ファシリテーター
東良 雅人(京都市総合教育センター 副所長)
「共通テーマ」については、2つ目の活動である学校と美術館とを往還するような美術館を活用した鑑賞の活動の展開を考える上ですべてのテーマに関わるであろうと考えました。
美術館での鑑賞だけで学習のねらいが実現することは難しく、例えば、学校での事前学習を経て、美術館での特質を生かした鑑賞の活動を行ない、事後、その経験を生かして鑑賞を深めるなどという一連のプロセスを考えることが大切です。その過程の中で、「共通テーマ」が鑑賞の活動を通して育成する「目的」を実現する「手段」として機能することが重要であり、ひとつ目の活動で行なった「教育においての学びの視点の明確化」によって「目的」と「手段」の関係性に気づくことにつながってくれればと思います。
完全リモートという環境下においてどのような指導者研修会が行なえるのかが一番の懸案事項でした。「これぐらいしかできない」ではなく、「やりたいことをどう実現するか」が京都国立近代美術館チームの基本でした。「ピンチをチャンスに」はよく聞く言葉かもしれませんが、青木チーム、東良チーム合同による展示室鑑賞中継は、そのようなチャレンジ精神から生まれたものです。また、個別のグループワークでは「表層的なものから本質的なものへ」「何をさせるかではなく、何を身につけるのか」をテーマに鑑賞教育の本質を考えられればと考え、実施しました。今回の指導者研修会は、リモートや時間の制約等で不十分なところも多々あったかと思いますが、参加者の皆さんの協力のもと新たな挑戦によって多くのことが得られた時間にもなったのではないかと思います。最後になりましたが今回の指導者研修会に参加されたすべての方々に感謝申し上げます。
ファシリテーター
青木 加苗(和歌山県立近代美術館 学芸員)
オンラインのメリット・デメリットを切り口に議論を始めた当グループでは、「③ICTを活用した鑑賞教育」が共通テーマとの直接の接点でした。まず午前中のオンライン対話鑑賞を振り返ると、「意外にできる」という実感があった反面、どうしても図柄を追うことに終始していたことは否めませんでした。よって後半は、実作品に触れる体験の必要性をどのようにして子供たちや学校側に伝えていくかが話題の中心となりました。また鑑賞活動を作品制作の「ヒント」にとどめるのではなく、自律した鑑賞体験を生み出す必要性についても議論しました。結論として得たのは、「本物と出会いたいと思うためにこそ、本物と出会う経験が必要」というトートロジーでしたが、あわせて鑑賞教育に必要なのは、何より教師・学芸員が心から鑑賞を楽しむことだという視点にも、多くの同意が集まりました。これは共通テーマの「①主体的・対話的な深い学びと鑑賞教育」にも繋がっていたように思います。
美術館で行なうことがこの研修の要であると考えた京近美チームは、バーチャルではありますが、一緒に展示を見て回る楽しさを諦めませんでした。それは「美術館に行きたい」気持ちを、初めに共有したからです。グループワークでは、限られた時間のなかで多くの意見を出し合うことを目指して、作業課題を設けずディスカッションのみの活動としました。参加者同士の対話のなかから「子供たちの『なぜ美術は必要?』という問いにどう答えるか」という本質的な事柄にたどり着けたことは、その成果であったと思います。当日私から伝えた一回答案を、この場を借りて記します。教科とは、私たちを取り巻くこの世界をさまざまに覗くための「レンズ」です。教科を通して、子供たちはさまざまな種類のレンズの存在を知り、最終的に自分に合うひとつを見つけることができれば良いでしょう。私たちは美術というレンズの豊かさを知っている者として、ぜひここから見える世界のすばらしさを伝えていこうではありませんか。