グループワークの成果発表
小学生対象 奥村・後藤グループ、柴﨑・青木グループ、遊免グループ、今井グループ
概要
奥村・後藤グループは、オーギュスト・ロダンの彫刻作品5点を取り上げ、アクティビティを行ないながら研修を進めました。身体を使って作品を真似てみたり、モールを使用して作品や作品から派生した印象を表現したりと、多様な鑑賞方法を体験しました。8種類のアクティビティを体験したうえで、「鑑賞体験が子どもたちに何をもたらすのか」ということに立ち返ってみると、「作品、友達、仲間との触れ合いであり、対話の場である」「その場限りの経験で終わるのではなく、次の創造活動への意欲に繋がる場であって欲しい」という意見がまとまりました。
柴﨑・青木グループは、作品について受講者がギャラリートークを行なうところから始まりました。そして、ギャラリートークで発言された意見をもとに、2グループに分かれて鑑賞授業を構想しました。ヤン・ステーン《村の結婚》を扱うグループは、他3作品も含め「届けよう、幸せの指輪—絵の繋がりを考えて」と題した授業を考案。物語を考え対話をしながら絵画同士の関連性を見出していきました。一方のグループは、「作品の世界へ飛び込もう—聖アントニウスを誘惑せよ」と題し、ダフィット・テニールス《聖アントニウスの誘惑》の物語性に着目し演劇をまじえた内容となりました。
遊免グループは、オーギュスト・ロダンの彫刻作品6点を取り上げました。まず、対話を用いて《オルフェウス》の鑑賞を行ないました。児童たちが美術館へ訪れたときに体験できるであろうことを改めて体験し、多様な気付きがあることを再確認しました。その後、専用の手袋を着用し二人一組のペアに分かれ、作品を触りながら鑑賞しました。視覚を用いた鑑賞と、触覚を用いた鑑賞での体験を踏まえ、「彫刻の鑑賞によってどのような学び・気付き・学習効果が得られるのか」「一方でどんな課題があるのか」「その上で自らの学校・美術館ではどのような授業に展開できるか」ということを検討しました。
今井グループは、クロード・モネの作品12点が展示されたスペースで研修を行ないました。はじめに3グループに分かれ、それぞれ《黄色いアイリス》《ウォータールー橋》《睡蓮》を五感を通して分析しながら鑑賞しました。個人の意見や感想をグループ内で共有し、鑑賞が深まったところで、「子どもたちとモネを出会わせるにはどうしたらよいか」という課題の検討に移りました。実際に来館した場合を想定し、子どもたちにとって身近な切り口から作品と向き合い始めるためのアイディアを提案するグループもあれば、事前学習時の工夫について提案するグループなど、多様な視点からのアプローチが検討されました。
発表を振り返って
小学生対象のグループワークは4班とも、さらに2、3の小グループに分かれて授業案やアクティビティを考えるという方法をとっていました。そのため成果発表は、それぞれファシリテータが全体を説明した後、小グループ毎に研究作品の前で発表する形となりました。これにより、40名ほどの参加者全員で10作品ほどを改めて鑑賞することとなり、手袋を着用して彫刻作品を触ったり、ギャラリートークの抜粋版を聞いたりと、多様な方法を体験することができました。このような経験のシェアも、美術館で行なう研修ならではの利点だと改めて思います。(一條彰子)
中学生対象 渡邉グループ、弘中グループ、松山・吉澤グループ、濱脇・道越グループ
概要
渡邉グループは、小企画展「西洋版画を視る」を鑑賞し、版画の楽しみ方を考えながら、銅版の技法を体験しました。美術館で教員が版画の研究を学び、その学びを生徒にどのように伝えるかについて発表しました。
「線をキーワードに授業を展開」「表現につながる鑑賞の展開」「版画と生活の関わり」という3つのグループでは、異なる議論が行なわれました。全グループ共通して、紙幣を授業の導入に用いた提案となりました。かつて情報を伝える技術としての発達した版画を現代のSNSなど、身近にあるものと関連付けることで、生徒自身が自分の言葉で生活と密着していることを発表できることが評価のポイントになるとの提案がありました。
弘中グループはクールベの《波》を取り上げ、中学生と一緒に作品を鑑賞する意味を考えました。事前に準備した架空の学生プロフィールをもとに授業案を考え、生徒の反応や評価の方法について発表しました。
中学生と一緒に鑑賞体験をして、鑑賞授業の後に生徒が自発的に美術館へ行ったり、いつも仲良くしている人以外とも会話する様子を見かけたりすると、先生たちは鑑賞教育の効果を実感できるようです。架空の生徒を想定しながら授業案を考える中で、「様々な作品に触れ、意見を発することで他者から認められる。そうした自己肯定感が他者への理解に繋がっていく」ことを、仲間との共感や新しい価値観の発見から気が付いてもらいたいという発表がありました。
松山・吉澤グループはフュースリの《グイド・カヴァルカンティの亡霊に出会うテオドーレ》を中心に7作品を使い、中学生とどのような体験をするのかについて考えました。
「作品の選び方」「子どもたちが美術館で初めて作品と出会う」「何が描かれているのか」というテーマでグループワークを行ない、発表の中で、鑑賞に際してどの程度作品を解説し、生徒たちから出た意見を尊重するのかという課題に悩まれていました。また、授業で鑑賞を行なうために選択した作品と年代が近い、あるいは、テーマの類似した作品を美術館に紹介してもらうなどの連携がとれないかという提案がありました。
濱脇・道越グループはゴーガンの絵画2点について、チームに分かれて授業案を作成しました。「美術館との連携」「対話型鑑賞の使い方」「評価について」というテーマから、生徒たちの視点で何を伝えられるか発表しました。
先生たちが、鑑賞を取り入れた授業を行なう際に悩まれているのが評価方法です。発言できる子、文章にまとめるのが上手な子、その両方が苦手な子といった多様性に対応した評価を行なうために、ワークシート、自己評価、発表の3つを活用した評価の仕方について提案がありました。また、教師側が授業の目標を意識し過ぎると、生徒たちの大事な発見や発想を見落としてしまうため、授業の目的と生徒たちの反応をよく観察していくことの重要性を再確認しました。
発表を振り返って
今回も在職年数や経験などによってグループ分けが行なわれましたが、ワークではどのグループも作品と向かい合い、じっくり自分の眼で見る、対話するといった基本を大切にしていました。そして、成果発表では具体的な授業案や鑑賞活動について考えるにあたり、中学生の知識、興味・関心、気持ち、反応などをきちんと想定していたことが印象に残りました。こうなって欲しいという期待から、忘れがちになる中学生の実像をより具体的な言葉や形に表していたのがとてもよかったです。(寺島洋子)
高校生対象 亀井グループ、星グループ
概要
亀井グループは、エドモン=フランソワ・アマン=ジャンの《日本婦人の肖像(黒木婦人)》を取り上げ、「高校生と鑑賞するときにどのような見方や考え方があるのか」、「この作品を活用した美術鑑賞や授業のあり方」について3つのグループに分かれて考察しました。
星グループは、コルビュジエの絵画と建築をテーマに、「鑑賞で大切なこと、大切にしたいこと」、「高校生にとっての鑑賞とは」、「美術館との連携」について2つのグループに分かれて話し合いました。
グループ発表後、高校グループ全体を3つのグループに分け、「学校における鑑賞と比べて美術館での鑑賞のメリット」についてと、「情報や知識を先に与えることのメリットと、与えないことのメリット」についてディスカッションを行ないました。その後全体で意見を共有し、東良先生より総評をいただきました。
発表を振り返って
高等学校のグループワークは、アマン=ジャンの作品《日本婦人の肖像》を対象とした亀井グループと、ル・コルビュジエの作品《レア》等を対象とした星グループの2つのグループで行なわれました。それぞれ作品を“見る”ことから始まり、根拠をもって批評や討論するなどの活動を通して、高校生の鑑賞とは何かということや、高校の鑑賞で大切にしたいこと、美術館の鑑賞と学校の鑑賞について考え、生徒の作品に対する見方や感じ方を深めるためのワークが進められました。(東良雅人)