アンケート集計
国立美術館主催の「美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修」は、2006年から開始され、本年で10周年を迎えました。そこで、この節目に過去の受講者を対象にアンケートを実施し、この研修に対する忌憚のない意見や、希望、現在のご自身を取り巻く美術館鑑賞教育の状況等をお聞きし、今後の研修に活かしていきたいと考えました。
結果として、2015年6月16日~7月15日の期間に実施したアンケートには239名の受講者から回答が得られ、シンポジウム当日には、参加者の皆様にアンケート結果として報告いたしました。過去10年間に研修を受けた受講者の声として、参考にご一読ください。※自由記述は、個人名等を中心に一部修正しています。また、個人情報等に関わる設問については、掲載しておりません。
Q19.
美術館/学校と連携した鑑賞教育を行ったことのある方は、その内容について簡単にお教えください
小学校教諭
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- 宮城県美術館の環境を活かした鑑賞活動:「美術館探検」として学芸員の方に案内してもらいながら、いろいろな視点で周りの環境を見つめ直す。 (中略)いろいろな視点から見ることができるようになり、普段あまり気にとめないようなものにも美しさやおもしろさを発見する児童が出てきた。(宮城県)
- 群馬県立近代美術館から、「移動美術館」として絵を中学校に5点ほど持ってきていただき、その絵についての講演をしてもらいました。身近で本物の作品を見られたことと、詳しくその作品についての説明を聞くことができたことが生徒にとって大変貴重な経験だったと思われます。(群馬県)
- 東京都図画工作研究会での研究において、東京国立近代美術館と連携。鑑賞学習と表現活動の一体化を図り、鑑賞学習を経て表現活動を行い、製作したものを持参して鑑賞学習と、2回美術館を訪れた。(東京都)
- 兵庫県立美術館の出前授業を、4年生と参加希望の保護者で受講し、鑑賞と表現をつないだ授業を行った。作品は学芸員さんにお任せで、フロッタージュの技法を学び、コラージュして作品にした。その後、保護者といっしょに美術館に行った児童がいた。校内研究で行った国語の聞き合いの手法が、鑑賞の伝え合いに生かされ、感じたことを積極的に言葉で伝えたりよく見て考えたりすることができ、子どものすばらしさを感じた。(兵庫県)
- 猪熊弦一郎現代美術館との連携で鑑賞教育を行っている。5年生では、鑑賞して学んだこと感じたことを、パンフレットを作って、家族に伝えようという学習を展開している。パンフレット作りはとても楽しく意欲的に取り組んでいる。(香川県)
- 参加を希望した小学4年生を公共交通機関に乗せて、鹿児島市立美術館で自作の鑑賞教育プログラムを行った。図画工作科の教科書は、児童作品が溢れている一方で、芸術家による優れた美術作品は少ししか掲載されておらず、しかも、レイアウトの都合上、どれも数センチ×数センチのサイズである。だから、美術館での鑑賞教育プログラムに参加した児童は、終始、「本物」の「大きさ」に素直な驚きと喜びを示していた。そのことが一番印象的だった。(鹿児島県)
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中学校教諭
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- 5~6年程、北海道立旭川美術館(学芸員)と旭川市内の美術部(美術教員)と北海道教育大学旭川校の造形ゼミの学生(大学教員)の3者で連携し、鑑賞プログラムを作成している。例年、400人ほどの美術部生徒が参加しており、3年間参加している生徒の発言やワークシートの内容を見ると、作品の見方や関わり方などの学びの成長が感じられます。(北海道)
- 昨年2月、本校で行われた学校を美術館にするプロジェクト「中ハシ克シゲ展in 小湊中学校」は、県立美術館の出前講座と本校美術科の授業との連携から始まりました。青森県立美術館の教育普及チームによる協力で、作品の輸送並びに作家の招聘、授業でのサポート等が行なわれました。そして、授業を通して、展覧会の企画立案、作家との交渉、広報活動、展示、鑑賞という一連の流れが生徒達の手で作り上げられ、まさに、作家と生徒、地域がつながっていくプロジェクト型の学習であり、生徒の手づくりの展覧会が実現しました。(青森県)
- 震災後、鑑賞する機会が変化した。日本画家が直接自分の作品の話と実技指導を行っていただく機会があり、その後毎年、日本画家から学んだ内容を生かした授業を続けている。(中略)(福島県)
- 美術の時間の中で、美術館との連携授業を計画するのはなかなか難しい現状です。しかし、千葉の柏という立地条件から、1年生の校外学習では「上野の散策」を丸1日で行っています。国立西洋美術館や国立博物館を見学地の1つとしているが、なかなか有効な鑑賞活動とできていないのが現実です。(千葉県)
- 遠足に美術館へ行って鑑賞できるようにスケジュールを組んでいる。事前学習をしていくので本物を見る機会があり生徒たちも楽しみにしている。富山県立近代美術館や金沢21世紀美術館など。そのあとモダンテクニックや色のイメージで春とか優しさとかの抽象的な表現の作品に取り組む。小松市の宮本三郎美術館の出前講座を利用し、思いを表現することを学び、人物画に取り組んだ。(石川県)
- 美術館と連携した授業は、時間、交通手段、予算等で難しい。しかし積極的に美術館が学生を対象とした鑑賞事業を立ち上げてくれているため、美術部の活動として定期的に美術館まで出向き、鑑賞活動を行っている。また、学芸員とタイアップした取り組みも行っている。 その他には、全校生徒を対象として夏休みに美術館レポート等の課題を課し、必ず美術館へ足を運ぶような取り組みを行っている。(静岡県)
- 愛知県美術館が全県の小中学校に配布した「あいパック」を利用して授業をしました。研修で紹介いただいたので国立美術館のアートカードも購入して、それも使って授業をしました。カードになっている作品は、多くの方の目で選ばれた作品なので、安心して授業で使用できます。(略)(愛知県)
- 中学2年生での次のような実践を行いました。まずは、愛媛県美術館で展覧会(ピカソと20世紀美術の巨匠たち)を学年全員(40人×4クラス)で鑑賞しました。1クラスを5グループに分け、美術館のボランティアスタッフがトーカーとなりギャラリートークを行いました。美術館での鑑賞の後、生徒一人一人に展覧会の作品の中からお気に入りを選ばせ、その作品について小集団で発表し合う授業を実践しました。キュビスム、アンフォルメル、モダンアート、ポップアートなどの多様な作品について直観的な印象や感じたことなどを思い思いに述べ合うことができました。それまで生徒たちは美術館での展覧会鑑賞=高尚なものとして堅苦しさを感じていたようでしたが、もっと感じるままに自由でいいんだというように意識を変えることができたと思います。(愛媛県)
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学芸員
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- 中学2年生の職場体験受け入れを過去2年(2名×2回)行っている。4日間の日程で、美術館の業務を体験してもらうものだが、その中に作品撮影とキャプション作成を入れている。作品撮影は掛け軸撮影(直角・平行)の難しさ、キャプションはお客様に作品を紹介するような文章に手書きで仕上げてもらっている。文字通り、作品と向き合う作業である。これらは同意を得て、次回の展覧会で実際にキャプションとして使用する。写真は記念に、キャプションはコピーして学校提出用にさし上げている。中学生の瑞々しい新鮮な感想が、こちらの刺激にもなっている。(宮城県)
- 県内の小学校より、全国大会のプレ授業を行って欲しいとの要請があり、これまでに数度行っている。指導者研修を受けたことにより、学校の先生方の意識を以前より理解することが出来るようになり、当方も積極的に協力する意識をもつようになっている。(栃木県)
- 当館には県内他館と合同で製作したアートカードがあり、教室でのアートカードを活用した授業→美術館でのホンモノ鑑賞、という二段階鑑賞ができることが理想である。ただし、学校側が2コマ用意せねばならないこと、美術館に来館できるとは限らないこと(距離的に)、アートカード作品が必ずしも展示されている訳ではないこと、などの理由で、なかなか実現することは難しい。(後略)(埼玉県)
- 当館では八王子市教育委員会と連携し、市内の公立小・中学校と団体鑑賞を推進している。交通手段は、当館が契約した民間バス会社のバスを利用し、無料送迎を行っている。(東京都)
- 所蔵作品、作家について学芸員が解説した後、児童それぞれに好きな作品を選んで模写をしてもらい、その後、数人に感想を発表してもらっています。(愛知県)
- 当館のある安曇野市内には、小規模な美術館・博物館が複数あり、いずれの施設も少ない予算と職員で運営をしている。単館では学校との連携事業は困難であるが、公私立等の垣根を越えて連携し、協力して小中学校への出前展覧会を行っている。(後略)(長野県)
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指導主事
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- 横須賀市では、全市立小学校6年生を図工の授業の一環として、市教委がバスを配車し、横須賀美術館での鑑賞会を行っています。また横須賀市では、小中学校の先生方と横須賀美術館の学芸員と指導主事とで委員会を立ち上げ、学校と美術館との連携事業に力を入れて取り組んでいます。2年前から文化庁の助成をうけ、鑑賞教材の開発(アートカードやその指導案集、WEBサイトなど)を進め、現在市内の全小中学校に完成したアートカード等の教材を配布し、更に教職員の研修などを行い鑑賞の授業が深まるよう効果的な活用を促しています。(後略)(神奈川県)
- 堺市で毎年行われている中学校美術部の全国大会「アートクラブグランプリin SAKAI(全国中学校美術部作品展)」を活用したギャラリーツアーや、対話による鑑賞を、市内の幼小中学生を対象に行っている。幼児・小学生・中学生が鑑賞に来るが、発達段階によって鑑賞の方法や、とらえ方、感じ方の違いを感じる。特に幼児は、生まれて4・5年の経験と照らし合わせて作品とかかわろうとする。園に帰ってから「自分たちのアートクラブグランプリin SAKAIをしたい」と言っていた幼児の様子や、作品カタログを開いて語り合う幼児の姿を園長から聞き、本物の作品を近くで感じた心の動きが与える影響の強さを感じている。(大阪府)
- 生徒対象の取組ではありませんが、初任者研修の一環で他教科の教師6名を引率して、県立美術館を訪れました。美術館側の受け入れ体制が良く、学芸員によるギャラリートークを1時間30分行うことができました。地元の美術館に初めて来たという教師もおりましたが、全員が新鮮な雰囲気の中で、「美術」の新しい世界に足を踏み入れました。翌日、皆がその体験を、その先生なりの視点で学級の子どもたちや同僚の教師たちに語ったようです。学校全体に鑑賞を広げるという視点を持つことは美術教育の大切な、日常的な基盤づくりになるかもしれません。(沖縄県)
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その他
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- 富山県立近代美術館の収蔵作品の映像データをお借りして(データは美術館が選定)、印刷、校内で鑑賞。「自分の好きな作品」を選んだ。その際、いくつかの作品を選ぶことで自分の好きな傾向を感じることができたようであった。その後、実際に美術館に鑑賞へ行った。子どもたちは、自分の好きになった作品を目の前にして、映像では伝わらない本物のすごさを感じていた。その後も、自分の好きな作品を見に、家族とともに鑑賞に行った子どもたちもおり、美術館への親しみを増すことができた。(富山県)
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- 富山県立近代美術館の収蔵作品の映像データをお借りして(データは美術館が選定)、印刷、校内で鑑賞。「自分の好きな作品」を選んだ。その際、いくつかの作品を選ぶことで自分の好きな傾向を感じることができたようであった。その後、実際に美術館に鑑賞へ行った。子どもたちは、自分の好きになった作品を目の前にして、映像では伝わらない本物のすごさを感じていた。その後も、自分の好きな作品を見に、家族とともに鑑賞に行った子どもたちもおり、美術館への親しみを増すことができた。(富山県)
Q19.美術館/学校と連携した鑑賞教育のうち特に・・・
①鑑賞作品の選定基準について
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- 子どもたちが欲しているもの。参考作品として紹介した作品の中で興味を示した作品・や作家。地域の美術館などの常設展や企画展で刺激になるであろうもの。(小学校教諭・静岡県)
- 主に地域に縁のある、複数の作家から作品を選定した。(小学校教諭・兵庫県)
- 子どもたちが、物語を思い浮かべやすい作品。音の聞こえてくるような作品。(小学校教諭・徳島県)
- 大きく複数で見やすい作品を選んでいます。(中学校教諭・宮城県)
- 油彩画、銅版画、木版画等、表現方法の異なる作品を選んだ(中学校教諭・群馬県)
- 年間指導計画に沿った作品選定。2年後期なら修学旅行に関連付けて日本美術を選定するなど。(中学校教諭・静岡県)
- (1)展示してある作品(2)小学生から高校生まで年齢層にあわせて。(3)学校側の要望(教育目標などにあわせて)。(学芸員・福島県)
- 基本的には、事前に担当教諭と相談しながら学年に応じた作品の選定にあたっている。しかしながら、学校によっては当方に丸投げの場合もある。その場合には、当方から積極的に提案するように心掛けている。(学芸員・東京都)
- 選定基準は、複数人数で一緒に鑑賞できる大型の作品、生徒が発話しやすい具象、もしくは具象と抽象の両方の要素を含む作品、展示室で危険の少ない箇所に展示してある作品を選択しています。(学芸員・東京都)
- 多様な受容ができる作品(学芸員・静岡県)
- 細部が充実した作品(じっくり観察するのに向いている、発見する喜びが強く対話による鑑賞で使い易い)。画材など材料に特徴のある作品(日本画、油絵具に砂をまぜているなど) 美術館会議室での美術作家を招いての制作ワークショップ(鉛筆デッサン、日本画)、期間は1日~6日間ほど。学校での鑑賞授業(ファッションと美術、画家の自画像、風景画など)。(学芸員・静岡県)
- 館の目玉となる作品、想像力を働かせる余地のある作品、地元にゆかりの深い作品。(学芸員・京都府)
- 当館のスクールツアーでは鑑賞はグループ毎にボランティアが実施しています。作品はボランティアが選択します。但し、学校側から要望があった場合は、先生と一緒に作品を決定し、鑑賞をすることもあります。(学芸員・福岡県)
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②鑑賞と表現(制作)をつないだ授業について
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- 東京都現代美術館のアーティスト訪問をきっかけに泉太郎さんを招いて、作品を鑑賞した後、ビデオカメラを活用した表現活動を行った。(後略)(小学校教諭・東京都)
- 美術館で行う模造のケーキを作る造形作家との制作体験活動に参加し、実際に学校の美術部生徒20名がそれぞれに自分がデザインする模造ケーキを完成させた。その作品は学校祭の美術展に展示した。(中学校教諭・秋田県)
- マックス・エルンストの作品を鑑賞し、フロツタージュやデカルコマニーをして表現につなげました。(中学校教諭・愛知県)
- 鑑賞授業後、自画像を描いた。自分の思いをじっくりとよく考え、作品に表わすことができた。(中学校教諭・大分県)
- 「○○なあおもり犬をつくろう」:学校団体来館の際に、鑑賞と創作を組み合わせたプログラムとして行っている。 まず大型の彫刻作品「あおもり犬」を班ごとに鑑賞し、ギャラリートークを行う。その後、紙ねんどを使って、生徒1人ひとりが「羽のあるあおもり犬」や「王様みたいなあおもり犬」などオリジナルのあおもり犬を制作する。最後に、完成した作品をお互いに見せ合う鑑賞タイムを設ける(学芸員・青森県)
- シャガール≪シレーヌと魚≫の舞台となったニースの写真をスライドで出しながら、「人魚と魚」というテーマで絵を描いてもらう。描いた後に、シャガールの作品を提示して鑑賞し、自分の作品と見比べる。
- 自画像制作の授業の前に「画家の自画像」を50枚くらい、テーマごとに鑑賞(抽象画のような自画像、コスプレ自画像、影の自画像、鏡面に映った自画像など)。色々な描き方があることを伝える。(学芸員・静岡県)
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③鑑賞が子どもの日常生活に与えた影響のエピソードなどについて
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- ボーダレスアートNO-MAという美術館が市内にあり、企画展のたびにチラシを届けて下さるので、家から美術館に出かける子どもが何人かいた。澤田真一さんの作品を見た子どもが感激し、普段作文を書くのを嫌がるのに、5枚分もお礼のお手紙を書いた。その中に「ぼくの将来の夢が一つ増えました。芸術家です。澤田さんみたいなすごい作品を作れるようになりたいです」という文章があった。本物の持つ力ってすごいなと思った。(小学校教諭・滋賀県)
- 敷居の高かった美術館に、保護者に働きかけて自ら足を運ぶ子どもが増えた。(小学校教諭・兵庫県)
- 特別支援学級の生徒は自分自身で制作することに満足するだけでなく、鑑賞の時間も楽しみにしています。北斎などの教科書に載っているような作品は日常生活で目にすることも多く、親しみをもって楽しく鑑賞することができました。さらに保護者の方に、鑑賞したことや、作家名、作品名を説明することができました。保護者の方は、名画を知って話すわが子の様子を見て、「教養を身につけることができてよかった」と喜んでいただくことができました。美術館のアートカードはゲーム感覚で美術作品と日常生活を結ぶことに役立つツールだと思います。(中学校教諭・愛知県)
- 鑑賞授業の影響かどうかはわからないが、校内の展示作品の前で足を止めたり、作品について友だちと話す姿が見られるようになった。(中学校教諭・香川県)
- 団体鑑賞で当館を活用していただいた小学校5年生・女子が、一週間後の日曜日、ご両親と再び来館してくれました。ご両親から次の話しがありました。「1週間前に学校から団体鑑賞で美術館に来ました。その日、学校から帰って来た娘が『お父さん、お母さん、今度の日曜日に東京富士美術館に連れて行って、おもしろい絵があったよ。私が説明してあげるね。』というのです。この子はこれまで、こんな事を言う子ではなかったので、本当に驚きました。それで、私たちも嬉しくなって、時間をつくってきました。子どもも上手に絵の説明をしてくれました。このような切っ掛けを作っていただいた学校と美術館に感謝しております。(学芸員・東京都)
- 普段の授業では発言しない子が、対話型鑑賞で作品について語る姿が見られるとの話は、実践校の先生方から、時々出ている。(学芸員・石川県)
- 印象派などの西洋絵画にしか興味のなかった生徒が、日本美術のよさを実感し、本物を見るために美術館に来館した。(学芸員・静岡県)
- 子どもたちが再度来館して親に説明をしていた。(学芸員・京都府)
- ある小学校一年生の子どもたちが、抽象表現の作家の企画展会場で鑑賞授業を行った。担任がファシリテーターとなり、2時間、展覧会会場で見えたものについてお話を作ったり、友だちと話し合ったりした子どもたちは抽象的な表現について何の抵抗感も持たず、抽象的な表現を楽しむようになったとのこと。担任が替わり、二年生となった初めての教室で、担任が「イスや机に貼る名札シールの周囲に、好きな絵を描いていいよ。」と言うと、子どもたちの中には、具体的な物を描かず色を重ねたり、模様のようなものを描く姿が見られた。キャラクターや好きな物を描くと思っていた担任が不思議に思って尋ねると、一年生の時に鑑賞した企画展の作家の名まえを誇らしそうに応えたとのことだった。この年その作家を学校に招き、この学年に対して図工の授業を行った。(学芸員・鳥取県)
- 日常生活ではないが、アートカードゲームのプレゼントゲーム(家族に一枚プレゼントする)を行った際、高学年女子児童が「鰹」の作品を選んだ。当初、グループ内で理由をなかなか発言しなかったが、最後に照れながらも「漁に行っているお父さんに」と一言。子どもにとって実経験と当館での鑑賞が完全に一致した瞬間であった。子どもの頃、鑑賞した当館所蔵の彫刻作品に心揺さぶられ、忘れられず、どうしても同じ場所で働きたいと願った者が現在、大人となり、念願かなってスタッフとして業務にあたっている。(学芸員・宮崎県)
- 東日本大震災後、子どもの日常生活の出来事が鑑賞時に吐露されることが度々あり、考えさせられた。八戸市内の小学校で出前講座を行った際、津波を目撃していた子どもたちの心の重さが、ギャラリートークが進むにつれて吐露され、精神的ケアにおける絵画鑑賞という観点もありえると思った。(その他・青森県)
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