ギャラリートーク分析
- 日時:
- 8月5日(火) 10:00~11:40
- 会場:
- 国立新美術館 3階講堂
- 講師:
- 三澤一実(武蔵野美術大学 教授)
本間美里(東京都港区立御成門小学校 教諭) - 司会:
- 一條彰子(東京国立近代美術館 企画課 主任研究員)
- 編集・構成:
- 奥村高明(聖徳大学児童学部児童学科 教授)、本間美里、一條彰子
室屋泰三(国立新美術館 学芸課 主任研究員)
概要
ギャラリートークは、美術館での鑑賞活動の基本です。展示室内で実作品を前にして行うギャラリートークには、迫力のある大画面・細かく描きこまれた細部・力強い筆使い・盛り上がった絵の具などを心ゆくまで観察できる良さがあります。また、作者が確かにそこにいたと実感したり、前後の展示作品との関係を考えたりと、美術館ならではの展開も期待できます。
ギャラリートークの進行役は「ファシリテーター」と呼ばれ、教員や学芸員、解説ボランティアなどが行います。ファシリテーターは子どもたちに、よく観察すること、感じ考えること、自分の意見を発言すること、友達の意見を聞くことを促し、グループ全体で解釈を深めていくことに努めます。ファシリテーターは入念に準備をしてギャラリートークに臨みますが、はたして子どもたちへの投げかけは十分届いているでしょうか。また、子どもたちの反応を十分に汲み取って進行できているでしょうか。
「ギャラリートーク分析」は、あらかじめギャラリートークをビデオに撮影し、ファシリテーターと子ども、あるいは子ども同士の「ことばやしぐさのやり取り」を、じっくり観察して分析しようとするものです。実際のトークでは不可能ですが、ビデオを使って時間を止めたり遡ったりすることで、鑑賞行為を通して子どもたちの中に何が起き、どのようにして変化するかを確認することができます。
この指導者研修では、平成22年度までは、実際に子どもへのギャラリートークを見る機会を提供してきました。しかし全国の美術館や学校でギャラリートークが広く実践されるようになったのにあわせ、平成23年度から小学生と中学生のギャラリートーク分析にプログラムを変更し、さらに理解を深めようとしています。
ギャラリートークの撮影は複数のビデオカメラで行い、その録画データを、相互行為分析の研究者を含めた複数のメンバーで繰り返し見ながら分析を進めます。その結果、子どもの鑑賞が、言葉にだけではなく行為にも表れている箇所がいくつも確認され、講演で紹介されました。言葉も行為も、コミュニケーションに不可欠な二つの要素です。その分析を通して、子どもの心の動きや変化を理解する機会を提供できたのではないかと思います。
分析対象
1.小学生
- 対象者:
- 港区立御成門小学校 4年生 10名
- 撮影日時:
- 平成26年4月24日(木) 9:30〜10:30
- 撮影場所:
- 国立西洋美術館 常設展示室
- 指導者:
- 奥村高明(聖徳大学児童学部児童学科 教授)
- 対象作品:
- アリスティード・マイヨール《夜》1902-09年、ブロンズ
クロード・モネ《睡蓮》1916年、油彩・キャンバス
ヤーコプ・ヨルダーンス(に帰属)《ソドムを去るロトとその家族》1618-20年頃、油彩・キャンバス
2.中学生
- 対象者:
- 足立区立第一中学校美術クラブ (1〜3年生) 10名
(引率:平岡紀子 教諭) - 撮影日時:
- 平成26年5月27日(土) 9:30〜10:30
- 撮影場所:
- 国立西洋美術館 常設展示室
- 指導者:
- 奥村高明(聖徳大学児童学部児童学科 教授)
- 対象作品:
- 小学生と同作品
受講者アンケート(ギャラリートーク分析)
受講者感想(抜粋)
小学校教諭
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- ギャラリートークで子どもが絵に対する思いを話し合う時、子どもの考えを引き出すことに重点を置くと作品の本質や作者の意図とかけ離れてしまう懸念がある。そこをどう修正するか悩んでいたが今回の分析で子どもの発達段階に よって変わるのだとわかった。
- 一番の驚きは小中学生の視点の差異であった。小中交流で簡単な対話型鑑賞を経験したことがあるが、また改めて実践してみたい。
- 子ども達の素直で素朴なつぶやきや様子をしっかり受け止め更に他の友達の言葉から絵をもっと良く見ていこうとする子ども達へと育てられるファシリテーターの役割がよくわかった。
- ファシリテーター役となっていると、なかなか子どもの表れの細かいことに気づけないところがあり、それが悩みでもあるので、「なぜ?」より「どこから?」と聞くことにはっとさせられた。
- 絵画を活用して伝え合う力を伸ばす「国語」になってしまいがち。今日のような、視点を上手に与えて、思いを鑑賞できるように高めたい。
- 鑑賞だけに限らず、子どもの姿を見ていく上での様々な視点をえることができたように思います。また、小中学生の発達段階による際についても具体的に示していただきわかりやすかった。
- 子どもたちの声だけではなく、手の動き、視線にも注目して分析するというのが興味深かった。
- 奥村先生の講演は、先生の授業が見ることができてとても貴重だった。小・中学生の鑑賞の仕方の違いがよく分かった。
中学校教諭
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- 言葉をひろう事、投げかける事、身体的に教えてもらい、とても参考になった。
- 私は中学校籍ですが、同じ作品の鑑賞の小学生バージョンを比べて見れたところがとてもわかりやすくよかった。
- 子ども達の作品に向かっていく変化していく姿が印象的だった。特に中学生男子がじっくり考えて自分なりの意見を述べているところが印象的だった。
- 小中の違いがはっきりとわかり大変興味深く聞かせて頂きました。学生時代にあのような絵の出会い方をしている生徒は鑑賞の楽しみ方を知っていて生きていってくれるのではと思うと、作品といかに出会わせるかはとても大切であると思った。
- 美術館に来る(行く)までに児童、生徒に対してどれだけ準備ができるのかが大切であると思った。
- 細かい子どもの発言の見とり方が少し分かったような気がしたので、授業に生かしたい。
- ギャラリートークに適した環境をいかに作るかが、まず一つのハードルのような気がした。トーク内での言葉かけや引き出しが非常にたくみであった。
- 映像やプリントで細かく分析されていて、また小中の違いが明確にわじかってとてもためになった。
指導主事
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- 小学生の鑑賞と中学生の鑑賞を比較することができ、発達による鑑賞の仕方、見える視点等のちがいがあることを改めて理解することができた。
- 同じ作品を小中学生を比較しながら観ることで、子どもの発想、段階の違いが視覚的にわかったが、授業として取り扱ったときの評価をどうするかということが気になる。
- とてもひとつひとつ場面場面でこまかくはなしを聞けたことや小中の違いなどが良く分かった。
- 発達段階の違いによる子どもの見方、感じ方、またファシリテーターの声かけの違いが明確に分かりよかった。
学芸員
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- 実際の授業の録画をみることで、キーとなる発言や問いかけ、身ぶりなどが大変よく理解できた。
- 小学生と中学生の違いがはっきりとしていて、面白かったです。成長段階によってどのようにかける言葉を変えていったらいいのか勉強になりました。
- 普段流れていって戻れない場面を、細かに「しぐさ」など追いながら分析して頂けたので良かったです。
- 作品中心主義となりそうなところを客観的に子どもの表情を含めてみることができたことは、大変意義深いと感じた。
- 同じ作品を小学生と中学生が見ていて反応の違いがよくわかって参考になった。子ども同士の対話も大切だが、子どものつぶやきや反応をひろって進行していくファシリテーターの力量も大変だと思うので、精進しなければと思った。
- 自分が話していると気がつかない生徒の視点や仕草などを知ることができた。小学生と中学生の内容の違いにも驚いた。対話するときのヒントを教えていただいたので、実践していきたい。
- 実際の子どもの表情が生で見ることが出来、面白かった。美術部や鑑賞体験が豊富な子どもではない、子どもでのギャラリートーク分析もぜひやってほしい。
- 子ども達の意見の引き出し方や、発達段階にあわせた鑑賞方法などを、実際の様子とあわせて分析することでより現実的に学べた。