ギャラリートーク分析
- 日時:
- 7月31日(火) 10:00~11:30
- 会場:
- 東京国立近代美術館 講堂
- 講師:
- 一柳智紀(新潟大学教育学部教育科学講座 准教授)
本間美里(東京都大田区立矢口小学校教諭) - 司会:
- 三澤一実(武蔵野美術大学教職課程研究室教授)
- 編集・構成:
- 奥村高明(聖徳大学児童学部児童学科教授)
一條彰子(東京国立近代美術館主任研究員)
寺島洋子(国立西洋美術館主任研究員)
室屋泰三(国立新美術館主任研究員)
概要
ギャラリートークは、美術館の基本となる鑑賞活動の一つです。ギャラリートークを通して、子どもたちは様々な作品と出会い、感じ、観察し、考え、(他者の意見を)聞き、(自分の意見を)表現し、そして自分なりに作品を解釈します。その行為は、子どもの多様な能力を深めることに繋がります。
平成22年度までの研修では、実際に複数のギャラリートークを実施することで、こうした鑑賞行為を観察する機会を提供してきましたが、平成23年度からは記録映像を基に小学生と中学生のギャラリートークを分析するプログラムに変更しました。トーク分析の目的は、実際のトークではできない時間を止めたり、遡ったりすることで、鑑賞行為を通して子どもたちの中に何が起き、それはどのようにして変化するかを確認すること、また、教員はどのようにしてそれを深めるかを考えることです。
今年度、小学生のトークでは、作品を介して子ども同士で、また、子どもと教員の間で交わされる言葉に焦点をあてて分析を試みました。思春期に入り自分の意見を人前で話すことをためらう中学生のトークでは、視線や体の動きといった鑑賞のさなかに起きる身体的な行為に焦点をあてて分析を試みました。言葉と行為、コミュニケーションに不可欠な二つの要素の分析を通して、子どもの心の動きや変化を理解する機会を提供できたのではないかと思います。
分析対象
1.小学生
- 対象者:
- 渋谷区立長谷戸小学校 4年生24名
- 撮影日時:
- 平成24年2月21日、9時30分~12時
- 撮影場所:
- 国立西洋美術館 常設展示室
- 指導者:
- 菅谷千紘(同校図画工作科教諭)
- 対象作品:
- ヤーコブ・ヨルダーンス《ソドムを去るロトとその家族》1618~20年頃、油彩・カンヴァス
オーギュスト・ロダン《美しかりしオーミエール》1885~87年、ブロンズ
アンドレ・ボーシャン《アルクマールの運河、オランダ》1940年、油彩・カンヴァス
2.中学生
- 対象者:
- 東村山市立東村山第五中学校 2年生13名
- 撮影日時:
- 平成24年2月9日、10時~12時
- 撮影場所:
- 国立西洋美術館 常設展示室
- 指導者:
- 奥村高明(聖徳大学児童学部児童学科教授)
- 対象作品:
- アリスティード・マイヨール《夜》1902~09年、ブロンズ
アルベール・グレーズ《収穫物の脱穀》1912年、油彩・カンヴァス
オーギュスト・ロダン《地獄の門》1880~90年頃、ブロンズ
受講者アンケート(ギャラリートーク分析)
受講者感想(抜粋)
小学校教諭
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- 子どもの視点や、しぐさなど、ギャラリートーク時に注意すべきことやトークの運び方など参考になった。
- 実際の、発言以外の身体表現による児童の読み取りについてとても勉強になった。
- 子どもの行為に注目した、詳しい分析により、自分で授業を進める際の視点を与えて頂いた。
- 学校の時からもっと鑑賞教育をしていくことが大切だと思った。作品を見つめる時、作品と向き合う時の子ども達の瞳が輝いていた。
- よりよい子どもと作品との出会いつくるためにトークプランをしっかりつくること、子どものイメージの広がり子どもどうしのイメージの共有などを大切にするライブ感を大切にすることを意識してギャラリートークを考えていきたいと思った。
- 子どもの様子を見るという具体的な方法や視点がわかって刺激的であった。もっと見てみたい、勉強してみたいと思った。
- 子どもの活動をしっかり観察することで見えてくることがあると、改めて知ることができた。派手な活動に目がいきがちであるが、子どもの内面で何が起こっているのか、どんな変化があるのかを考えながら活動させていく必要性を感じた。
- 子どものつぶやきだけでなく、体の動き、目線をとらえることは、日ごろから少しはしているが、この講演会でその意味づけをしていただいた気がした。
- 元々言語は手段であって、言語だけで鑑賞するのはいかがかと思っていた。トーク分析では、子どもの表情、体の動きから、その子の鑑賞の仕方を認める分析がよかった。
中学校教諭
-
- 実際の現場では、30~40人があたり前の世界なので、やはり多少なりとも現場で活用できるネタがあると良かった。
- 生徒の反応を見ていく、というのが参考になった。
- 普通の中学生の鑑賞の様子がリアルで、自分の生徒と重ね合わせて想像しやすかった。ただ、奥村先生が最後に一人でまとめてしまっているのではないかと感じた。
- 行動分析の所が非常に興味深かった。子どもたちをよく見つめるということが大切だと思った。
- ジェスチャーに着目していたが、VTRで分析したことがなかったので、様々な発見があった。
- 他の先生の取り組み方がよく分かったし、分析することで、授業者に求められることがわかった。生徒をよく見る、生徒に寄り添うことの大切さを改めて考えた。
- ライブの研究授業ではなく、こんな研究もできるということが驚きだった。また、視線や身体の動きが如実に現れるということも再確認した。自分でも取り組んでみたい。
- 中学生になると小学生と違ってどんどん言葉を発することに照れる生徒が多いので、身体であらわしていることに着目することの大切さに気づいた。
指導主事
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- いつも授業でつい見落としてしまう子どもの様子、動作についてわかりやすく指摘していただきました。
- 「相互行為分析」という授業分析の方法は、子どもの資質・能力を具体的な姿から見取ることができ、今後ぜひ活用していきたいと思った。
- しぐさ、行為による共感の大事さをあらためて実感した。
- 子どもの様子を見るという具体的な方法や視点がわかって刺激的であった。もっと見てみたい、勉強してみたいと思った。
学芸員
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- 本間さんの相互行為分析がわかりやすくためになった。言葉にとらわれず、身体の語る声にももっと眼をこらしてみられるよう頑張ろうと思う。
- これまで自分自身も、美術館の鑑賞ガイドボランティアも数を重ねてトークを行ってきたが、スクリプトを書き出し、対話のプロセスを分析したことはなかったので、帰ってすぐ実践したい。
- 言葉でのコミュニケーションだけでなく、ジェスチャーも重要なコミュニケーションであることが分かった。
- 小学生、中学生で反応が全然違うことに驚いたが、言葉だけでなく、ふとした動きにも気を付けなければならないことを学んだ。
- 発せられた言葉を文字化したもので分析したので、実際にギャラリートークを体験するよりしっかりと分析を理解できたと思う。