ギャラリートーク分析

2.中学生

奥村
皆さん、こんにちは。聖徳大学の奥村です。
相互行為分析というのは特殊な方法ではありません。皆さんが普通にやっていることです。しかも日本の先生はものすごく上手です。さっと採り入れて、子どもの様子から指導の改善につなげることができます。おそらくそんなことができるのは世界中で日本だけだと思います。



相互行為分析とはなにか

奥村
先ほどの場面で子どもは「しか…友だちのしかく(四角)くんと言っています。これはどういうことでしょうか。言い間違いをするということは、なにを表すのでしょうか。言い間違いをするということは、もっと正しいことを言いたいということです。そこから、あの場面でシナリオがあったというのが分かります。相互行為分析で重要なのは、ほんの些細なことを手がかりにして分析することができるということです。

では、相互行為分析とは何かということからお話をしたいと思います。そのうえで先ほど紹介のありました中学校の分析をします。

山田さんが私に電話をかけたとします。

事例A
「はい、奥村です」
「あ、山田ですけれども」
「あ、どうも」

事例B
「はい、もしもし」
「あのー、奥村先生のお宅ですか」
「はい」
「あのー直子さんいらっしゃいますか」

この2つの場面ではお互いに知り合いから電話がかかってきたことと、知らない人から電話がかかってきたことを判別しています。判別の材料になにを使っているかというと、「あ」「あのー」の部分です。私たちは、「あ」とか「あのー」を無駄には使っていません。「あ」と「あのー」の微妙な違いから、相手が知っている人だったり、知らない人かを理解しているのです。

同じように、子どもたちの微妙な言い間違いや言い直しから、その子がなにを感じ、考えているかを捉えることができます。本人の考えは、本人にしか近づけないわけでありません。そんなことをしていたらわれわれは会話ができません。相手が概ねなにを感じて考えているかということを、今のような微妙な言い回しや言い間違いとか、仕草で判断をしているわけです。

「今日、お昼どう?」と友人を食事に誘うとき、ちらっと時計を見たら、私がこの話を切り上げたいということが相手には分かります。相手と会話しているとき足を動かしていると、イライラしていると分かります。こういうことを逆手に取って分析に使いましょうというのが相互行為分析です。会話や視線の動き、姿勢などを細かく見ていけば、本人の考えをとらえることができます。

たとえば、この画像を見ていると、女の子がじっーと見ている理由が分かります。



奥村
じっとうつろな目でどこかを見て、ぱっと確認して下を向きます。こういうシーンを見ると、われわれ教師は、この子どもがぼうっとしているとは判断しないと思います。なにか考えていますね。その証拠は次の場面に表れます。後ろの女の子が「ねーねー、ケンタくん、見て、見て、私、こんないいこと考えたよ」という感じで男の子と話しています。




だから、さきほどの場面はなにか考えていると明確にいえます。
子どもたちの視線を見てください。




この子の視線を見ているだけでなにを考えているかが分かります。お分かりでしょうか。
この子は全体のバランスを考えて、構成をして描いています。全体を見渡して「ここだ」という感じで描き、次に下のほうに目をやってここは足りないと感じて描いています。この子どもの視線の動きや微妙な仕草を見ることで、この子どもが何を考え感じているのかが分かるということです。

こういうものが相互行為分析だとご理解いただき、今回の授業の映像を見ていただきたいと思います。


アリスティード・マイヨール《夜》

奥村
はい、今見ていただいた私のギャラリートークは実に低調なギャラリートークです。子どもの発言が全然出てこないので四苦八苦しているわけです。私もこれを見て気づいたのですが、うまくいかないと腕組みをする癖がありました。ところが、その腕組みが一瞬だけ崩れるときがあります。




ここですね。この場面、出だしの子どもの発言「泣いてる?」は自信のない発言です。




子どもが「泣いてる」というと私が「泣いてる?」と語尾を上げていいます。疑っているわけですね。そして子どもは「泣いるように見えます」私が「どこから?」と聞きくと「この姿勢が泣いているように見える」と言います。このやりとりによって、この子どもの意見が全員の意見として共有されるわけです。何度かのやりとりによって全員の意見として共有されて、この子どもの体が動くという場面です。その後に、別の男の子が左の指を指すんです。筋肉がムキムキということを指示します。つまり、このギャラリートークの雰囲気をほぐしたのは、その子どものジェスチャーだったということが分かります。



この場面、私の左手を見てください。ギャラリートークで「質問はないですか?」と聞く場合、すぐに「ないようですね」と言ってしまいがちです。私もそういうことがあるので、10数えるようにしています。カウントするんです。私も画像ではじめて気づいたのですが、ちゃんと指を折ってカウントしています。


オーギュスト・ロダン《地獄の門》


奥村
はい、次の作品です。
私は一見、作品を見ているようにありますが実はまったく作品を見ていません。自分のとなりの子どもが何を言っているか一生懸命聞いていています。どうして私が向こう側を見ているかというと、これだけの人数(4人)のときに、さきほどのような大人数のギャラリートークはできないということです。少人数のときにずっと子どもたちを見ていたら気持ち悪い。ですから私は向こう側を見ることで、子どもたちに作品のほうを見るんだよというメッセージを送っているわけです。




大人数の時は、子どもをじっと見ている必要がありますが、それが端的に表れるのがこの場面です。




一方、この場面では、子どもたちは必死で絵画を見ているわけです。こんなときは先生は絵よりも子どもたちの様子を見ておいたほうがいいでしょう。
(壇上から降りて)ちょっと実際にやってみましょう。

「この相互会話分析からなにを学びましたか?ちょっと当ててみましょう」と言ったとき、小学校の先生なら分かりますが、私を見返した人には当てていいんです。「何を学びましたか?」と言ったときに、さっと目をそらした人は当ててはいけないんです。要は進行役はあまり絵を見ていなということです。子どもが何を感じて何を考えているかを観察しながらやっているわけです。繰り返しになりますが、こういうことが日本の先生はかなり上手です。

質問がある方はお願いします。

司会
奥村先生ありがとうございます。相互行為分析について本間先生と奥村先生にお話をしていただいた中からご質問を受け付けて、お二人に聞いてみたいと思います。
質問者A
両先生方とも子どもたちの些細な表情や反応を汲み上げて、すべてを肯定するという立場でギャラリートークを進めておられます。それとは別に子どもたちの行為や言葉について、「それは違うぞ」という否定をするようなシチュエーションはありえますか?
奥村
私は否定も肯定もしていません。誰かが転んだら転んだ、誰かが泣いたら泣いた。それを指導に活かすようなことは考えていますが、肯定・否定という目では見ていないですね。転んだら転んだ、泣いたら泣いた、笑ったら笑った。まず事実を見る。解釈はその後ですね。相互会話分析で非常に重要な視点がありますが、事実と意見をきちんと分けたほうがいいです。事実は事実、それを肯定しようが否定しようが、叱ろうが誉めようが、事実は事実として受け止める。その後、どうするかは、それぞれの場面によるでしょう。素敵な質問で重要なことが指摘できたのでありがとうございます。
質問者B
さきほどのギャラリートークをどういう観点で指導に活かされているか、子どもたちをこの観点で引き上げているというポイントがあれば教えてください。
本間
ご質問ありがとうございます。私は全科なのですべての授業を見ていますが、その中で対話による鑑賞の授業をしているときに、普段の授業との逆転現象が見られます。それは普段の授業で活発に発言や発表をする能力の高い子どもが、ギャラリートークになると手が挙がらなくなります。逆に普段、あまり発表できない子どもが鑑賞を引っ張っていく場面が見られます。なぜかと考えたとき、当たり前かもしれませんが、普段の授業で活発に発言する子どもは自分の中で答えが分かっていて、答えにたどり着いていて自信を持って発表しています。対してギャラリートークは、ある意味、答えがありません。つまり自由な発想で発言していいことが子どもたちにも分かるようで、普段、発言の少ない子どもが自由に発表できる。逆に答えを持っている子どもたちは、なにを言っていいか分からない。

そう考えると、私の場合、他教科との関係も重要だと思っていますので、授業作りに役立てたりとか、この子どもはこういうふうに問いかけてあげれば、普段の授業でも答えられるんだなとか、普段の授業に活かすことができます。
奥村




この画像を見てください。トーカーが作品を見ると、全員が作品を見ます。これが事実です。ということは指導のときに、先生が向けるジェスチャーは、子どもたちに有効に働くということを示しています。さきほどの質問も今の質問も、それをどうするのが授業のねらいとか教えたいこととか、どういう情報を与えたいとかに結びついていくと思います。私が今日のギャラリートーク分析でご提案するのは、その原資料として子どもの様子、ささいな行動、あるいは会話の微妙なあやというものが、指導の改善に役立つ好適なデータとして出るというお話です。




この画像で私は「次に行こうか」と発言しています。私はこのギャラリートークを切り上げようと判断したからです。この直前に「もっとやりたい?」と問いかけています。それで「もうちょっとがんばれる?」と聞いたら、ここにいた8人のうち7人は「やるやる」と言ったんです。ただしそういう子どもたちは「やれる」子どもなんです。このとき私の目の前にいた子どもが、ぐにゃっと顔を曲げるんです。ですから私は次に行こうと判断をしたわけです。ぐにゃっと顔を曲げということは、もう辛いということです。それが事実です。そこで私は切り上げると、あるいは、もう少しがんばろうと言うかもしれません。そのあたりは指導のねらいに応じてということです。

相互行為分析が提案するのは、単純な事実から指導の改善を図る根拠が生まれるということです。あるいは、こういうのも一つの根拠です。

  



この場面、5人でギャラリートークをしています。後ろのお客さんは関係なくてただ単に来ただけです。それでトーカーが質問をすると、手を挙げるのは後ろのおじさんです。ここまでは事実です。これは、おじさんがギャラリートークに乱入してきたということです。もう一つは、ギャラリートークは、5人くらいでは、その空間はすかすかになるということです。そこを埋める空間が生まれるので、おじさんは乱入しやすいんです。こういうことが分かるのが相互行為分析です。

相互行為分析をやってみたいという方がいらっしゃれば、3つだけポイントがあります。一つは、みんなで見ること。私たちも5人くらいで見ています。だから見つかるんです。二つ目は、何度も見ること。短い場面を何度も見てください。三つ目が思い込みを入れないということです。思い込みを入れたとたん、サングラスのかかったデータになります。できるだけ事実だけを切り出す。この3つが大事です。ぜひやってみてください。
司会
ありがとうございました。私は美術館の立場として普段、ギャラリートークをしております。今のお話を聞いて、自分が話すよりも参加者の声を聞くほうが大事だと思っていますが、もしかしたら聞くことよりも参加者の様子を観察することのほうがもっと大事なのかなと思いました。

今回はギャラリートークの撮影にあたり、何度も映像を見直し「こんなこともしている」と話し合いながら編集いたしました。是非、皆さんもこういった方法を採り入れていただきたいと思っています。