グループワーク E

異なる3つの鑑賞体験で授業方法を模索

Group E
受講者:
9名(小学校教諭5名、学芸員3名、指導主事1名)
課題作品:
アルベール・グレーズ
[パリ1881年-アヴィニョン1953年]
《収穫物の脱穀》 1912年
油彩・カンヴァス 269.0 x 353.0 cm
国立西洋美術館蔵
>> 作品解説はこちら
ファシリテーター:
朴 鈴子(京都国立近代美術館 学芸課 研究補佐員)
サブファシリテーター:
藤吉 祐子(国立国際美術館 学芸課 研究員)

《収穫物の脱穀》


© ADAGP, Paris & SPDA, Tokyo, 2011
*著作権の関係上、一部の作品写真に画像処理をしています。

活動内容

鑑賞体験 (1)

グレーズの部屋全体を使って個人で鑑賞を行った。
その時、心に残った作品を一つ選び感じたことや気付いたことを三つ心の中で準備した。 感想は視覚的にあからさますぎないようにした。

02
鑑賞力を養うため3人1組で
意見や感想を出し合う。

鑑賞体験 (2)

三人一組で、ディスカッションを交えた鑑賞を行った。
一人が準備した三つの感想を二人に小出しに伝え、二人はどの作品の感想を述べているのか考えを巡らせた。感想に対して質問しながら会話を発展させ予想に確信を持たせたり、他の感想を聞くたびに予想が変わったりした。
5分後答え合わせをしながら、述べた感想に補足を述べた。


03
鑑賞教育のためのディスカッション。

自己紹介・意見交換

業種や経験値による先入観が入ってしまわないよう、自己紹介は鑑賞体験後のタイミングで行った。簡単な自己紹介のあと、自己紹介シートに基づいて現場での活動、その詳細について話し合った。
また、鑑賞教育を行う上で根幹となる意識を確認するため「鑑賞を通じて子どもたちに何を体験してほしいか」について語り、そのために美術館(博物館)と学校教員にどんな意識変化や理解が必要かなどを話した。


03
対話型による鑑賞で感想を言い合う。

鑑賞体験 (3)

全員でアルベール・グレーズの≪収穫物の脱穀≫を対話型で鑑賞した。できるだけ言葉による描写で視覚的な感想、内面に現れた感想を言い合った。人物の表情や体勢、絵の中にある地形の高低など、ただ見えるものを自由に挙げるだけでなくなぜそう見えるのかなど、発言に意味づけをした。


03
授業に有効な鑑賞法を考えた。

授業案の作成

グループを「美術館で授業」と「教室で授業」の二つに分け、両方に一人ずつ美術館学芸員を投入した。あと、必ずグレーズの≪収穫物の脱穀≫を鑑賞することをルールにした。午前中に行った意見交換で知ったお互いの事情などを考慮しながら、また体験した鑑賞方法を採用するか否かに関わらず、どうしてその鑑賞法がその授業に有効的だと思ったかなども一緒に考えた。それ加えて「この弊害が無ければこんなこともしたかった」など、可能性についても考えた。

発表

発表はファシリテーターによるグループワークで行った活動全体の流れの説明のあと、二つのグループの代表者がそれぞれに決めた授業案について発表した。
美術館での授業案を練ったグループは、細かい時間配分に気を配りながら、教員と学芸員のそれぞれの役割も厳密に決めた。全体的に「見る」ことと「話す」ことを段階的に行い、「話す」には、物語を話すという想像力を働かせる活動も含まれており、最後はクラス全員でそれを共有することにゴールをおいた。
教室での授業案を考えたグループは、色に着目した。作品の中央の赤い部分をモノクロしたパズルを作り、モノクロの部分は各々所定の色から選べるようにした。なぜその色にしたか?意味づけをし、≪収穫物の脱穀≫のレプリカを鑑賞する時間には、自分とグレーズの色への感性を比較した。


ファシリテーター感想

グループワークでは、できるだけたくさんの可能性を体験することで、それぞれの利点や欠点について知り、現場に帰った時に授業やプログラムを組み立てる材料として活用してもらいたいと思っていました。鑑賞法一つにしても、目的に合った最適な鑑賞法を考えてほしいと思い、いくつか鑑賞法の例を体験してもらいました。
しかし、一番大事だと思っていたのは、先生・学芸員自身が鑑賞する行為の素晴らしさや必要性を再確認することで、その意識が子どもたちの為に行う授業やプログラムに大きく影響を与えると思っています。特に学校現場では様々な事情で希望がかなわないことが多いと思います。そのような弊害が常にあってもできることから取り組んでみるという気持ちを後押ししたいと思い、意見交換や授業案を作るワークを行いました。
これらを上手く伝えられたかどうかは不安が残りますが、受講生の皆さんは私のファシリテートが不要なぐらい、十分に鑑賞教育に情熱を持って考えていらっしゃったと思います。この研修で一番学んだのは私だったかもしれません。本当にありがとうございました。

朴 鈴子

サブファシリテーター感想

今年で7回目を迎える指導者研修ですが、グループワークは、ファシリテーター、参加者、作品の出会いによって、一つとして一様ではなく、毎回様々な実をもたらします。全国各地から集う参加者が作品の前で何時間もかけて話し合い、共に時間を共有するプロセスがあってこその結果です。
今回、グループEでは、朴さんによるファシリテーションで、まず作品をみる十分なウォーミングアップがなされた後、それぞれの鑑賞実践の経験、鑑賞を通して子どもたちにもたらしたいことに関する意見交換、共有の時間を取り、それらに基づいて、午後から対象作品を用いた授業案作りが行われました。対象作品を鑑賞する時間は午後からとなりましたが、それ以前の交流がグループワークの雰囲気作り、お互いの共通理解に存分に活かされ、アイデアがたくさん盛り込まれた授業案が完成しました。
今回もかなり経験豊富な参加者の方々でしたが、指導者研修で全国から来られた方々と鑑賞について語らった時間は、必ずや新たな実践へとつながっていくのではないかと思います。参加者のみなさま、お疲れさまでした。ありがとうございました。

藤吉 祐子




受講者感想(抜粋)

小学校教諭
  • ファシリテーターの朴さんが展示室内の様々な作品を取り上げて、グループメンバーをつなげるような鑑賞をしてから、課題作品を鑑賞した。学芸員、指導主事など様々な人とつながることが出来、楽しく鑑賞しながら学びを得ることの出来る研修だった。
  • 日本国内各地の先生方、指導主事の方、学芸員の方との情報交換が出来たことがよかった。Eグループはアルベール・グレーズの収穫物の脱穀についての鑑賞と、鑑賞方法(授業展開)を考えたが、とても楽しく、忘れられない作品となった。
学芸員
  • 現場の先生方の貴重な経験、体験談などを聞いたので、今後美術館の活動に役立てられたらと思う。
  • 小学校の先生方の要望や美術教育に対する姿勢を直に伺えて、大変勉強になった。朴さんのファシリテーションも誠実で、対話型のコツを改めて学ばせていただいた。
指導主事
  • ファシリテーターの朴さんが、午前・午後の2回のグループワークの内容をうまくコーディネートしてくださり、新しい鑑賞の方法、鑑賞教育の課題、鑑賞の授業についてなどの内容を盛り込んだ濃い研修となった。

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