子(板橋区立美術館 学芸員)
- 受講者:
- 10名(小・中・高等学校教諭8名、学芸員2名)
- 課題作品:
- ギュスターヴ・クールベ《波》1870年頃
グループワークの進め方
- グループワークのテーマ、自己紹介
- 中学生との鑑賞で嬉しかったことを付箋に書き、共有
- 中学生にとっての美術鑑賞の意義について話し合う
- 絵画で大喜利。展示室の作品1点を選び、笑える一言を付けて発表する
- 課題作品の鑑賞、1人で、2人で、対話型鑑賞で
- フィッシュボウル方式で先の体験を踏まえて中学生と鑑賞について話す
- 架空の中学生のキャラクター設定をし、3〜4人1組でそのグループに《波》の鑑賞を楽しんでもらうプランを立てる
グループワークを振り返って
参加者の多くが経験豊かでさまざまな試みをされていたため、お互いの体験を持ち寄ることに重点を置いた。参加者が設定した中学生は必ずしも美術に興味のある、優等生ではなかったが、多様な問題を抱える今日の中学生にどうすれば作品に関心を持ってもらえるのか、具体的なアプローチが出てきた。絵画での大喜利は初めての試みであったが、作品を隅々まで観察し、考える時間をもち、全員で作品を見て笑うという体験を共有できた。(弘中智子)
松山+吉澤グループ 「深い学び」が生まれる鑑賞活動とは?
- ファシリテーター:
- 松山沙樹(京都国立近代美術館 学芸課 特定研究員)
- サブファシリテーター:
- 吉澤菜摘(国立新美術館 学芸課 主任研究員)
- 受講者:
- 11名(中学校教諭9名、学芸員1名、指導主事1名)
- 課題作品:
- ハインリヒ・フュースリ《グイド・カヴァルカンティの亡霊に出会うテオドーレ》1783年頃
グループワークの進め方
- 人物カードでウォーミングアップ:エリア内の作品に登場する人物を使ったカードについて、各自が読み札を考える
- 美術館を活用した鑑賞について課題の共有
- 課題作品の鑑賞① 対話による鑑賞
- 課題作品の鑑賞② 作品の背景にある物語を知り、作品の印象や感じ方の変化について話し合う
- 課題作品を見た時の中学生の反応を分類
- 3グループに分かれ、中学生との鑑賞プログラムを考える:美術館との連携、学習指導要領との関わりも意識しながら
グループワークを振り返って
フュースリの作品は、造形的な要素が多く物語との関わりもあるなど、さまざまな側面から鑑賞が可能な作品でした。後半は「構図や光、目線に気づく」「主人公は誰か考える」といった明確なねらいをもった3つのプログラムが完成。特に、学校で鑑賞活動を行なった後に、鑑賞がさらに深まる作品を美術館スタッフに紹介してもらうというプランは、先生方の柔軟な発想から生まれた素晴らしいアイデアでした。今回の研修が、今後の授業づくりや作品選びのヒントになれば幸いです。(松山沙樹)
約4時間のグループワークで、参加者たちは中学生が「深い学び」に至るプロセスを想像しながら、話し合いを重ねました。美術鑑賞を通した子どもたちの学びは、美術館の中だけで生まれるわけではありません。鑑賞の場として美術館を利用するのではなく、美術館に蓄積されている情報や学芸員の知識に館外からアプローチすることに着目した鑑賞プログラム作りは、参加者にとって美術館活用の新たな可能性を探る試みであったと思います。(吉澤菜摘)
濱脇+道越グループ 作家の主題に迫って~子供が主役の鑑賞活動~
- ファシリテーター:
- 濱脇みどり(西東京市立青嵐中学校 主任教諭)
- サブファシリテーター:
- 道越洋美(静岡県教育委員会静西教育事務所 地域支援課 指導主事)
- 受講者:
- 11名(中学校教諭8名、指導主事3名)
- 課題作品:
- ポール・ゴーガン《海辺に立つブルターニュの少女たち》1889年
参考作品として 同《ブルターニュ風景》1888年)
グループワークの進め方
- アートカードでアイスブレイク「私が今ここにいる理由、そして今の気持ち」をカードを使って伝え合う
- ファシリテーターより、西洋美術館についてと一日の流れの概要を説明
- 2点の作品を比較しながら、じっくりとした対話型鑑賞の体験と振り返り(サブファシリテーターより、新学習指導要領の趣旨を踏まえた午前中のワークの振り返り)
- 参加者の課題意識をもとに「対話型鑑賞の追究」「美術館との連携」「評価の在り方」の3グループに分かれ、解決へのグループワーク
- グループ内発表 → グループワーク全体の振り返り
グループワークを振り返って
対話型鑑賞や美術館との連携の経験が比較的少ない方々によるグループでしたので、午前中はアイスブレイクと対話型の体験にじっくり時間をかけました。参加者の先入観のない眼差しの交流によって、鑑賞はどんどん核心に迫っていきました。午後、3つのグループワークに2人のファシが行ったり来たりで関わったことも、効果的だったと思います。「表現と鑑賞との連環」という課題意識を受けて対象作品を変えましたが、作品選びから活動、評価の見取りまで、子どもの姿を軸に考えていくという本質に向かっていき、嬉しかったです!(濱脇みどり)
2点のゴーガン作品の前で語り合い、参加者の方々が次第にゴーガンの生き方にまで迫っていく場面を目の当たりにしました。新学習指導要領では、これまで以上に子どもの学びの深まりをどのように見取っていくかが重要です。鑑賞の授業を通して子どもにどのような力が育まれるのか、今回のグループワークの中で、参加者がその過程を実感できたのではないかと思います。話合いの中で、参加者の様々な意見をじっくりと聞きながら、一人ひとりがつくりだす価値を引き出しておられた濱脇先生のファシリテーターとしての姿こそ、これからの授業づくりに求められているものだと思います。(道越洋美)