ギャラリートーク分析

日時:
7月30日(火) 10:00~11:30
会場:
国立新美術館 3階講堂
講師:
本間美里(東京都港区立御成門小学校 教諭)
奥村高明(聖徳大学 児童学部児童学科 教授)
司会:
一條彰子(東京国立近代美術館 主任研究員)
編集・構成:
奥村高明、本間美里、一條彰子
室屋泰三(国立新美術館主任研究員)

概要

ギャラリートークは、美術館での鑑賞活動の基本です。展示室内で実作品を前にして行うギャラリートークには、迫力のある大画面・細かく描きこまれた細部・力強い筆使い・盛り上がった絵の具などを心ゆくまで観察できる良さがあります。また、作者が確かにそこにいたと実感したり、前後の展示作品との関係を考えたりと、美術館ならではの展開も期待できます。

ギャラリートークの進行役は「ファシリテーター」と呼ばれ、教員や学芸員、解説ボランティアなどが行います。ファシリテーターは子どもたちに、よく観察すること、感じ考えること、自分の意見を発言すること、友達の意見を聞くことを促し、グループ全体で解釈を深めていくことに努めます。ファシリテーターは入念に準備をしてギャラリートークに臨みますが、はたして子どもたちへの投げかけは十分届いているでしょうか。また、子どもたちの反応を十分に汲み取って進行できているでしょうか。

「ギャラリートーク分析」は、あらかじめギャラリートークをビデオに撮影し、ファシリテーターと子ども、あるいは子ども同士の「ことばやしぐさのやり取り」を、じっくり観察して分析しようとするものです。実際のトークでは不可能ですが、ビデオを使って時間を止めたり遡ったりすることで、鑑賞行為を通して子どもたちの中に何が起き、どのようにして変化するかを確認することができます。

この指導者研修では、平成22年度までは、実際に子どもへのギャラリートークを見る機会を提供してきました。しかし全国の美術館や学校でギャラリートークが広く実践されるようになったのにあわせ、平成23年度から小学生と中学生のギャラリートーク分析にプログラムを変更し、さらに理解を深めようとしています。

ギャラリートークの撮影は複数のビデオカメラで行い、その録画データを、相互行為分析の研究者を含めた複数のメンバーで繰り返し見ながら分析を進めます。その結果、子どもの鑑賞が、言葉にだけではなく行為にも表れている箇所がいくつも確認され、講演で紹介されました。言葉も行為も、コミュニケーションに不可欠な二つの要素です。その分析を通して、子どもの心の動きや変化を理解する機会を提供できたのではないかと思います。


分析対象

1.小学生

対象者:
筑波大学教育学部附属小学校 1年生 40名
撮影日時:
平成25年3月15日(金) 9:30〜10:30
撮影場所:
東京国立近代美術館 所蔵品ギャラリー
指導者:
西村德行(筑波大学教育学部附属小学校 教諭)
対象作品:
アンリ・ルソー 《第22回アンデパンダン展に参加するよう芸術家たちを導く自由の女神》 1905-06年 油彩・キャンバス
高村光太郎 《手》 1918年ごろ ブロンズ
村井正誠 《URBAIN》1937年 油彩・キャンバス

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2.中学生

対象者:
東村山市立東村山第五中学校 2年生 13名
撮影日時:
平成24年2月9日(木) 10:00〜12:00
撮影場所:
国立西洋美術館 常設展示室
指導者:
奥村高明(聖徳大学児童学部児童学科 教授)
対象作品:
アリスティード・マイヨール《夜》1902-09年、ブロンズ
アルベール・グレーズ《収穫物の脱穀》1912年、油彩・キャンバス
オーギュスト・ロダン《地獄の門》1880-90年頃/1917年(原型)、ブロンズ

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受講者アンケート(ギャラリートーク分析)


受講者感想(抜粋)

小学校教諭

  • 私にとって新しい理論でした。これは他教科にも通じる分析だと思います。
  • 西村先生と奥村先生に子どもの活動の見守り方を詳しく教えていただき、子どもの姿から学ぶことの大切さが改めてわかりました。奥村先生の相互行為分析の解説が興味深かったです。
  • 新たな学びがあり、自分の実践に足りないところが見えた。
  • 相互行為分析の意味、目的が最後の方になってやっとわかりました。(子どもの事実をとらえて、指導改善に生かすこと、子どもの小さな行為を思い込みを入れずに分析していくこと。)これが分かった上でもう一度ギャラリートークの分析の映像を見ると、もっと深く理解できると思いました。勉強不足でした。
  • 子どもたちの何気ないしぐさや会話の大切さをよく知ることができました。これは美術だけでなくいろいろなことに応用できます。
  • とても分かりやすかった。なかなか中学の活動について知る機会がないので参考になった。
  • 分析の仕方について子どもの視点や身体表現からも読み取れることが勉強になりました。
  • 子どもの小さな動き、表情から鑑賞への思いを読みとることの大切さに気付いた。これまでの授業や評価をふり返ると目からウロコの内容であった。
  • ギャラリートーク自体初めて知ったので、分析における目のつけどころが参考になりました。図工だけでなく各教科においても今回のとらえ方をいかしていきたいと思います。
  • 発言や行動を分析すると、子どもの思考が見えてくることがあるとわかりました。ギャラリートークするときに子どもの様子をよく見ておきたいと思いました。

中学校教諭

  • 自己のギャラリートークをふりかえる機会はなかったので分析の仕方を教わり、参考にしてみたいと思います。
  • VTRによる分析でリバースして再確認する手法が良かった。
  • 一人一人の学びを支援するために、あるいは支援しながら進める授業を展開するために重要であると感じました。先行研究されているので、具体的にどういった支援がされているのかお聞きしたかったです。
  • 作品よりも子どもを見てあげる事が大切だし、子どものしぐさや表情をみて言葉を紡いであげることも必要だと思った。実践して行きたい。
  • ギャラリートークに言葉ばかりを求めていましたが、様子を観察する力も必要だと感じました。そして、その行為の中に個の鑑賞の仕方が読みとれる点は面白いと思いました。奥が深いです。
  • 映像と解説で非常にわかりやすいです。頭ではわかっていることがはっきりした気がします。
  • 実際に生徒の発言を引き出す最初の一手に教師はどう見せるか、どう能動的に言葉を引き出すか、どういう雰囲気にもっていくかを改めて考える機会になりました。
  • ビデオをスローモーションで見ることによって子どもの気づき、良さを感じ取ったり考えることができた。自分でも今後やってみたいと思う。
  • 普段気づかない子どもの行動が細かく見ることができて、小さな気づきを大切にしようと思いました。
  • 子どもたちのしぐさ、「あの〜」など気がつかなかった行為の中にも意味があることがよくわかりました。

指導主事

  • ギャラリートークの展開について、反省と改善のために必要な分析であり、授業力の向上のためにぜひ取り組んでいきたい内容であると考えられた。
  • 相互行為分析の有効性を感じた。子どもの活動の分析はもちろんだが、指導者の行動等を分析する視点がよく分かった。今後研修の場で取り入れていきたい。
  • 相互行為分析については、映像を見ながらの説明であったのでとても分かりやすく、自分でも取り組んでみようと思います。学校訪問指導の際にもiPadを使い子どもの行為からの話をしていたが、今回の研修でより視点がはっきりしました。
  • 分析の視点がわかってよかった。
  • 他の教科、領域においても大変重要なことだと思います。

学芸員

  • ギャラリートークの立場(スタンス)の違いの部分も含めてお話も伺ってみたかったです。VTRの場合、学級担任と子どもたちにとって他の関係者と会話することの行動差もあると思います。そういう分析もできると面白いと思いましたし、教師だけでなく、学芸員も活きた資料となると思いました。
  • 相互行為分析という研究があることを初めて知ることができ、今後は子どもたちのつぶやきやちょっとしたしぐさにも気をつけて鑑賞をすすめたい。
  • 非言語的鑑賞をしている子がはっきりと分かってよかった。こういう方法をとると言語化することだけが鑑賞の方法でないと示せるのだと自分が何気なくしている行為が理論づけ、根拠づけられた。
  • ギャラリートークが発言や発語からだけでなく、視線や動きからもその子どもの心の動きをつかむことができることを知った。
  • ギャラリートークの様子を普段とは違った視点でじっくりと見て考えることができた。今後自分自身がトークを行う上で参考にしたいと考えています。