ギャラリートーク分析
- 日時:
- 8月4日(火) 10:00~11:40
- 会場:
- 国立新美術館 3階講堂
- 講師:
- 奥村高明(聖徳大学児童学部児童学科 教授)
本間美里(東京都港区立御成門小学校 教諭) - 司会:
- 一條彰子(東京国立近代美術館 企画課 主任研究員)
- 編集・構成:
- 奥村高明、本間美里、一條彰子、
寺島洋子(国立西洋美術館 学芸課 主任研究員)
室屋泰三(国立新美術館 学芸課 主任研究員)
概要
ギャラリートークは、美術館での鑑賞活動の基本です。展示室内で実作品を前にして行うので、迫力のある大画面・細かく描きこまれた細部・力強い筆使い・盛り上がった絵の具などを心ゆくまで観察できます。また、作者が確かにそこにいたと実感したり、前後の展示作品との関係を考えたりと、美術館ならではの展開も期待できます。
ギャラリートークの進行役は「ファシリテーター」と呼ばれ、学芸員や解説ボランティア、教員などが行います。ファシリテーターの役割は、子どもたちに、よく観察すること、感じ考えること、自分の意見を発言すること、友達の意見を聞くことを促し、グループ全体で解釈を深めていくことです。
「ギャラリートーク分析」は、あらかじめギャラリートークをビデオに撮影し、ファシリテーターと子ども、あるいは子ども同士の「ことばやしぐさのやり取り」を、じっくり観察して分析しようとするものです。実際のトークでは不可能ですが、ビデオを使って時間を止めたり遡ったりすることで、鑑賞行為を通して子どもたちの中に何が起き、どのようにして変化するかを確認することができます。
この指導者研修では、平成22年度までは、実際に子どもへのギャラリートークを見る機会を提供してきました。しかし全国の美術館や学校でギャラリートークが広く実践されるようになったのにあわせ、平成23年度から小学生と中学生のギャラリートーク分析にプログラムを変更し、さらに理解を深めようとしています。
ギャラリートークの撮影は複数のビデオカメラで行い、その録画データを、相互行為分析の研究者を含めた複数のメンバーで繰り返し見ながら分析を進めます。その結果、子どもの鑑賞が、言葉にだけではなく行為にも表れている箇所がいくつも確認され、講演で紹介されました。言葉も行為も、コミュニケーションに不可欠な二つの要素です。その分析を通して、子どもの心の動きや変化を理解する機会を提供できたのではないかと思います。
分析対象
1.小学生
- 対象者:
- 港区立御成門小学校 4年生 10名
- 撮影日時:
- 平成26年4月24日(木) 9:30〜10:30
- 撮影場所:
- 国立西洋美術館 常設展示室
- 指導者:
- 奥村高明(聖徳大学児童学部児童学科 教授)
- 対象作品:
- アリスティード・マイヨール《夜》1902-09年、ブロンズ
クロード・モネ《睡蓮》1916年、油彩・キャンバス
ヤーコプ・ヨルダーンス(に帰属)《ソドムを去るロトとその家族》1618-20年頃、油彩・キャンバス
2.中学生
- 対象者:
- 足立区立第一中学校美術クラブ (1〜3年生) 10名
(引率:平岡紀子 教諭) - 撮影日時:
- 平成26年5月27日(土) 9:30〜10:30
- 撮影場所:
- 国立西洋美術館 常設展示室
- 指導者:
- 奥村高明(聖徳大学児童学部児童学科 教授)
- 対象作品:
- 小学生と同作品
受講者アンケート(ギャラリートーク分析)
受講者感想(抜粋)
小学校教諭
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- 実際に映像でギャラリートークの様子を見て分析することで、子どもたちの一人ひとりの反応が様々であることが再確認できました。子どもたちならではの発想、見方を受容し、さらに広げていく、また、自分たち自身で鑑賞を始めるようになっていく、という子どもたちの変容ぶりに感心しましたし、積み重ねの必要さを感じました。
- 本などの書面では、わからないことがビデオ分析だと詳細にわかったのがよかったです。また、美術館の作品は、どれでもいいというわけではなくやはり学芸員の方に聞くことが一番なのだと思いました。今まで、作品や作家についての情報はなるべく伝えないで子どもたちがどう見るかを問題にしてきましたが、そうではなく何をテーマにするかは大切なのだと考えさせられました。
- 対話型鑑賞をすると、どうしても言語に目が向きがちですが視(目)線・指さしなどの振舞などもその子の鑑賞を見取るにはとても大切であると再認識しました。現場では中々ビデオ記録をすることが難しい場面も多いですが、なんとか取り組んでみようと思います。奥村先生のお話は、いつも目から鱗が落ちるようなことがあり、「私もやってみよう」と思うことが多いです。
- 単にギャラリートークを行うだけでは、充分に見取ったり聞いたりすることができないかもしれませんが、ビデオにとって分析することで子どもたちのしぐさや表情、聞き逃しそうな子どもの発見にも気付くことができるのでおもしろいと思いました。勿論、普段の授業でも同じですが、自分自身の発問や授業展開、子どもの言葉に対する反応や返しなど、授業者自身を振り返ることもできるのでやってみたいと思いました。
- ギャラリートークの際、実際に子供たちにどのような言葉を投げかけることが有効なのかが具体的に分かりました。また言葉に限らず子供たちが体全体で感じていることも分かりました。その感じたことを表現する手段が言葉に限らず、表情だったり小さなつぶやきだったりするので見逃さずに受け止めていたいと思います。今後の鑑賞活動にすぐに活かすことができそうです。実際学級の人数が40名なので現実的に考えた時に様々な課題が出てくるので、その課題をどのようにクリアしていくかを模索していきたいです。
- 奥村先生のお話の中で、「ギャラリートークでは褒めない。認める。」といった言葉を今後鑑賞の授業を行う中で、心にずっと留めておきたいと思った。教師の考える価値に子どもを引き寄せようとする授業を展開する先生は少なくないと思います。今回のギャラリートーク分析は、子どもの発言の見取りと実際の奥村先生の言葉かけが映像として見られたのでよかったです。
- VTRによる表情やしぐさの分析の方法がとても斬新で、新しい発見につながりました。児童と生徒では発達の段階が違うことも同じ題材を取り上げていることから感じられました。実際にどのように進行するのか、どんな状況が予想されるのか具体的に知ることができました。
中学校教諭
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- 言葉だけでなく体の動きにその子の思いが表れてくることがギャラリートーク分析によって客観的に認識することが出来ました。それは、小学生だから全身でということもなく中学生になっても視線の強さや足先の力みに思いが出ていて微笑ましかったです。鑑賞については小学校の実践を目にすることが多いのですが、今回は中学生の様子を知ることが出来、イメージが直結しました。「どうして」ではなく「どこから」に代表される子どもへの接し方を意識していきたいです。
- ギャラリートーク分析というものを初めて知りました。映像を見ながら解説してもらったので、ファシリテーターをする場合に注意を払わらなければならないことがよく分かりました。自分の授業をビデオで撮ることがなんとも言えない恥ずかしさがありますが、きっと改善点を見つけるのに、とてもよい方法であると思いました。よりよい授業を目指し、チャレンジしてみたいと思っています。
- 映像と文字おこしを見ながら、ギャラリートークを見ると自分がナビゲーターをした時にはわからない子ども一人一人のつぶやきやしぐさまで確認ができて参考になりました。また、映像を止めて、ナビゲーターの発問や子どもの発言に対して複数で検証ができることもおもしろいなと思いました。
- 子どもたちの成長や、表情が感じられるビデオ記録の大切さがよくわかりました。また、鑑賞作品の順番、作品との距離や、鑑賞体験、視点や目の高さなどもよく吟味されていることが伝わり、子どもの気持ちになって授業をデザインされていることがわかりました。技巧的な部分に着目したり、物語をつくって作品に入っていったりと、自分なりの見方を追求する生徒と、他の人から見方を学んだりできる生徒など、鑑賞学習が持つ学びの多様性に改めて気づかされました。
- ビデオをみていくと、細かい仕草からも変容が読み取れました。導入から、発展していく様子を、分かりやすく説明していただきました。だんだんと絵の中に入っていく生徒達の様子を見ていくと、改めて、沢山の絵が飾られた非日常の世界(美術館)の素晴らしさを感じました。よく行われている対話活動だけでなく、あえておざなりにされた文脈(歴史など)を効果的に使うということを、これからの授業に活かしていきたいと思います。
- 子供の発話だけに目が行きがちでしたが、子供の仕草や目線などから読み解くことができると知り、大変勉強になりました。また、作品の文脈をどのタイミングで出すかについて、イメージをもつことができました。非常に有意義な時間でした。
- 日々の授業でも、ビデオに撮ると自分の口調や授業の雰囲気がよく分かり、振り返る際には大変役立ちました。さらに、生徒の変容を見取り、分析するには必要なことだと感じました。子供たちの変容がつぶさに分かり、本当に経験から徐々に成長していく様子が分かりました。
指導主事
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- 小学生と中学生、発達年齢の違いにより鑑賞の風景に大きな違いを感じました。勉強させられたのは子どもたちの声にどのように教師が耳を傾け声かけることが必要であるのか。教師の思いに引き込んでいくことよりも、子ども達の柔軟な発想の中から鑑賞の世界に導いていく。動画はとても子どもの姿と教師の姿の学習に大変役立ちました。どうすべきかのヒントを多くもらいました。
- 実際に実践の様子を拝見することができ大変勉強になりました。一つ一つの言葉を分析することで、より支援の発問等が明確になり参考になりました。進んでギャラリートークを実践する方が少ないことと、年間指導計画にどのように位置付け継続して取り組める環境を整備していくかが課題であると考えます。
- 実際の児童生徒の姿を通すことで、児童生徒が「何を学んでいるのか」「どのように学んでいるのか」等のプロセスが明らかとなり、見えてくるものがたくさんあります。私もかつて同様の手法で記録を残していたために、大変参考になりました。これまでは児童生徒が発した言葉に注目していたのですが、表情や仕草等の新しい視点を得ることができました。
- 実際に見る機会が無かったので、映像とともに分析をしていただき、子どもたちの反応の様子、発達段階による反応の違いなど、とてもよく分かりました。トーカーがどのような意識をもって、子どもたちと接すればよいか、お二人の講師の方のお話しから留意点を理解することができました。
- 児童生徒と奥村先生とのギャラリートークの様子を拝見し、具体的にどのようなやりとりがなされ、どのようなことを大切にしていけばよいかを理解することができました。
学芸員
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- 講演してくださった先生方の映像により、実際の子ども達の反応を見ながら分析結果を聞くことは、当館で取り組んでいる対話型鑑賞との違いをわかりやすく感じることが出来て、大変良かったと思います。様々なイスの鑑賞の際に一つのミッションがあることで感じ方が変わることや、ファシリテーションの仕方も様々見ることができて、ついつい自分で行う際には、言葉が多くなってしまっているなぁと感じた部分でもあります。
- 登場した子どもたちの様子が衝撃的でした。作品を前に自分なりの考えをしっかりもって、お互いの感じたことを述べ合うことで、更に成長する姿を見ることができ、一つの目標になりました。では、どうすればそのような子どもになるのかについて分析がなされ、なるほどと頷きながら傾聴しました。子どもの意見の取り上げ方、返し方、練り上げたり束ねたりすることについてとてもわかりやすく解説していただきました。
- 指導された奥村先生・本間先生ご本人が活動状況を具体的にふりかえって説明されているので、鑑賞時の生徒の様子をありのままに見ることが出来、作品と生徒たちとの関係が少しずつ変化していく様子がよく見えました。実際に授業をした自身の経験と照らし合わされ、鑑賞の短い時間の中で緩やかに成長していく姿に出会えたように感じました。指導者が主役でない鑑賞の学習が大事だと言葉でいうよりも、自然にスッと入ってくる研修の時間でした。
- 客観的な分析をすることで、普段館内で自分が行っているときには気づかない、反応や仕草に注目することができました。とくに子どもとのコミュニケーションの取り方は、美術館で働く立場としては、なかなか学び取れないことでもあるので、大変勉強になりました。
- ビデオにとって分析するという発想がなかったので、とても勉強になりました。小学生と中学生というケース別で見ることも、それを実際に間近で見て会話をした先生方の話しを伺えたことも興味深かったです。特に小学校の3年次と5年次の映像は、一過性ではなく長い時間を見通した鑑賞教育の成果を目の当たりにし、その重要性を感じることが出来ました。