講演
題材のねらい
もちろんこれは授業ですから、ちゃんと題材のねらいというものが最初に設定されています。題材の目標は、「身近な街の様子に関心を持って目を向け、いろいろな色の組み合わせを見つけて楽しもうとする。そして、様々な色の組み合わせを比べて、感じ方の違いや気に入っているところを友達と交流し、そのよさや面白さを見つける」です。
先生のほうは、この題材で大切にしたいことということで、身近な生活の中で色の関心が高められるように、話し合いの場を作って十分に児童の交流が深まるように、それから交流などを通して自分の見方をより広げていくような多面的な物の見方をより気づけるように、そして身近な地域素材を活用して地域素材に親しむように、題材を通してこのようなことを大切にして、この授業というのはつくられているわけです。
もちろん学習指導要領ともこのように関連をしてつくられております。
「みること・みつめること」
この活動から、子どもたちはどのような資質や能力を発揮しているのか考えたときに、子どもたちは素敵な色を見つけるということをテーマに街に出掛けていく。そのときに、視覚や触覚、感覚を本当に働かせて、そして対象や事象から心に感じとる働き、感性というもの、この二つの資質や能力を働かせて、この題材、色というものに向かい合ったのだと思います。
「みること・みつめること」というテーマにしていますけれども、「みる」は単に目で見るということだけではなくて、触ったり、体全体を使ったりする、そういった感覚で捉えることを含んでいる意味としています。そして感性、つまり心を働かせて感じ取ることを「みつめる」こととして「みること・みつめること」を今日は主題にいたしました。
そして、この二つのことというのは、やはり子どもたちの能動的な活動の上に成り立っているということですね。だから先生方が、子どもたちがやはりやってみたい、やりたいな、どんなものだろう、もっと知ってみたい、そのような能動的な活動の上にこのような活動が成り立っているということをやはりしっかり押さえて、学習活動を考えておく必要があると思います。させればできるというものではないのです。やはり子どもたちが本当に能動的になるということがすごく大事だというように私は思います。
それは、単にこのような鑑賞の活動の中で見るということだけではなくて、日常生活の中、それから図画工作、美術の授業の中で描いたりつくったりする、表現の活動の中でも見ることや見つめることというような力というのは育っていくということです。単に鑑賞の学習のときだけではないということですね。
特に、中学校は鑑賞と表現をどちらかというとそれぞれの題材としてやることがありますが、決してそれはばらばらになっているわけでなくて、表現と鑑賞というのがやはり関連し合いながら子どもたちに力を付けていくというように考えていくべきだと思います。
今回の取り組みを見ていたら分かるように、授業としてあるわけですけれども、街の中に出て素敵な色や形を見つけるということは、単に授業だけではなくて、やはり見るということは、先ほども言いましたように子どもたちの日常的な行為でもあるということですね。そこもやはりしっかり押さえておく必要があると思います。だから、その時間だけではなくて、やはり日常的な行為として捉えて、日常的な中で見ることや対象を見つめたりすることをずっとやっていく必要がある。そして、鑑賞や表現の授業の中で、よりその能力を発揮してということになっていくのではないかと思うわけです。
この題材から言うと、もう一つは、やはり対象を選んで、子どもたちが探究するということがまずあります。街の中に出て、自分が素敵だなと思うような対象を選んで、それを一生懸命探していく。そして、選んだ対象を交流して見方や感じ方を広げるということですね。自分自身ではこのように思ったけれども友達はどうなのだろう、私はこのように思ったのだけれども、あの人はこのように思ったのだな、そのような見方もあるのだなということですね。
最後には色画用紙を使って表現するわけですが、そこでこの二つで獲得した対象の特質というものを用いて表現することで、より見るということや色に対しての感じ方や考え方に深まりを持っていくことになっているのではないかと思います。そして、対象を今度は自分で変化させる。今まではできた物から色の組み合わせとか、色について素敵だなと思う物を自分で見つけたわけですが、今度はそれを自分で変化させていくということですね。そこで見た物を更に変化させて、より自分が思う素敵な方向へ持っていくという、見るだけでなく自分で表現することを通して、より色や色の組み合わせに対する感じ方や考え方を深める行為が題材の中で行われてきたのではないかなというように思います。
「みる・みつめる」を通して育まれる関係性
このように、自己と対象との関係が、この中で明らかになっていく。見るということを通して自己と対象との関係が明らかになっていく。自分の感覚や感性など体全体を使うこと、そして活動の中で物や物事をよく見るということですね。やはり素敵な物を探すために子どもたちは能動的に街に出て、物や物事をこの機会に本当によく見ようとする。それから、そのことを通して、物や物事をよく知ろうとする。物の関係性、物事との関係性、それから交流などを通して他の人たちとの関係性、このような関係性がこの題材の鑑賞活動の中で育まれているのだということですね。
色や色の組み合わせとの出会いが周囲の世界を広げたり確かめたりすることにつながっている、そのような機会になっているということですね。そして、その中で自分なりの意味や価値を見出しているということだと思います。
先ほども言いましたように、このような活動を通して形や色、そしてイメージなどから子どもたちがそのようなものから関係を結んでいく。ただ、それは単に交流をした子たちだけのつながりではなくて、やはり更に外へ広がっていくものだというように思います。だから、鑑賞の学習というのが単に閉じた世界の中で行われているのではなくて、やはり共通の見る、見つめるということを通していろいろな人とつながっていく。これは、もちろん今日は鑑賞の部分が中心でお話をしていますが、表現でも私は同じだと思います。このようなつながりを生むような学習活動というのも学校の先生方は、やはり考えていただくことが大事だと思っています。
このような中で美術館や学校、それから見ることや描いたりつくったりすること、そのようなことが子どもの中で一つの輪になって働いていくということですね。
ただ単に鑑賞のところだけを取り上げてではなくて、やはり全てがつながりながら子どもを中心に据えて学びとして働くということが大切だというように思います。いつも中心は子どもたちであって、やはりこれは学習であるし、学習のねらいというものが存在するということですね。ここから鑑賞の活動というのは学校教育の中では考えられていかなければならないということです。
鑑賞の活動は創造活動
図画工作、美術の学習指導要領の目標において鑑賞の活動というのは、よさや美しさを感じ取り、味わい、自分なりの意味や価値をつくり出す創造活動であるという、そのような位置付けです。
鑑賞の活動というのは、単に見ることだけを目的としているのではなくて、知識なども活用しながら、自分なりの意味や価値を作り出す創造活動というように位置付けています。ですから、鑑賞の活動の中では単に定まった価値を指導者から教えてもらうというようなことではなくて、鑑賞の活動を通して、子どもたちの中でそれぞれの意味や価値がそれぞれの中で生まれていくということをやはり大切にしなければならないと思いますし、その際に、それぞれがつくり出した価値や意味を子どもたちが話し合う活動などを通して、子ども同士がそれらを共有して、またそこから子どもたちが新しい価値を生み出していく、そのような活動の連続性のようなものも大切にしていくことが求められると思います。
ここでは一人では見て感じなかったことが、みんなと話し合ったことでいろいろと気づくことがあったり、自分の見方や感じ方が広がったりすることがおこっているのではないかと思います。その際に大切なのは、一つは共有や話し合いのようなものがある際に、やはり子どもたち一人ひとりが感じ取ったことがきちっと認められて大切にされるということがないとだめだと思うのですね。
もう一つは、子どもたち自身の中でそれぞれが、まず感じ取ったことなどがあるということも大切なことです。その中で初めて交流したり、心の中で思っていることを外に出したりしたときに、それぞれのことが高まっていくのであって、まだちょっと自分の中で十分固まっていないのに話し合いをすることでうまくいかないこともあると思います。その辺は、もちろんその授業のねらいに応じて考えていく必要があると思いますが、やはり子ども一人ひとりが感じ取ったことが認められて大切にされるということ、これは先生だけが思っているのではなくて子どもたちもそれを実感しているということですね。そのような上で鑑賞の活動が行われていくということが必要ではないかというように思うわけです。
日々のこのような活動の中で子どもたちが、常に主観性が認められたり、それを実感できたりしているかということを考える必要があります。鑑賞のある1時間の活動だけではなく、常の図工、美術の活動の中で、このようなことが日頃から表現でも鑑賞でも大切にされていることが、より鑑賞の活動のときに深まりを持っていくのではないかと思います。ですから、例えば美術館で1時間だけやった活動が魔法の言葉のように、それで全てがかなうというものではなくて、子どもたちにとって活動をずっと貫いて鑑賞の能力を身に付けることにつながるということなのだと思います。
また、鑑賞の活動などを振り返ると、ついつい子どもたちと先生との関係性ばかりが強調されてしまって、実際に子どもたちの中での関係性というものが、時々ちょっと忘れられてしまうことがあるのですね。ですから、どうしても先生と子どもとの1対1の関係性が強くって、そこはできているのでしょうけれども、やはり大事なのは、それぞれの子どもたち同士が関係性を結びながら、より見方や感じ方を深めていくというようなこと、そのようなためには、やはり鑑賞の活動の中でそのような仕組みを作っていかなければならないのではないかなというように思います。
今日、午前中に見せていただいたギャラリートーク分析のビデオなどを見せていただくと、やはりそのような関係もすごく大切にされながら今日は行われているなというようなことを非常に私は感じました。あのような中から、やはり見方、感じ方が深まるということが出てくるのではないかなというように思います。
そのような子どもたちの日常の営み、それから学校教育の中で図工や美術の時間を通して子どもたちが見ることや見つめること、それを自分で獲得していくということを十分に私たち指導者、今回のこの研修の指導者というのは理解をしながら美術館とその中で学校が連携を取りながらやるということが大切であると思いますし、この連携というのは、単に一方通行のものではなくて、やはり双方向でありながら、子どもたちの学びを中心に据えて美術館と連携を作り上げていくようにしなければならないと思います。
今は、以前に比べてかなりそのようなものが作り上げられていると思うのですけれども、これから一層そのようなものを作り上げていくということが大切であるかと思います。だから、この今回の研修の中で生まれた他校種の人、学芸員の方や指導主事の方、そのような方と連携をここだけで終わらずに、それぞれの地域に戻ったときにここで学んだノウハウを生かしながら、より一層子どもの学びを中心に美術館と学校とが連係をする。そのようなことを目指していってほしいと思います。