アンケート集計
(過去の受講者)

国立美術館主催の「美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修」は、2006年度に始まり、今年度で15周年を迎えました。この節目の年に、2015年度から2020年度の指導者研修に参加した受講者に本研修に対する忌憚のない意見、ご自身を取り巻く鑑賞教育の状況、課題等をお聞きし、今後の研修に活かしたいと考えました。アンケートを令和2年2月6日〜3月28日に実施し、79名の方から回答を得ることができました。本シンポジウムでは回答を詳細に紹介することができませんでしたが、本研修を受けられた受講者の皆さんの声として、是非ご一読ください。

※自由記述は、個人名等を中心に一部修正しています。個人情報等に関わる設問については掲載しておりません。

Q2
Q5
Q6
Q7
Q10
Q17
Q18
Q19
Q21
Q22

Q11-12.
研修に参加したことによって、
鑑賞教育の知識やスキルが向上しましたか?

Q11-12

向上した

【小学校教諭】

  • 子供への発問の仕方を学ぶことができたから。また、美術館で絵を見る際に鑑賞の授業で使えそうな絵をチェックするようになった。
  • 鑑賞の授業を構想するにあたり、視野が広がりました。「作品とどんな出会いをもたせたらいいかな」「この視点だと子供たちはどんな反応をするかな」「どんな声掛けをして考えを深めていったらいいかな」など、子供たちが「やりたい!」という姿を想像して授業を考えるようになりました。
  • 参加者側の立場で質問の仕方や流れ、出てきた感想や意見への返し方、受け止め方などについて考えることができた。また、学校の先生がどのような反応をするのかも、ベースに何があるのかによって異なることがわかったから。

【中学校教諭】

  • 創造活動は「表現」と考えがちであったが、鑑賞も新しい意味や価値をつくりだす創造活動の側面をもつことを学び、これからも必要とされる「主体性」「創造性」「豊かな感性」を育てる上で大切なことという認識を深めることができたため。
  • 新学習指導要領に求められる鑑賞や美術教育の重要性が分かりました。また、グループワークや同じ目標を持つ先生たちとの対話を通して、自分自身も「みる」ことに自信がつきました。

【高等学校教諭】

  • 鑑賞において作家論やその時代背景などの解説に重きを置いていたが、生徒の感じ方を深掘りするファシリテーションという手法を学ぶことができ、自分自身の価値観も変わった。
  • 異なる校種の方々の鑑賞のやり方を知ることで、高校での鑑賞のあり方を考え直すことができた。

【指導主事】

  • 作品の細部を鑑賞し、様々な考えを持つ人と交流することで、自分が最初に解釈していた絵画の意味が変化していく体験をすることができた。それまでは、自分の解釈が人の意見で変化する経験はしたことがなかったので、とても新鮮で有意義なものだった。その感覚は8年たった今でも鮮明に覚えており、新学習指導要領が示している、主体的・対話的で深い学びの意図している部分の理解に大きな礎となっている。
  • 自分自身が鑑賞の良さや魅力を感じることができ、その魅力を子供や先生と共有したいと強く感じることができた。

【学芸員】

  • グループワークで生徒の立場になって作品を鑑賞することにより、あらためて気づかされることがあった。例えば資料提示のタイミングや能動的な活動にするためのしかけなど。また「絵の出会いは人との出会いに似ていて、知れば知るほど好きになる」という言葉も印象に残った。
  • ワールドカフェでは様々な立場の先生たちと率直な意見や疑問点を伝え合うことができ、鑑賞教育の意義を再確認することができた。

どちらともいえない

【高等学校教諭】

  • 実物を床に座ってじっくり見て、周りの人の感じ方を聞きながら鑑賞する機会は貴重だった。しかし、それぞれの感じ方を聞くだけでは、作品を取り巻く知識が不足しているため、それ以上の充実感は得られなかった。もっと深堀りして鑑賞したいと思った。

Q13-14.
研修後、研修内容は職場で活用できましたか?

Q13-14

活用できた

【小学校教諭】

  • 秋の行事、校内展覧会で教職員に鑑賞活動の大切さを伝えることができた。また、全校子供ガイド(ミニ学芸員)の活動から、900名近くの地域・保護者の方々が来校し、保護者アンケートで温かい声を多数いただいた。
  • 朝活動の一環として、VTSをさせていただく機会を得た。(中略)知識先行で作品を鑑賞する大人とは違い、色や形、作品の中の情報を頼りに鑑賞していく児童の発言が、作品の本質に近づいていく様子が面白かった。
  • クラスの子供たちが、作品ができあがると「いつ鑑賞しますか?」と聞いてくるようになりました。「友達の作品を見るのが好き」「友達の作品のいいところを見付けるのが楽しい」と子供たちが鑑賞を楽しんでいる様子が見られます。

【中学校教諭】

  • 浜松市美術科教科研修会で発表し、全体に伝達することができた。このことにより、表現技能を中心に題材を設定していた先生が、鑑賞を授業の導入部分や途中、完成後に行なうなど積極的に授業に取り入れようとする動きが見られた。自分の授業内でも、ギャラリートークのように作品を囲んで鑑賞するような授業スタイルを取り入れ、生徒からも好評だった。
  • 美術館がない地区なので、美術館を利用した鑑賞はできなかったが、将来自分の足で美術館に出向くことができるよう鑑賞の授業に力を入れた。アートカードゲームに取り組んだ。アートカードゲームは生徒にも好評で、観察力・表現力・コミュニケーション能力の向上に向いている。
  • ギャラリートーク形式での鑑賞授業と「教える」ではなく「考えさせる」鑑賞の工夫を行なった。

【高等学校教諭】

  • 生徒が自ら意見を持てるような美術史の授業にするため、ミニ鑑賞を取り入れるきっかけになった。

【指導主事】

  • 研修参加により新しい意味や価値を作り出す経験ができたことで説得力をもって助言できる機会が増えたと感じている。
  • 授業の事例が大変参考になりました(手作り絵具など)。近い内容のワークショップを実施する予定です。
  • 鑑賞の授業発表の講評の際、学んだことをもとに参加した先生たちに鑑賞教育のありようについて伝えることができた。

【学芸員】

  • 具体的なねらいを持って鑑賞ツールの制作ができた。得たメソッドをもとに子供向けの対話型鑑賞ツアーを商品化することができた。実績を重ねていくことで、今年、教育プログラムの問い合わせ窓口を開設した。
  • アートカードを手作りして学校で活用してもらった。また、これまでの知識植付け型ギャラリートークに対して、子供たちへの対話型ギャラリートークを通して発想力や観察力を引き出しながら、これまでにない鑑賞の時間を設定している。

Q15-16.
研修後、研修成果を地域で開催している研修会等で発表する、
職場の同僚に伝達講習を行うなど、
地域に還元する活動は行えましたか?

Q15-16

活動が行えた

【小学校教諭】

  • 研修で造形的な視点をもたせること等について学んだことを研究授業に用い、図工部員に理由を解説した。校内展覧会では、視点をもって鑑賞することの大切さを、研修で学んだことを生かして職員会議で協議、検討できた。大学教育学部生への講話では、年間の成果を報告した。
  • 職場では実際に鑑賞を行なう場面を見せて、鑑賞方法やその意義を伝えた。市内では自主研などに参加し、研修内容の一部を話す機会をもつことができた。
  • アートカードは知っていても活用法が分からず……という人が多かったので、実際にアートカードを使って職員同士で遊んでみた。大人が子供のように熱中していた姿が印象的だった。

【中学校教諭】

  • 中学校教育研究会美術部会の地域支部の夏季研修会、県大会に向けて行なっていた鑑賞授業の研究、初任者研修や経年研修を行なった。
  • 地域の鑑賞教育研修会とこの研修のズレを自分なりにまわりに伝えることができたと思う。

【高等学校教諭】

  • 地域の高等学校美術・工芸教育研究会にて報告し、情報を共有した。

【指導主事】

  • 国研の教育課程研究指定校の実践において、研修での経験を生かすことができた。具体的には、題材を通して生徒の思考を検討するなかで、表現と鑑賞の関連や社会における美術の働きなどの実践を学校に助言することができ、その成果を全国に発信することができた。
  • 単に地域で取り組んでいる鑑賞教育についての話をするのではなく、研修で知りえた他地区の実情を合わせて紹介することで、地域の取組の価値や課題が明確になった。

【学芸員】

  • 作成したアートカードを使って、他の学芸員が美術館外(敬老クラブ等)で積極的に活用してくれている。また、次年度から対話型ギャラリートークの時間設定ができたので、今後は積極的に広報していきたい。

どちらともいえない

【指導主事】

  • 今回の研修内容について発表する機会はないが、県の教育過程の説明会の機会などの中で折に触れて取り上げるようにしている。

【学芸員】

  • 実働を担当する学芸員が1人のみのため。内容をそのまま伝達するよりも、館の現場の活動に合わせて置き換え、活動に応用する工夫が現在の職場では必要と考えている。

活動は行えていない

【中学校教諭】

  • 美術科担当の教員ではなく「美術館教育は美術科で行なう」という考えが一般的であるなかで、職場の同僚に伝達講習まで行なうことは難しい現実があった。校外学習での美術館教育を提案し、学年の教員には理解を得ることができた。実施後、生徒達の当日の様子や振り返りの内容から、学年の教員の反応はすこぶるよく、美術館での学習に理解を得られた。

Q20.
鑑賞教育に実際に取り組んで、新たな悩みや課題、
より深く知りたいと感じたことがあれば
お聞かせください

【小学校教諭】

  • 市内に立派な美術館はあるが、市が大きく学校数も多いため、すべての学校が連携した学習を進めていくことがかなわない。美術館サイドも時折プログラムを提案してくれるが、学校の行事等にはめ込んでいこうとすると難しくなる。
  • アートカードを使った授業例をもっと知りたい。また、作品鑑賞をする際にどんな視点をもたせて鑑賞させるといいのか。評価する際の「この文ならA」「この文ならB」などの線引きがまだ不明瞭。
  • 鑑賞教育の有用性を強く感じ、熱心に取り組んでいます。一緒に学ぶ仲間も増えてきています。まわりのリソースをいかに生かすのか、鑑賞にとどまらない表現につながる鑑賞の授業を考えています。とてもよい実践がたくさん集まってきているのですが、鑑賞に興味のある先生には伝えられていますが、ほかの先生にどう伝えていけばよいか,いい方法はないだろうかと模索中です。冊子にまとめて各学校に配布しようと原稿をとりまとめていますが、その冊子を手に取ってくれるのは鑑賞に興味を持っている先生だけかなあと思うと……。指導主事の先生とも相談し、ネットを利用して伝える方法も考えているところです。

【中学校教諭】

  • 知的障害のある生徒たちを対象にした鑑賞授業をどのように展開していけばよいのかが今の課題だと思っています。言葉を介してのやり方では授業として成立しないと思い、何をもって「何かを感じた」と受け止めることができるのか……それがとても悩ましいです。
  • 最寄りの美術館まで片道80km以上の山間部に学校があり、実際に本物を見る体験がほとんどない地域です。美術資料や教科書などを中心に鑑賞することが多いので、作品の実際の大きさを感じることも難しいです。大きさを窓の大きさでたとえ、少しでも実際の大きさを意識させたいと取り組んでいますが、理解しづらいようです。印刷物では限度があります。しかし、中学校3年間でたくさんの作品を知り、今は無理としても将来本物にふれる機会が増えることを願って鑑賞の授業に取り組んでいます。
  • 鑑賞の評価が難しい。ワークシートの記述では、国語力で見ないように意識はしているがやはり内容に差が出る。対話や発表での光る発言を大切にしたい。
  • 僻地という環境の中で、どのように美術館等や他校と関わっていけばよいか。少人数(1人の授業もある)で、どのように見方・感じ方の多様性を感じさせるか。

【高等学校教諭】

  • 鑑賞学習における評価のあり方について考えています。生徒は意欲的に取り組むので成果はあると思います。どのような成果がどれくらいあるのかについては明確にできていないように思います。生徒にどのような能力や資質を身につけさせようとしているのか、それをどうやって評価するのか、自分自身あいまいなまま指導にあたってしまっていると反省しています。ルーブリックなどを活用し工夫されている先生もおられると思いますので、実践研究の報告や発表に興味があります。

【指導主事】

  • 効果的に教科横断的な実践をするポイントについて知りたい。
  • 県内には学校の近隣に美術館がない地域も多く、美術館との連携が難しい状況である。鑑賞教育指導者研修に出席できる人数も限られており、多くの先生が研修の機会を得られるような方策が必要と考える。時代の流れとしては映像を配信する等が必要になるのかもしれない。

【学芸員】

  • 研修に参加した教員が地域にいれば博学連携を進めやすいと感じる(おそらく逆もあると思う)ので、研修後にも繋がることができるネットワーク、年度を越えたネットワークがあると活用できると思う。教員は異動が多いと思うので、これまで研修に参加した学芸員がいる館を、研修毎にリストでかまわないので教員に伝えてもらうことで、乗り越えられるのかと思う。また、自分たちが行なっている鑑賞教育を評価してくれるアドバイザーのような機関・人がいれば利用したい。研修で学んだことを自館に合うよう事業に取り組んでいるが、本当にこれで良いのか、というもやもやは常にある。第三者からみればもっと活用できる素材、問いかけの方法をこうしたらより良くなるなどあると思う。研修の次のステップのフォロー、外から見てくれる眼があると鑑賞教育の質が向上するのではないかと考える。

Q23-24.
近年、鑑賞教育を取り巻く状況は
変化したと思いますか?

Q23-24

良くなった

【小学校教諭】

  • 自身にも言えるが、市内の先生のなかで、表現活動と鑑賞活動は一体であることへの意識が深まっている。美術館と連携しようという意識も近隣では高まっている。美術館を使った鑑賞授業の活動形態の工夫についても様々な実践をうかがう機会が増えてきている(大学生とのコラボ、学芸員とギャラリートーク、アートカードを使った鑑賞授業、市内図工専科同士の協力で行う授業など)。
  • まだまだな状況ではあるが、いまだ鑑賞=感想文といった古臭い授業が展開されているのも事実。

【中学校教諭】

  • 以前は制作した作品の鑑賞がメインの授業だったが、導入や作品を深めるために鑑賞の時間を取り入れる学校が増えてきたように感じる。
  • ネット上で作品が見られる美術館が増え、またICT機器が整備されてきたので、デジタルで鑑賞しやすい環境が整ってきた。
  • 美術館や博物館が普及活動に積極的になってきたこともあり、美術館や博物館が身近にある地域にとっては連携しやすくなってきたと思う。学校内での状況としては、時数確保や予算等に以前よりも融通がきかなくなっている部分が多い。
  • 美術館で実物を見ることは難しい環境であっても、スライドやアートカードなどの資料の提示ができるため。

【高等学校教諭】

  • 地域の美術館が積極的に教育現場に参画しようと努力してくれている。

【指導主事】

  • 中学校美術の指導要領が新しくなり、鑑賞に関する授業を組み込むことが必須になった。インターネットを通して必要な情報が手に入りやすくなった。近年、NHKのびじゅチューンなど鑑賞のハードルを下げる媒体が増えたこと。

【学芸員】

  • 対話型鑑賞のニーズが高まっていると感じる。また、総合科目などで、自己表現や多様性を認める経験にアートが用いられる可能性は十分にあると思う。
  • 大きな変化はないが、「探求型学習」とのかかわりの中で鑑賞が取り上げられることが増えたと思う。

変わらない

【小学校教諭】

  • 利用できるのは近隣の学校に限られるなど、地理的な条件が改善されない。
  • 私学ですので対費用効果を求められる環境のため、事務関係への説明が難しい。「良いこと」が前提の教育現場で、価値を再認識していただくための言葉や数字の探し方が分からない。

【指導主事】

  • 授業時数の減少

【学芸員】

  • 美術館が社会教育施設であるという認識が、一般的にはまだまだ浸透していない。観光や娯楽のための施設ととらえられている面が強く、どうにかして教育との結びつきを強くしたいと考えている。
  • 美術館における鑑賞教育について、質を評価する基準がない中で取り組んでいるので、担当者の資質に左右される部分が多いと感じています。そういう意味では、大きな変化は感じられません。

悪くなった

【指導主事】

  • 学校が多忙化している。図工、美術科の授業の時数は確保されていると思うが、美術館に足を運んで本物の美術作品を見てもらう機会が少ない。低学年の遠足や、4年生のフィールドワーク(地域の施設について調べる)と併せて、何かの活動と一緒にして美術館に来てもらうことが多い。

Q25.
美術館と学校が連携した鑑賞教育を行ったことのある方は、
その内容と成果について簡単にお教えください
(特に、①鑑賞作品の選定基準、②鑑賞と表現(制作)をつないだ授業、③他教科との連動、④鑑賞が子どもの日常生活に与えた影響のエピソードなどについて)
その他なんでも自由にお書きください

【小学校教諭】

  • 隣接する美術館に出かけ、①児童が気に入ったという感想が多かった作品を鑑賞。③土の色を特集した特別展と生活科の土の学習をつないだ。
  • 北九州市立の全校(小学校3年生)を対象とした美術鑑賞事業「ミュージアム・ツアー」で北九州市立美術館をはじめて訪れる教員も多く、児童だけでなく教員にも美術館に興味を持ってもらう機会となった。少人数の対話を軸とした鑑賞を行なうことで、他者と自己の見え方や感じ方の違いを発見し、違いを楽しむ発言が多く聞かれた。また対話型鑑賞方法に関しても授業の参考にしたいという意見が聞かれた。来年度は、先生方を対象に対話型鑑賞の研修を行なっていきたい。

【中学校教諭】

  • ダイレクトな美術館との連携授業ではありませんが、美術館と協同してアートカードを作成しました。①作品の親しみやすさ(豊かな色彩、身近な自然を描いていることなど)のほかに、郷土を代表する作家であること、思い立てばたやすく作品を見ることができるということが、アートカードに取り上げる作品の条件になりました。③「鑑賞文を書く」という単元がある国語科とは連動しやすいです(国語科の先生は,「どうやって鑑賞したらよいのだろう」と悩んでおられます)。
  • ①県内美術館にて、実物大レプリカを借りることができる作品。②一版多色刷り版画を行なった時には、広重美術館と連携し「浮世絵教室」を開いた。④連携授業を受け、数年経過してから「美術館へ足を運ぼうという思いをもてている」や「物事をじっくり観ようという意識が根付いた」「高校の社会の授業で屏風作品に出会った時、中学校美術で観た作品だ!と思え、とても身近に感じ、学ぶ意欲につながった」等の感想を生徒からもらった。
  • 特別支援学校高等部で連携した。①鑑賞作品の選定基準は、学芸員に生徒の実態を伝えたうえでご提案いただいた。③美術館への校外学習の事前学習として、当日対話型鑑賞のファシリテーターを担当する学芸員による事前授業を実施した。この授業は障害をもつ人の社会生活を豊かにすることをねらいとした合科学習・総合的な学習と連携して実施した。
  • 指導者研修のワークショップをヒントに鑑賞の授業を2つ行なった。ひとつは作品を見て思ったことを抽象表現にする授業、もうひとつは作品を自由に鑑賞して自分の個人的な思い出とつなげる鑑賞の授業で、どちらの授業も校区内にあるビュフェ美術館と連携した。前者では表現にするので具象だがインパクトの弱い無機質な人物画を選択、後者ではよりたくさんのひらめきと思い出がつながるように、あえて抽象的な風景画を選択した。またこの授業内容を美術館でパネル展示として掲示した。

【高等学校教諭】

  • 昨年度、京都国立近代美術館「没後50年 藤田嗣治展」を題材に高校2年生が鑑賞学習に取り組みました。学芸員に鑑賞のポイントを聞いてから、グループに分かれて作品鑑賞し、自分たちなりの解釈を最後に発表するという内容です。まとめとして、学芸員に藤田嗣治の生涯と作品の変遷についても解説していただきました。①②人物画制作(表現活動)の途中段階で鑑賞する計画だったので、モデルの心情や状況、作者がモデルを観察し描く中で何を表現しようとしたのか読み取りやすい作品を、事前に学芸員と相談して選定しました。③できていません。④それまでは「写実的でうまい絵」を目指す傾向があったが、鑑賞を経てモデルの本質に迫る表現が増え、主題の深まりが感じられるようになりました。美術館での体験で作品を味わう喜びや楽しさ、学芸員という仕事のおもしろさを知り、卒業後の進路選択、進路実現に好影響がありました。

【指導主事】

  • ④市の美術館の所蔵作品によるアートカードを使った授業を小学校1年生に実施したときのことです。個人面談の際に「息子に頼まれて、その週の休みの日に美術館に行きました」という話を聞きました。普段から自由帳に絵を描いているような子ではなく、休み時間にはいつもボールを追いかけているような子のエピソードでしたので、余計に心に残っています。
  • ①実施時期の展示の中で、作品について多少情報があるものを選ぶようにしています。②子供向けの造形遊びのワークショップを月1回行なっています。その活動の内容を特別展に関連させ、親子で鑑賞してから制作することを数回実施しました。鑑賞自体を楽しむもので、活動に大きな影響があったとは言えませんが、自由に制作するのにレールを敷いてしまうような気がするので、そのくらいでいいのかなと思っています。④普段教員から指導されることが多い6年生の男子児童のエピソードです。鑑賞授業で美術館に行く前の事前指導で「作品を観て、想像で題名をつける活動」を行ないました。実際の作品を観て、「すっごく考えたけど違った~」と、題名は違ったけれど興味をもって作品を観て、楽しそうに鑑賞することができたそうです。担任の先生は「そんな素直な言動ができるんだ」と普段の言動とは違う、子供の良い面を見ることができたと報告してくれました。
  • 美術館のアートツアーでは、ボランティアスタッフがグループに1人ずつ付き、アートカードゲームを行ない、その後見たい作品を選び、展示室でグループごとに対話型鑑賞を行なう。出張授業では、ボランティアスタッフがグループに1人ずつ付き、アートカードゲームを行ない、その後複製画ポスターを使ってグループごとに対話型鑑賞を行なう。①来館時の鑑賞作品は基本的に児童生徒が興味を持った作品で対話型鑑賞を行なう。②空想画を描く授業で、導入として本館所蔵作品を選び、出張授業を行なったことがある。③他教科との連携は行なったことがない。④アートツアーに参加した教員から一番多く聞くのが「普段の授業中しゃべらない児童生徒が、作品を前に自分の考えをしっかりとしゃべっていることにとても驚いている」というもの。また、アートツアーや出張授業で作品を鑑賞した児童生徒が、家族を連れてもう一度来館するということが多々ある。

【学芸員】

  • ①中学校の美術科の授業で連携。地域にゆかりの深い作家の作品。彫刻家桜井祐一の作品鑑賞をし、学校やまちなかの公共空間で常に目にしている作品と作家について再発見した。当館から小型のブロンズ作品を出前し、鑑賞。裸婦を含む女性像を中心に鑑賞したが、作者の生き方や制作姿勢を知ることで日常的に目にしている作品の見方が変わったという声が聞かれた。②国宝《上杉本洛中洛外図屏風》の模写の授業(中学校美術科)にレプリカを出前。屏風の構造や歴史的背景、日本画の伝統的技法と素材を紹介し模写につなげた。
  • 当室では平成30年度から今年度にかけて、武蔵野美術大学の「旅するムサビプロジェクト(以後:旅ムサ)」を市内の小中学校にコーディネートする事業を行なった。地方の学校では、外部機関が行なうプロジェクトと連携できるという認識がまだなく、本事業はその事例を紹介する意味合いも込めて実施した。実施後の児童・生徒の変化については、美術館側がつぶさに観察することはできないが、「旅ムサ」で大学生が学校に残した黒板アートを保護者や地域住民にも公開したところ、大変反響があり、学校が地域のギャラリーとなり、たくさんの方が訪れていると報告を受けた。公開期間中、美術に関心のなかった校長先生が地域住民へのギャラリートークを行なうなど、よきファシリテーターとして活躍したと聞いた。「旅ムサ」の実施で、担当の先生方も対話型鑑賞やアーティストへの関心が高くなったようで、児童・生徒よりも周りの大人たちに変化があったと感じている。
  • 地元出身のアーティストの作品を展示する機会に、展示室での鑑賞とアーティストによる美術の授業を行なった。それぞれ1日ずつしか活動時間を確保できず、また学校での授業は3クラスそれぞれに1コマ(45分)を行なうという通常の時間割を変更することができなかったため、表現活動にまで至ることができなかった。ただ、実践的な表現を行なう授業ではなく、自己を表現するにあたっての「自分のコンセプト」について考えてみるという授業を実施したため、感想文には美術に限らず物の考え方について気づきを得たという内容のものが散見された。

Q26.
その他研修全般に対するご意見、ご感想を
ご自由にお書きください

【小学校教諭】

  • 美術館での研修は非常に価値のあるものでした。東日本と西日本とで研修を交互に行なうようにしてくださったおかげで参加できました。充実したワークショッププログラムがあるため、遠いけれど、今もあの京都の美術館に時々出かけるようにしています。今後もぜひ研修の提供を継続してください。
  • その折は素晴らしい2日間でした。自分が考えていたことや疑問に対して活路を見いだせたり、新たに取り組んでみたいと思ったりする機会となりました。美術の授業時間数は削減の一途をたどっていましたが、その価値が少しずつ新しい時代を迎えるにあたり高まってきている機運を感じます。このような機会を与えていただき、ありがとうございました。

【中学校教諭】

  • 現在は教頭職(選択肢になくて「属性」は「教諭」にしています)ですが、教諭時代には他教科とのコラボレーションや鑑賞を道徳に組み込んでみるなどいろいろとチャレンジしてみました。その経験から思うことは、鑑賞教育は美術科だけのものではなく、さまざまな可能性を秘めているということでした。今は支援学校で展開できる鑑賞授業を模索しています。支援学校、支援学級での鑑賞授業の事例がありましたら、ぜひお教えください。よろしくお願いいたします。
  • この研修を受講したことで、私自身の鑑賞教育への抵抗が少し減りました。また、私自身が美術館へ足を運ぶようになり、自分のスキルが向上し授業に活用しています。生徒たちは、想像を膨らませて鑑賞することがとても楽しいと言っており、以前の歴史と解説だけ、テストの暗記のときより、鑑賞への抵抗が激減し制作は苦手だけど鑑賞は楽しいという生徒も出てきました。これもこのような機会を与えてくださった関係機関の方々のお陰です。感謝申し上げます。ありがとうございました。

【高等学校教諭】

  • 実際の作品に触れることが一番大きな収穫を得られるだろうと思うが、授業で連れていくことができないため、学芸員さんに学校にお越しいただき、企画展などの話をしてもらえると、スライドではあっても違った角度から鑑賞する目を養えるのかなと思う。日本画と油彩画の授業で、歴史や古典などと美術を連携させることで、自分なりの美術の考えを再構築できるようにする授業を取り入れたい。デザインや映像メディア表現などで、社会や生活と自分との関りについて考える授業ができると、キャリア教育につながる手ごたえがある。
  • 教員が何か働きかけずとも自分から情報収集して美術館や展覧会に足繁く通う生徒もいますが、多くの生徒は授業で引率しなければ美術作品に触れる機会がありません。家庭、保護者の芸術文化への理解や教養が大きく影響しているようにも思います。美術館と高校生を結びつけるきっかけとして、アーティストとの出会いも重要だと感じます。作品を鑑賞するだけでなく作者の言葉を聞く、対話する体験(アーティストトーク、講演会、オープンスタジオ、協働ワークショップなど)を企画してみたいです。
  • 研修に参加できたことに感謝しております。今年度も実施されましたが、中学校教員の知人によると、中学校教員の参加希望者は複数いたとのことでした。全国規模での研修なので人数限定は運営上当然と考えますが、東京、京都、大阪開催とは別に、各都道府県の美術館において、この研修会の中心になっている方々に出向いていただく相撲の地方巡業的なものが企画されれば、一気に裾野は広がり、美術館を利用した鑑賞教育がさらに充実したものになっていくのではないかと思います。ご多忙のところ無理なお願いとは存じますが、47都道府県での実施でなくとも、時期をずらして各地方で1カ所ずつ、など無理でしょうか? とてもよい研修だと感じているので、是非、より多くの参加が可能になる方策をご検討くださいますようお願い申し上げます。

【指導主事】

  • アートカードを毎年1回は経験して6年生になり、美術館での鑑賞を行ないました。「何がみえる? なんでもいいよ」というと、「匂いが~」「悲しい感じが~」「音が~」といったように、絵の中に見えるものから、絵の中には見えないものを感じ取っている様子が見られました。これが感じ取る力=感性が伸びていく姿なのかなと感動しました。その学校の表現された作品は、どの学年も子供の思いが感じられるものが多いので、鑑賞の力の成長が表現にもつながっているように感じます。シンポジウムが楽しみです。ぜひ、参加させていただきたいです。

【学芸員】

  • 地方からもっとたくさんの教員の方に参加してもらいたい。研修があることさえ知らないところが多かった。美術館も大規模館だけでなく、地域の文化芸術の拠点となりうる小さな館の職員が研修を受けることで、近隣の学校に研修の成果を活かした働きかけができるのではないかと思う。今回は有意義な研修を実施していただき、ありがとうございました。

※アンケート結果を表した円グラフでは、小数点以下を四捨五入したため、合計が100%にならない場合があります。

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