以下は河野氏・武内氏の発表を大幅に要約・再構成したものです(編集部)
東村山市立南台小学校の河野先生は東京都写真美術館のスクールプログラムと出会って以来、写真を授業の題材に取り入れてきました。河野先生には写真美術館との連携や、写真を題材とした授業の実例を、東京都写真美術館の武内さんにはスクールプログラム、特に鑑賞活動で使われている「色と形と言葉のゲーム」を中心にお話しいただきます。(司会者・吉澤菜摘|国立新美術館)
図工の表現と美術館の鑑賞を重層的に織り込んだ、写真をテーマにした5年生の授業を紹介します。
この授業では、最初に表現活動として青写真を制作します。以前は画用紙を使っていましたが、昨年度はトレーシングペーパーに感光液を塗って印画紙を作りました。乾いた印画紙に、影の形のおもしろいものや透光性のあるものを思い思いに並べ、日光で焼き付けてから、水洗いしてオキシドールの水溶液に浸します。印画紙が一気に青くなっていく、その変化の瞬間を見た子供たちからは驚きのため息が漏れていました。
次の授業では、カメラの仕組み、不思議、魅力を知ってもらうため、ピンホールカメラを作ります。出来上がったカメラを覗いた子供たちは、逆転して見えることの不思議さに引き込まれていました。
こうした体験を行なったあと、いよいよ東京都写真美術館のみなさんと授業を行ないます。まず写真が生まれるまでの話や仕組みについて話してもらい、次に、鑑賞のウォーミングアップとして、少人数に分かれて「色と形と言葉のゲーム」を行なった後、2部屋に分かれ、作品の対話鑑賞をします。子供たちには、まず1分間作品を黙って見てもらってから、気づいたことを発表してもらいます。「色と形と言葉のゲーム」のおかげで、自由に自分の意見を発表し、人の意見にも耳を傾けていました。
美術館での鑑賞授業を経て、子供たちは学校行事として、自分たちが作った作品を校内に展示します。展示によっていつもとは変わった学校空間で、子供たちはもうひとつの鑑賞体験を楽しんでいました コロナ禍で人と触れ合う経験や実感を伴う体験が減少し、子供たちはさみしさや不安を抱え、物足りなさを感じているのではないでしょうか。それだけに、人と人とが結び合い、体験を深め合う交流授業に、私は大きな可能性を感じます。 対話鑑賞を写真美術館にお願いしたのは、私と子供たちは、多少言葉を端折っても通じ合ってしまう部分があるため、初めて出会った人に伝えるほうが意味があると感じたからです。この交流授業では、現在の指導要領の中にもある「主体的で効果的で深い学びの場」が生まれていたのではないかと思います。
写真と映像の総合美術館、東京都写真美術館では小・中・高校のスクールプログラムを用意しています。当館のプログラムの特徴は、鑑賞と制作の両方が体験できることです。河野先生とは何度も連携させてもらっているため、青写真については作り方を覚えられて、当館の協力がなくても学校でやってくださっていますが、スクールプログラムの中には、暗室体験や青写真のプログラムもあります。
河野先生のお話にあった作品鑑賞プログラムは、(通常は展示室で実施しますが、コロナ禍の場合は)プロジェクターで壁に写した作品をみんなで見るという対話型の鑑賞で、その前に、ウォーミングアップとして行なっているのが、当館オリジナルの「色と形と言葉のゲーム」です。
このゲームは、以前私が指導者研修に参加した時にグループワークで行なったもので、その時は手作りでしたが、その後商品化されました。他の美術館でもアートカードを作っていますが、他館のアートカードと決定的に異なるのは、作品図版などは全く使っておらず、このゲームだけでは作品鑑賞を深めることはできないことです。
カラフルで不思議な形をしたカードと言葉が書かれたカードを組み合わせるというもので、このゲームをすることで、子供たちは正解がひとつではないことを自然に理解します。
たとえば、「おいしい」という言葉にぴったりなカードを選んでもらうと、「甘くてやさしい感じがするから」とピンクの曲線的なカードを選ぶ子もいれば「パイナップルみたいに見えたから」と緑の鋭角的なカードを選ぶ子もいます。
このゲームの目的は、人によって異なるイメージを持っていることを知ること、そして自分の考えやイメージを自分の言葉で伝える力を養うことです。ゲームを行ない、対話をすることで、その後の作品鑑賞での対話がスムースになるのです。
南台小学校との連携においては、連携の効果を高めているポイントがいくつかあると感じています。まず、綿密な打ち合わせをすることです。河野先生とは毎年連携をしていますが、その年の子供たちの様子やどの作品を鑑賞するかなど、毎回しっかり打ち合わせをします。そして、どんな表現でも受け入れる雰囲気作りをされていること。そして、1回性のイベントとしてではなく、年間の指導の流れの中に位置付けていること。さらに、校内での作品展示会という、授業内容を振り返る機会を設けていることです。 これらのポイントにより、美術館との連携がより効果的になっているのではないかと感じています。
──「色と形と言葉のゲーム」を行なってから鑑賞をしているということですが、学校現場でもそれは有効でしょうか? またゲームの入手方法を教えてください。
河野:お互いにそれぞれの考えがあって、それでいいのだと思うことは、たとえば国語などで、自分の考えを言葉にするというところにつながるのではないかと思います。
武内:「色と形と言葉のゲーム」は写真美術館のミュージアムショップで扱っていますし、通信販売も行なっています。