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講演

4.おわりに

何かまとまりの無い話で申し訳なかったのですけれども「おわりに」ということで、あと幾つかお話をさせてください。 これは、全てではないですけれども、何か自由に見たらいいというような投げ掛けといいますか、結構あるのですね。でも、自由に見るというのは、なかなか難しいことだと私は思うのです。表現のときなどでも、好きにつくったらいいというようなことを聞く場面があります。でも、好きにつくるというのは、すごく難しいことですね。できていない、手が止まっている子に「好きにつくったらいいんだよ」「悩むことないんだ」というようなことが時々ありますが、やはり絵を見るということでも、自由に見たらいいというその自由というのは一体何かというような、やはりそこのところは好きに見させたらいいのだということではなくて、学習のねらいというものもちゃんと照らし合わせながらしていかなければならないのではないかなというように思います。

それから、言葉を使ったいろいろな活動の中で、なかなか言葉が出ないときに、何でもいいという、これもあまり意味のあるようなことではないと思うのですね。ですから、今日、お話ししたかったのは、見るということが子どもたちの中では日常や学習の中で1本の線につながっている。それを指導者が点としてだけ見るのではなくて、やはり1本の線としてつながって見ていくということをぜひ考えながらいろいろと連携ができればなというように思います。



これは、さっきワールドカフェでもちょっと一緒のテーブルになった人にはお話ししたのですが、私が初めて美術館に行ったのが1971年7月10日から8月29日の間のどこかです。ちょっとどの日かは分かりません。
この日は、インターネットで調べたのですけれども、小学校の3年生のときに父親に、うちの父親は美術とかと全く懸け離れた人なのですけれども、突然「美術館に行くぞ」というように、もう閉館前の多分30分ぐらいのときに美術館に分からないままに連れて行かれた展覧会がこのミケランジェロ展でした。 でも、非常に私は、このミケランジェロ展がすごくインパクトがあって、そのときの感想は「大きい。ダビデ像大きい。すごい!」と思ったのですね。そのときに併せて思ったのが、本当にこれは小学校3年生ながらにでもしっかり覚えているのですけれども、要するに美術館の空間です。それをまだ天井はもっと上回ってあるわけですね。その中にダビデ像が、私は小学校3年生のときは非常に背が低かったですから余計だったと思うのですけれども、本当にそびえ立つという言葉がぴったりと来るぐらい本当に大きい、すごいなと思ったのが最初の美術館の出会いです。 でも、最初のその印象は、その後までずうっと続いていて、美術館でそのときには本物とかそのようなことを考えたわけではないです。でも、やはりその空間、迫力というようなところ、そこにやはり圧倒されて、中学校のときの教科書にもそのミケランジェロのダビデ像が載っていたのですけれども「いや、これではないな」とそのときに思いましたね。だから、それが本当に美術館と私がつながっているところ、気持ちの上でのところなのです。
でも、このようなやはりきっかけがあった。なぜ、あのときは父親が、多分、私が、今、想像するには、どうも新聞の勧誘か何かでチケットをもらって、あとちょっとしか日が無いからもう見に行かなければいけないというような、ちょっと去年、父が亡くなったので聞く間もなく終わったのですが、聞いていたらよかったなと思うのだけれども、多分、僕は、そのようなことだと思います。でも、そこで連れて行ってもらったことが今につながっているというのは、すごくやはり感じます。
今回、この研修の委員として参加させてもらうことになって、そのことについて思い出して、本当にあのミケランジェロ展というのはいつだったのだろうとインターネットで調べたら、ちゃんと日付が載っていたので、その間に行ったのだなと。
確かに小学校3年生だったと思います。万国博覧会がその前の年にあって、その翌年でしたから、それは覚えているので、このミケランジェロ展について強く思っていたというようなことです。ただ、その後、私は、いろいろ海外とか勉強で行くわけではなくて旅行とかでいろいろな美術館に行って、海外の美術館は写真を撮ったりすることができますから結構いろいろ写真を撮っていたつもりだったのですけれども、この間、京都に帰ったときに、この研修で何か見せられる物は無いかなと思っていろいろ探していたら、何枚かの写真が出てきたのですが、どうも大きい作品の前に立っている私ということで、このときの思いが50歳前になってもやはり残っているのかなというので、今日はその写真はお見せしませんが、マティスの切り絵の作品などをポンピドゥー・センターで見たらものすごく大きいのですね。5メーター、10メーターぐらいの切り絵なのです、あれは。だから、その前で載っているのは、ほとんど何かその大きさを比較するために私が立っているというような写真が本当に多いのです。

でも、やはりそのようなこともきっかけになる。だから、まず足を運んでみるということがすごく大事なのだろうなというように思うのですね。いろいろな機会を見つけてね。
いろいろ難しい側面もあると思います。例えば近隣に美術館が無いとか、いろいろなことがあると思うのですけれども、何らかの形でそのようなきっかけを子どもたちに作ってやること。そのときには、十分、何か学べたのか学べていなかったのか分からないようなこともあるかもしれません。でも、やはり行くということが、すごく大切なことではないかなというように私の例だけかもしれませんが思いました。
今日お話しした内容は、何か特別な本を読んでお話ししているわけではなくて、この2冊の学習指導要領の解説書を基に今日はお話ししております。この本は85円と96円で缶コーヒーより安い本なのですね。(笑)
今日、僕がお話しした内容というのは、この中にほぼ書かれていることです。まだ、学習指導要領の解説書を読んでおられない方は安い本ですので是非読んでください。

我々は、この2日間で、私も含めてそれぞれのご担当の校種、職種というものを中心にこの研修をしてきたと思うのですけれども、この先もっと長いスパンで、子どもの頃から大人に至るまでという、そのような長いスパンで鑑賞というもの、ものを見たり見つめたりするということをこれから皆さんと力を合わせて考えていく、このようなことも大切にしていきたいと思っています。そのようなことを皆さんにお伝えして、私の話を終わらせていただきます。どうもご清聴ありがとうございました。

(プレゼンテーションイラスト:久保周史)




受講者アンケート(講演)


受講者感想(抜粋)

小学校教諭

  • 非常にわかりやすく、鑑賞の位置づけがわかった。また、今後の授業で実践することができそうな事例、その内容に組み込まれている知的学びの部分が明確になった。
  • 指導要領の解説と鑑賞の関係がよくわかった。
  • 鑑賞教育のねらいや進め方・留意点をわかりやすく整理してくださったと思う。言語活動との関連へのヒントもいただけた。
  • 新学習指導要領のポイントがもう一度確認できた。
  • 実践のビデオ、優しいイラストを通して、「みること、みつめること」について考えることができた。幼少期の自由な表現・感性を大切にしたいと思った。
  • 鑑賞を考えるときに、まず“子どもの学び”を中心に考えるというお話が印象に残った。子ども同士のかかわりを大切にしながら鑑賞の授業を実践していきたいと思う。
  • 事例をふまえての講演内容だったので、「みること、みつめること」への取り組みを具体的に考えることができた。

中学校教諭

  • 中学校学習指導要領の解説がわかりやすく聞け、嬉しかった。
  • 手描きの挿絵が大変わかりやすかった。レジュメなどあるとありがたかったと思う。
  • 学校現場でのこれからの鑑賞教育の核が、とてもわかりやすく参考になった。それぞれの発達段階に沿ったアプローチができるような、プログラムづくりを工夫していきたいと思う。
  • 計画的に生徒につけたい力を考え、活動を考えることを改めて強く感じた。
  • 授業のねらいに沿って、教師が目的を明確にしておく必要性が能動的活動を支えていくことになると思った。
  • 学校の中でどのように鑑賞を進めていくべきか、子どもたちの感性を豊かにしていくか、大切にしていかなければならないものが見えてきた気がする。
  • 「みること、みつめること」には教員の働きかけや準備が大切だと感じた。
  • ワールドカフェでご一緒した一柳先生も「素敵」という言葉をたくさん使っていらっしゃった。中学でもこの言葉を言われると生徒は喜ぶ。感覚と感性の違いを教師がしっかりと押さえ、鑑賞の授業を組み立てなければならないと再確認した。
  • 鑑賞の際に混同しがちなこと(事実と感じ取ったこと)や、漠然と提示しがちな素材に対する意図やねらいを明らかにすることなど、理論的に話していただき理解が深まった。

指導主事

  • 学校教育という枠組みの中で鑑賞教育をどう捉えるか基本に戻って考え直すことができた。
  • 鑑賞教育が学習指導要領の中でどう示されているかをしっかり理解しておくことは大切だと思う。このプログラムが最後に位置づけられていたことはとてもよく考えられたことだと思った。大変わかりやすく聞けた。
  • 学校現場で実践するために、留意すべきことがよくわかった。

学芸員

  • 鑑賞について現場に戻ってからの活用の可能性を提示していただけて、がんばるぞという意識が高まった。
  • 鑑賞は特に「ねらい」が大切になるので、学校と美術館とが協力し明らかな「ねらい」のもと、学びを促進させていけるといいと感じた。
  • 学習指導要領をふまえた鑑賞の実践例を紹介していただき、ありがたかった。
  • 「能動的な活動」の上に物を見たり、感じたりする力が働き成長していく、これが一番大切。そのためには、私たち自身が感動体験することも重要と感じた。