ギャラリートーク分析
2.中学生
- 本間
- こんにちは。大田区立矢口小学校の本間と申します。どうぞよろしくお願いいたします。奥村先生が授業をされた中学生の授業を分析させていただきました。今、お話しにありましたように、最初にまず9分間の映像を流しますので、まず見ていただいて、その後にそれぞれの場面をピックアップしてお話しをさせていただきたいと思います。色々と皆さん、鑑賞の授業をされるに当たって、課題や疑問点がおありだと思いますが、それを踏まえつつ、奥村先生がどんな風に授業をされているのかとか、子どもがどんな風にして作品や友だちとトーク、鑑賞しているかというのを少し感じながら見ていただければと思います。
アリスティード・マイヨール『夜』
アリスティード・マイヨール『夜』
展開①-1 彫刻と身体の重なり
- 本間
-
はい、いま、マイヨールの作品を見ていただきましたが、いまのを見てなにか感じたこととか、お気づきになったことはありますでしょうか?ありますというか、ちょっと手を挙げていただけますか。お一人、二人、三人…。そのほかの方は?当てませんから大丈夫ですよ。なにか感じになったことがありますという方?はい、ありがとうございます。
いま、まとめて見ていただいたのですが、資料(ギャラリートーク分析用トランスクリプト2)をお配りしていますので、それぞれの場面に沿ってお話しをさせていただきたいと思います。
資料ですが、6ページ目までは、皆さん目にしたことのない記録の仕方になっていますが、後半戦の部分は先ほど一柳先生が書きおこしてくださったような、今の9分間の会話をすべて書きおこしてあります。いまページ冒頭に書いてありますのは、トランスクリプトといいまして、相互行為分析をするときに、いろんな記号を使って子どもたちの発話や行為を詳細に記録していくという方法です。その記号につきましては、7ページの上に表記記号が書いてありますのでそれを見ていただければと思います。では、映像を見ていきたいと思います。
短いので資料ではなく画面のほうをご覧ください。
はい、今の場面ですけど、さきほど一柳先生はおもに言葉のやりとりのほうを中心に分析してくださいましたが、私のほうでは子どもたちの行為ですね、目線とか身体の動きなどに細かく注目したところをお話ししたいと思います。もう一度見てください。
まず「泣いている」「泣いているように見える」と答えると、「どこから?」「この姿勢」という風に答えると、この子はマイヨールの作品と同じポーズをとるんですね。
泣いている動作
奥村先生も同じポーズをとります。再度もう一度やります。すごく見にくいですけど、この子(左の小さな画面中央)に注目してください。分かりましたか?ほんの数秒ですけどもう一度。
左腕を左の肩のところ、とんとんと指す。
この子、実はマイヨールの作品、入ってきたときに、ぼそっと「たくましい」とつぶやいて、奥村先生がそれに気づかれて聞き返しますが、この子が「なんでもない」と言って答えないんですね。ところが、ここでは、この男の子が「泣いてるみたい」というと奥村先生が同じく真似して2回やった後に、この子がとんとんとやり奥村先生が気づかれて「えっ?」と言って聞きます。でもなかなか言わない、首を振るんですね。
そうすると奥村先生は、この子の表した表現、おそらく筋肉、腕のことを言っていると思って「筋肉?」と聞きます。そうするとやっとここで「ムキムキ」と左腕を指します。
「ムキムキ」と左腕を指す。
「ムキムキ」と2回言って、その後、奥村先生は今度、中央にみんなを寄せます。
さすが奥村先生、ここでお上手だなと思うのは、みんなを中央に集めてから「えっ、ムキムキ?」と全員に共有するような言い方をされています。それで、肩のところ盛り上がっていて「筋肉けっこうあるよ」と言って、子どもはちょっと照れていますが、それでこの場面が終わります。ここで何が言いたいかと言うと、言葉でなかなか上手に表現できない子っていますよね。昨日も皆さんのグループワークを見させていただくなかで、「どんな問いかけを子どもにしたらいいのか?」とか「なかなか発言しない子どもの手立てはどうしたらいいのか?」という付箋が貼ってあるのを見ました。
この子は典型的に自分からは発表できない子ですが、ちょこちょこ自分が言いたいことを自然にだと思いますが「身体化」していますね。それを奥村先生は見落とさずに問いかけて「えっ、なあに?」とか、なかなか言えなかった「筋肉?」とか「ムキムキ」というような言葉で言い換えて発言を促してあげているという場面です。
鑑賞の授業をすると、どうしても言葉、言葉にいきがちになってしまいますが、会話だけではなくジェスチャーとジェスチャーが連鎖していくなかで、子どもの鑑賞の視点とか、発話が生まれたり、奥村先生はずっと腕を組んで見ています。私もそういうクセがありますけど、この男の子(※0分47秒、左のマスクの男の子画像)が「泣いているみたい」というと「僕も自然にパッと体が動いたよ」と奥村先生がおっしゃっていましたが、ファシリテーターもそんな風にして鑑賞者の身体の動きを見て、自分も身体を重ね合わせながら見ている。そういう鑑賞の仕方もあり、なかなか言葉が出てこないお子さんに対しても、そういうことを見落とさずにやっていくことが一つの手立てになると思いますので、言葉、言葉だけではなく、そういう意味でも子どもをよく見て進めていくのがとても大事かなと。鑑賞だけではないと思いますけど。
では次の場面にいきたいと思います。
展開①-2 彫刻と身体の重なり
- 本間
-
はい、今の1本目を参考にして見ると2本目、何か見えた方、いらっしゃいますでしょうか。喋っていないけれども、子どもたち鑑賞しているなという場面を見つけられた方、いらっしゃるでしょうか。もう1回。
彫刻の大きさに目がいって大きいなあという場面です。それで、「こんな大きな女の人いないよな」って言ったとき、この子(左)の視線、なぜ上を向いているか分かりますか?
中央左側の子の視線が、上を向いている。
次、行きます。
「この人、立ったらどのくらいになるだろう?」というときの一番右の眼鏡の男の子に注目してください。 分かりました?一瞬ですけど。うなずいている方、いらっしゃいますね。こういうのを追いかけていくのが相互行為分析です。楽しいです。分かりましたか?一瞬、この子(いちばん右)が目線をピッと上に上げるんですね。
一瞬、右端の子が目線をピッと上に上げる。
その続きです。今度はこの男の子(左から2番目)の画像を見てください。
(左から2番目の男の子に注目)
分かりました?この子も上を一瞬だけ見ます。今度は、この子はすぐに分かりましたね。
普段、お子さん、こういうことたくさん、やっていると思います。それをなかなか自分が授業をやっていると、見落としている場面たくさんあると思います。私も自分の授業を分析しながら、「あ、全然見てないな」という痛恨の一撃を受けながらいつもビデオを見ていますけど、このなかではこの子(真ん中)がちらっと目線を上げました。その次にこの子(一番右)が視線を上げ、次にこの子(左から2番目)が上げ、この子(中央)は手で表現するという場面です。
さらにその続きがあります。さらにこの子(一番右)が背伸びをします。
というように、ここでは身体で自分を表現していますが、この子たちは、彫刻を彫刻、彫像としてではなく「人」として捉えている。そんな風にして作品を鑑賞している場面でもあり、本当は見えないんですよね、座っていて立っていないので、見えないものを見えるようにしているとか、それをさらにみんなで共有して鑑賞しています。おそらく、いろんな鑑賞の場面でこういうことが起きているのではないかと思います。
アルベール・グレーズ『収穫物の脱穀』
展開② 作品への視線→身ぶり→発話
- 本間
-
では、その次に行きたいと思います。
はい。この場面ですが、もう一度戻します。このグレーズの作品はマイオールの前に鑑賞していて、まだちょっと子どもたちが固いですね。ここではなかなか発言がない場面ですが、実は奥村先生、ここで、トランスクリプトでいうと10秒間ほどの間があります。その間に、皆さんも私もそうですが、なかなか待てないじゃないですか。子どもが語ってくれないと、結局こっちがいっぱい発言してしまい、どうしても子供たちに言わせようという感じになるのを、奥村先生は手で指を折ってカウントして自分を律しているということが判明しました(笑)
アルベール・グレーズ《収穫物の脱穀》作品画像 参照
こんな出来る方でも自分を抑制していろんな工夫をしていらっしゃいます。私はなるほどと勉強になりましたけど、これそんなところです。それで、待っている間にこの男の子(画像 小さい画面右から2番目)に注目してください。どんな身体表現をして言葉を語り出すか見てください。
身体表現をする男の子
この子ですね。たぶんもうお気づきになられた方いると思いますが、待っている10秒の間にこの子の視線がものすごくよく動いているんです。奥村先生は女生徒に気づいたことある?と聞くんですね。「ない」、首かしげる。そのとき、この子は答えているように見えますが、実はつぶやいているだけですね。私も実際、見にいったのですが、この子は右の頬を触っています。そんなことしなくてもいいのに、つい触って身体化しているところですけど、彼がつぶやいたのを奥村先生が気づかれて「えっ?」と聞き返します。
そうすると、「人の顔が半分しかない」とピッと手を指すという場面です。
ピッと手を指す。
奥村先生がつぶやきに気づいてひろわれた結果ですが、この後ですね、ここでも奥村先生、みんなを前に集めます。それで「どれ?」と言いながら奥村先生移動されます。
さっきは手前の女の子側にいたのですが、奥村先生、男の子のほうに寄っていき一緒に隣で指を指す。たぶん、皆さんもされていると思います。小学校の先生で低学年の場合、手を挙げ、立ったはいいけど話せないという子はたくさんいると思いますが、わざわざ横に言って「なあに?」とか、黒板を指差して「こういうことだよね」ということをたぶんされていると思います。奥村先生は中学校の先生にもそういうことを是非やってほしいとおっしゃっていました。
なかなか発表できない子、中学生はいろんな事情であると思いますが、こんな風に子どものそばに寄ったり、移動しながら子どもの言葉や表現を促すことができるのではないかと、だから中学校の先生にもやってほしいとおっしゃっていました。
展開③ アイコンタクトから始まる語り
- 本間
-
その続き、同じ作品です。こんどは、この女の子(左)に注目してください。なにが起きるかお分かりになられたでしょうか、この数秒間です。
女の子の視線に注目
女の子の視線によく注目してください。いま分かりました?一瞬。奥村先生をちらっと見て、作品にすぐに戻り、また奥村先生を見て指を指すんですね。奥村先生がそれに気づかれて、この子が発言をするという場面です。もう一回見てください。今、一瞬見たのが分かりますか?また戻して、もう一回見ています。
子どものことを見ている奥村先生
こちらの画面で見るとよく分かりますが、奥村先生は子どものことをよく見てらっしゃいますよね。どうしてもファシリテーターをやると、作品のほうを向きがちになってしまうことはよくあると思いますが、子供の反応を見る、目線を追うということも本当に大事です。今回は人数が少ないので多少見やすいということもありますが、担任される自分のクラスの子どものことはよく分かっていると思いますので、子どもの目線とか体の動きとかをよく追いながら鑑賞を進めていくことはとても大事かなと思います。
オーギュスト・ロダン『地獄の門』
展開④ 行為の連鎖
- 本間
- 次に行きます。最後はロダンの彫刻の作品です。はい、非常に面白い場面ですけど、みなさんいかがでしょうか。このお子さんの3人、とくにこの2人(左から2人目、3人目)と、奥村先生の動きがシンクロしていて面白いなと…(笑)
オーギュスト・ロダン『地獄の門』
-
ちょっと見てください。
動作がシンクロしている。
シンクロしている、ここは奥村先生、作品だけしか見ていません。ここはさっきお話ししたのとは真逆で、3人しかいない中で先生が3人をじっと見て鑑賞したら怖いですよね(笑)
気持ち悪いですよね。それと3人しかいないこともありますが、作品を君たちと一緒に見ているんだよという一体感だったり、今のシンクロじゃないですが、行為の連鎖的なことを一緒に行うことで作品を見ているという…。さらに言葉がかぶっています。聞いてください。
トランスクリプトを見ていただくと分かります。
自分も鑑賞者になるという言い方をしますが、そんな風なスタンスで先生も一緒に見るということも必要なんじゃないかなと思いました。
では最後の鑑賞です。
「ああなるほど」というシーン
天国と地獄ではないかという場面で「ああなるほど」というシーンこの部分の画像ですが、ここも奥村先生と子供たちの言葉と、視線の重なり合いですよね。ここ完全に奥村先生は作品をずっと見てらっしゃる。この3人も作品を見ているというシーンですけども、この子は以前から全然発言しなかった子です。
左から2番目、以前から全然発言しなかった子が…
この子(左)は、ちゃちゃ入れるというか…。この場面、最後ですけど、発言しなかった子が体もほぐれて積極的に参加している。この子(生徒いちばん右)が指すと、この子(左から2番目)が指してみたり、シンクロのところですね。
生徒「いるじゃないですか」奥村先生「いるいる」、この言い方、あとで「ネタばれ」したいと思うんですけど…。
「あ、ほんとだ」それで、「そうですね」で「あ」で気づくんですね。「地獄と天国なのかな」と言うと、この子(左から2番目)が「なるほどね」とつぶやいて、奥村先生がそのことを繰り返すときに、この子(左)は非常に驚いた顔をします。
上が天国かと奥村先生が言う場面
(上が天国かと奥村先生が言う場面)
すごいうれしそうです(笑)(左の子)
言葉で表現しなくても、あの子は表情とか仕草豊かに表してくれていますが、ここではこんな風に子供と身体とかを合わせてシンクロしたり、言葉を重ね合わせて作品を見る。昨日、東良先生のお話しにもありましたが、先生と子どもが三十何人もいるのに毎回、1対1のやりとりになってしまうことってついついあると思いますが、まあ人数少ないということもありますが、こんな風にして子どもと一緒に鑑賞者になって見ていくという場面もあってもいいのではないかと思いました。
ここで「なるほど」と言って奥村先生、作品を見ていますが…。三澤先生、ここでちょっとネタばれを…。
- 三澤
- 実は奥村先生、見ていないんです。「なるほど」というのはその場面であいづちを打つためにとっさに出てきた言葉だと後で聞きました(笑)
- 本間
-
それを聞いてから見ると、「あー、いるいる」「あ、なるほどね」というのは、ふわふわ浮いているように聞こえてしまいますが…(笑)、ここは「上の段の」と言われて、どこの段だろう?と思いながら奥村先生は見てらっしゃったそうです。そんなこともアリだと思います。それよりも子どもが言った言葉に同調して一緒になって「あー、なるほどね」と思うことが大事。そのことによってマスクをかけた男の子は「天国と地獄じゃない?」と発見すると、この子は「おぉ」となり、奥村先生も「あ、そうなんだ」、この子(左)はすごくうれしそうな顔をするという…(笑)
この作品の「天国と地獄」ということは奥村先生も美術やっている方も知っていることですよね。そのなかであえて知らないふりをしてやっているわけです。どの作品についても。なので、こういう一つ演技的なものじゃないですけども、こんな風なことがありますよということがこの場面であらわれていました。
はい、ちょっと時間を過ぎてしまいました。言葉にどうしてもこだわってしまう、あるいは、鑑賞の方法論ですよね。そこはいろいろ研究されていると思いますし、鑑賞の方法とか手立ては本当に大事だと思いますが、その手立てや方法は一体、どこから来ているんだろう?なにかちょっと踊らされてしまったり、格好いいことをやってみようかなとか、私も初任の駆け出しの頃はよくそんなことをやっていましたけれども、子どもを見て子どもから生まれてくる、子どもを見て分かったことで手立てを考えたり、授業を進めていくことがとても大事だなと鑑賞の相互行為分析をやって私も本当に大きく学んだことだなと思いました。 本当に奥村先生は子供をよく見て鑑賞されていたなと感じました。子どもたちからもいろいろ学ばせていただきました。ご清聴ありがとうございます。 - 三澤
- ありがとうございました。お二方にすごく共通していたところで、まず子どもの感じ方、考え方、発言をまず教師が受容していますよね。そこがまず一番じゃないでしょうか。奥村先生の発言もすでにわかっていることでも「なるほど」と言ってみたり、「うんうん」とか、子どもが体で表していることと同じことを繰り返してみたりしています。われわれも日常の授業でよくやります。子どもがこうやったら「こう?」とやってみたりします。そのことが子どもに安心感を与えて、どのようなことを発言してもいいんだなという雰囲気を作っています。ですから、われわれは子どもたちの対話をどうやったら活性化させるか、そのようなこと、最近ファシリテーターという言葉がよく使われますが、ファシリテーション、つまり促進するとか活性化するという意味ですけども、ファシリテーターと呼ばれるゆえんですよね、つまり子供たちの対話の鑑賞をいかに活性化させていくのか。そういった点でファシリテーターと呼ばれているのではないでしょうか。今日の一柳先生と本間先生の解析は、まさにファシリテーションの能力を発揮しながら子供たちの学びを作っていく、そんな感じがいたしました。時間がちょっとオーバーしてしまいました。本来、ここで質疑応答をする予定でしたが、できませんので、どうしてもという方は一柳先生と本間先生に個人的に聞いてください。どうもありがとうございました。
学校の担当教員から
東村山市立東村山第五中学校 甲田 昭恵
まずは、奥村先生をはじめ、お世話になった皆様にお礼申し上げます。
西洋美術館見学は、皇居周辺と上野公園内の施設から、班ごとに見学先を選び、事前の学習を経て、当日に臨み、まとめの新聞を作成するという、本校の校外学習の一環でした。
事前に奥村先生が来校くださり、アートカードを使用した、生徒の美術への興味を喚起する授業をしてくださいました。どんどん引き込まれる楽しい授業で、美術館を訪れるのが初めてという生徒がほとんどの中、新鮮な感動を味わい、当日をとても楽しみにしている様子でした。
当日は、事前の学習での奥村先生に対する信頼感、安心感があり、先生のリードで、生徒達はリラックスした様子で臨んでいたと思います。奥村先生のトークは、子ども目線に立った自然なやりとりの中で、生徒達が自発的に作品の持つ意味や背景を理解していくような流れで、生徒たちにとっては作品を鑑賞したという実感が強く残ったと思います。子どもの気づきやつぶやきを拾い、そこから子どもの自発的な学びにつなげていく手法は、私にとっても大変勉強になりました。
今回のギャラリートークの分析のお話をいただいて、生徒達の西洋美術館の見学が本当に有意義なものになりました。生徒からは、また美術館に行きたいという声も聞かれ、とてもうれしく思います。
貴重な機会をいただきましたこと、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。