事例紹介1

八王子市立陶鎔小学校「あそびじゅつかん」の実践報告

中根 誠一
(東京都東大和市立第十小学校 教諭)

東大和市立第十小学校の中根誠一です。本日は実践発表の貴重な機会をいただき、まことにありがとうございます。 このたびは「あそびじゅつかん」の2年間の活動について発表をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

「あそびじゅつかん」とは

本実践発表は、大きく4点からさせていただきます。まず「あそびじゅつかん」発足のきっかけについてお話しさせていただきます。
私が昨年度まで所属していた八王子市では、鑑賞局を母体に美術館と連携した授業について研究をしておりました。前任校では年に1度、 6年生を引率した連携授業を4年間行なっておりました。その中で、もっと美術館と連携した鑑賞活動について勉強をしたいと考え、 平成30年度の指導者研修に参加する機会をいただきました。

2日間研修を受けさせていただく中で、3点これまでの実践を振り返り考えたことがあります。まず美術館へ引率するのは年に1度だけでよいのか。 美術館での活動に加え、その前後、事前学習や事後学習で何か工夫できることはないか。美術館と継続した連携活動はできないか。 それらを考える中で「サタデーコミュニティ」に注目しました。

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「サタデーコミュニティ」、サタコミは月に一度の土曜日に、地域の方々が中心となり、校舎で希望児童に対して、 織物や合唱、和太鼓などに取り組む課外活動となっております。このサタコミを活動の場と設定しました。 また参加者が楽しく美術館での鑑賞活動に親しんでもらえるように、「あそびじゅつかん」という団体名に命名いたしました。
活動方針は、年間を通して継続的に美術鑑賞を行なうこと。1年生から6年生を交えた異学年交流の場を設けること。保護者、地域の方の参加と、 美術鑑賞への理解を深めること。以上の3点で設定いたしました。

ありがたいことに、1年生から6年生まで全学年で児童が希望をしてくれ、これまでに児童だけでなく、保護者や地域の方々、 市内外の教員の方の参加もあり、校舎内の活動では20名から30名、美術館内の活動では40名から50名の方々にご参加いただきました。
この「あそびじゅつかん」の運営は、2年度からは久米遥子先生(八王子市立陶鎔小学校図工専科教員)を加えて、飯澤公夫先生(八王子市立元八王子東小学校非常勤教員)、中根の3名で行なっております。

東京富士美術館での活動

それでは発足1年目に行なった美術館内での活動について報告をさせていただきます。 まず東京富士美術館では、八王子市の小中学校の連携で、無料でバスを手配していただけます。前任校でも毎年行っていた6年生の引率で、 このバスを活用させていただきました。このため鑑賞活動の時間をより多く確保することができます。
令和元年度の「あそびじゅつかん」でも、こちらのバスを活用させていただきました。全8回のうち4回を、美術館内で行いました。 そのうち第6回「あそびじゅつかん」では、彫刻作品に注目した鑑賞活動を行ないました。

まずシアタールームで彫刻の製造過程や鋳造の方法、(彫刻作品に関する)法律、足元のナンバーなど、 さまざまな話を聞きながら、見方や楽しみ方を知りました。
次に手袋をつけて彫刻作品に触れさせていただきました。見た目の滑らかさと、実際に触ったときの冷たさや固さなど、 視覚と触覚のギャップを楽しみながら鑑賞をしました。さらにICTを活用して、彫刻作品を見た後に、お気に入りのアングルを探してタブレット端末で撮影しました。 参加者には後日、印刷をしてラミネートしたものを渡しております。こちらが撮影した画像です。

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参加者からは、彫刻作品の鋳造の過程、さまざまな手順で行なわれていたことに対して驚いたこと、彫刻作品に触れる貴重な機会について大変に喜んでいたこと、 一人ひとりお気に入りのアングルの違いやまたそれらを楽しく撮影できたことへの感想がたくさん寄せられました。

従来の慌ただしい時間のなかでの鑑賞と異なり、少人数、かつゆったりとした時間のなかで、 視覚だけではなく触覚からのアプローチをしたり、 彫刻を360°から鑑賞しながらベストショットを探してフレームに収める体験など、 新鮮な視点をもつ鑑賞活動を通して、より彫刻への興味・関心を持つことができたと思います。 今まで美術館へ引率していましたが、この回ではさまざまな観点から充実した鑑賞活動をすることができました。

「あそびじゅつかん」のICT活用

続いて「あそびじゅつかん」のICT活用について発表させていただきます。ICTは美術館へ行く事前と事後、鑑賞中や校舎内での活動に活用しました。今回は特にARとVRについて紹介をさせていただきます。 ARは東京書籍の「マチアルキ」、VRはリコージャパンの「THETA」を活用いたしました。

「マチアルキ」は設定した情報を読み取ることができるアプリです。マーカーというものに情報を埋め込むことで、端末から読み取ることができます。 「あそびじゅつかん」では、このARを鑑賞マナーの学習で活用しました。
あらかじめ編集した映像を前任校のマスコットキャラクターのイラストに設定しました。これにより参加者は楽しみながら鑑賞マナーを学ぶことができます。 こちらがその映像資料です。これは「足元の白線に入らずに鑑賞をしよう」という映像資料になっております。

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参加児童はこのようにスマホやタブレット端末から学習しました。

01 ARアプリで鑑賞マナーを学習している場面 (1)

今年度は新型コロナウイルス感染症の対策もかねて、鑑賞マナーをひとつ付け加えました。
<美術館の中では、友達との距離をしっかりとって美術館の活動に参加します>

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実際に「マチアルキ」のアプリをインストールされている方は、こちらから鑑賞マナーの映像資料をご覧いただけます。

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前任校では、学校便りに運動会当日の様子を撮影したものを編集して付け加えたり、校内展覧会で児童が自分の作品について発表している場面、 プロジェクションマッピングを放映している場面などを編集したものを添付して、保護者や地域の方々にお伝えをしたりしました。 伝えたい情報をより多面的、多角的に伝えることができました。

先程の「マチアルキ」と組み合わせてリコージャパンの「THETA」についてお話をさせていただきます。 こちらも実際にVRの画像をご覧いただけます。

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あらかじめ東京富士美術館内を撮影した画像、こちらを鑑賞します。

04 360°カメラで撮影したブース内の画像

こちらが360度画像を鑑賞している様子です。

02 VR画像で鑑賞マナーを学習している場面

参加児童はさまざまな角度からブース内の様子を見ることができ、足元の白線、美術作品の大小、額縁の形など具体的な確認をすることができました。 実際に美術館内での活動では、どの学年の児童も鑑賞マナーをしっかりと守って活動に参加することができました。

「マチアルキ」は鑑賞マナーのほかに、さまざまな活用方法があります。ARマーカーはイラストや文字以外にも設定することができ、 校舎内の位置情報からGPS機能を使って、ゲーム形式で活動することもできます。GPS機能を使って校舎内に東京富士美術館の美術作品を設定し、 隠された作品を探すゲームを行ないました。こちらが活動中の画面の様子です。

3 ARアプリのGPS機能を活用したゲーム

隠された美術作品の近くに行くと、タップをすると作品をゲットすることができます。 こちらも画面の様子です。左がゲットした美術作品の様子になっております。

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今年度は新型コロナウイルス感染症のため、美術館へのバスでの移動ができませんでした。 そこで昨年12月に公共交通機関を利用して、現地集合、現地解散を原則に美術鑑での活動を行なうことができました。 当日は市内外のたくさんの先生にお手伝いいただき、小グループに分かれて本物の美術作品を鑑賞することができました。

参加児童の中には、今回の活動で初めて美術館に行ったという児童もいます。後日「THETA」を活用して振り返り活動を行ないました。 QRコードからあらかじめ作成していたVRマップへ移動。VRゴーグルを使ったりして具体的に振り返りを行ないました。

05  VR画像で美術館での活動を振り返っている場面

最後は一番心に残った美術作品を印刷し、しおりとして切り抜き、加工後、持ち帰りました。

成果と課題

最後に成果と課題です。3点あります。

成果ではまず、年間をとおして美術館と連携した鑑賞活動を継続的に行なうことができました。 参加児童の感想も「美術館に行ってもどのように鑑賞したらいいかわからなくて楽しめなかった。 教えていただく中で、とても楽しく鑑賞できた」「見方を変えるといろいろな見え方がして、作品を見るのが楽しかった」 「前回よりもまた違った見え方がした。次回はもっとしっかり見ていきたい」などたくさんの感想が寄せられました。 毎回の鑑賞活動を楽しみにしてくれている上に、参加児童の見方、感じ方が深まりつつあると実感しております。

次にICTの活用についてです。先程の発表にもあったように、鑑賞マナーの学習や振り返り、鑑賞活動等、 場面に応じての活用が効果的であったと実感しております。今後もICTを鑑賞活動の狙いに応じて、必要性を十分に検討して活用してまいります。

最後に課題です。令和元年度ではエピソード等を用いた鑑賞活動を行なっておりましたが、 今年度は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、参加者が美術作品に関心を持てるようなエピソードを用いた鑑賞活動を十分に行なうことができませんでした。 今後「あそびじゅつかん」では、活動方針をもとに東京富士美術館とさらなる連携をはかり、 参加者が美術作品に関心を持てるようなエピソード等を用いた鑑賞活動により重点をおき、 活動内容を検討・実施してまいります。以上となります。ご清聴まことにありがとうございました。


質疑応答

──「AR、VR、VRゴーグルなど、ICTツールを活用されていましたが、そういった機器は、企業などの協力をいただいたりしたのでしょうか?」というご質問がきております。

中根: まずARについては、八王子市立陶鎔小学校が企業と連携をして、実際に契約したものを活用させていただいております。VRについてはフリーのアプリを活用して、ゴーグルは用意して、それを組み合わせて使いました。

──同じく、AR、VRが印象的だったという感想がきておりまして、振り返りにもVRを活用されていることがとても印象的でした。訪れた時にメモ作成などができなくても、思い出せることが出てくるだろうなと思います、というご感想をいただいていおりますが、実際に振り返りにVRを使われたときの生徒さんの反応は、どんな様子でしたか?

中根: 「こんな作品あったよね」といった子供たちの交流、「自分はこの作品が気に入っていたんだ」とか、具体的に写真ではなく、この場所のこの時に見たんだよということで、より具体的に話をしている場面が印象的でした。

──実際にその場を思い出し、その空間を思い出しながら話しあっていたということでしょうか。

中根: はい。

──このご質問はたくさんの方からいただいております。「今年テーマにされていたエピソードを活用する鑑賞活動というのは具体的にどういったものなのでしょうか?」というご質問です。

中根: 作品それぞれによって異なりますが、子供たちが楽しんで観て、またそれにまつわる作者のエピソードであったり、作品についてのエピソードであったり、その作者が生きた時代のエピソードであったり、子供たちがより学習に関連して身につくような内容を適宜用意して伝えるようと心がけていました。

──つまり、作品の背景であったり、その時代のお話を先生の方から適宜情報として見せたり聞かせたりされたということですか?

中根: そうですね。

──こんな質問もいただいています。「ICTの活用について、他の教職員の方々の間においても、研修を重ねられたりしたのでしょうか?」

中根: 先月に校内で2回ほど研修をさせていただいて、実際に、自分は図工専科をやっているので、図工の教科の中でプログラミングブロックをこのように使いましたという紹介例であったり、「あそびじゅつかん」で活用したVRのマップですが、VRマップを社会であったり、総合であったり他教科でも活用ができますので、一緒に作っていきましょうという紹介を校内でもさせていただいております。

──私もあの映像が気になったのですが、「THETA」の映像は先生が撮影されたものでしょうか? 著作権等のご配慮など、何かされたことがあれば教えていただきたいです。

中根: 「THETA」は「あそびじゅつかん」を一緒に運営している先生のものをお借りしたり、今年度自分が所属している学校の備品でも購入していただいたのですが、360度カメラを活用しました。実際に学芸員さんに撮影の許可をいただきまして、著作権で可能な範囲のお部屋を撮らせていただいて、「あそびじゅつかん」や図工の授業で活用しております。

──やはり、美術館側との調整とか事前の打ち合わせをしっかりなされた上でご撮影されたということですね。

中根: 学芸員さんとしっかり打ち合わせをしました。

──前任校の八王子市立陶鎔小学校でのプログラムだったということですが、他の学校の生徒さんも参加できたりしたのでしょうか?

中根:他校では所属している先生のお子さんにも参加していただいたり、市内の図工の先生のお子さんにも参加していただいたりしました。

──なるほど。学校をまたいで、先生たちも子供たちも参加されたということですね。中根先生ありがとうございました。