グループワーク C
「みるみるうちに絵と話す」体験
- 受講者:
- 9名(小学校教諭5名、学芸員2名、指導主事2名)
- 課題作品:
- ダフィット・テニールス(子)
[アントウェルペン1610年-ブリュッセル1690年]
《聖アントニウスの誘惑》
油彩・カンヴァス 80 x 110 cm
国立西洋美術館蔵
>> 作品解説はこちら - ファシリテーター:
- 南 育子(墨田区立業平小学校 教諭)
- サブファシリテーター:
- 今井 陽子(東京国立近代美術館工芸課 主任研究員)
活動内容
1 色・イロ・自己紹介 (30分)
西洋美術館の変化する表情、光、空間を気にとめながら作品の近くに移動し、自己紹介をする。48色のカードから選んだ色に各自の研修に対する思いや素直な今の気持ち、この場に来るまでの出来事などを織り込んだ自己紹介が和やかな雰囲気を作った。
2 みるみるうちに絵と話す(60分)
自分の目でじっくり作品をみて気づいたこと、見つけたことをワークシートに書とめる。その後、全員で鑑賞。お互いの見方を交換しながら気づいたことを共有し、さらに見ることを深めていく。中心となる人物や妖怪に注目し、同じポーズをとったり、表情をまねてみたり、視線を追ってみたりすることで、さらに作品に近づいていった。描かれている出来事や背景、物の置き方などが関連づけられ物語の意味づけなどに展開していった。
3 絵から見えてきたことを整理する (20分)
もう一度個々人に戻り、ワークシートに作品にある事実と想像や推理したことを付箋紙を使って整理する。この絵の物語性や対比的な出来事の分析がはじまった。
4 ミニ・グループワーク(作品分析・作品のポイントを授業に組み込んだ実践案づくり) (80分)
約80分かけて対面した作品をグループ毎に絵の中にある事実とそこから想像したことや推理したことを整理する。描かれている物、色、構成されていることなどをもとに、この絵のポイントを3つにしぼる。子供と一緒に作品をみるとき、このポイントを組み込みながらどのような授業ができるか、具体的な発問を含め内容を組み立てる。授業の終末をどのようにするのかということを、もう一つのポイントとして提示した(途中で中間発表の場を設け、新たな視点を交流させお互いの話し合いが活性化する)。
5 発表と交流(中学年グループと高学年グループ) (30分)
ミニ・グループで実践案を構築する過程で話し合われたことや、子どもの鑑賞で大切にしたいことや課題を発表し合う。
最後に作品をみんなでもう一度みつめ、タイトルをつける。
午前と午後の間の時間に西洋美術館の展示の特徴でもある同じ時代に描かれた作品や主題に着目し、足を止めトークを始める姿があった。
発表
「私たちの珠玉の一枚を紹介します。」という発表を楽しむような一言からはじまる。
午前中はこの絵の前で作品を鑑賞。よく見ているうちにいろいろなものが見えてくる。みるみるうちに不思議なものに目がうばわれる。中央の人物たちに。そして、対照的な表現(色、光、形など)に気づく。双眼鏡を使ってさらによくみていくと、表情や視線の方向、動きなども判断でき絵の中にある事実を根拠にいろいろな想像や推理が広がっていった。はじめは個で見て、全体で見る、そしてまた個で見る、を繰り返していった。午後は今受け持っている学年を中心に学芸員さんを交え、高学年グループと中学年グループにわかれ作品の見方を整理分析し実践例の構築に挑戦した。
(高学年グループ)
描かれている事実をつかみながら物語をつくる。描かれている事実や形だけではなく音に着目し、擬音や会話などを想像する。私たちは話していくうちに主題に近づいていった。これは大人の目であるが、子どもたちも描かれている物、表情や動きなどを見ていくうちにそれらの関係に着目していくだろう。子どもたちの想像力に刺激を与える作品である。終末はオープンエンドでいろいろな見方を共有したい。
(中学年グループ)
まずは描かれていることから離れないようにみんなで見る。見えている事実をみんなで共有しながら中心の人物に絞り込む。「何をしているんだろう?」「なんでおびえているのだろう?」などいろいろな疑問をグループ毎に話し合う。出てきた物語を発表する。一つにまとめることはせずにオープンエンド。
グループ発表のあとにそれぞれ題名をつけてみた。そして隠されていた題名がオープン。ここでグループワークは終了。いろいろな人と、いろいろな見方を交流することで、見方が深まっていった。
ファシリテーター感想
西洋美術館の空間は、光や天井、むき出しのコンクリートの柱などにより変化する。その空間と作品の関係に表情をつくる。『聖アントニウスの誘惑』は天井が低く照明の暗い一角に展示されている。たくさんの不思議と物語が交差する魅力的な作品である。また、見ることで新たな疑問をもつような作品でもある。受講者のみなさんの鑑賞の様子をみると、お互いに見えてきたことを交流しはじめるとたくさんの要素がはっきりとした輪郭を持って現れてきた。一人では見過ごしてしまいそうなことが気になって仕方なくなる。午前・午後のすべての時間を作品の前で過ごした。1つの作品と向かい合うグループワークであったが、見て、感じたことを言葉で表し伝えることで、また、見るという力がわいてくる。そして、考え、絵の中に方向や動き、つながりが見えてくると、会話に力を与え、ぐいぐいと主題に迫っていった。自らも驚きに満ちた鑑賞であったのではないだろうか。後半のグループワークでは子どもの姿を思い浮かべ、授業をシミュレーションする時間を設定した。子どもの目になり作品を見直すことで、子どもの鑑賞のあり方を模索する時間となった。私自身、みんなで鑑賞する醍醐味をリアルに体験でき、感謝する気持ちでいっぱいです。
南 育子
サブファシリテーター感想
Cグループの活動はたいへんにぎやかに進みました。課題である1枚のタブローを前に幾つもの言葉が紡ぎだされていくのです。時には笑いを交えながら、時にはつぶやくように。誰かの一言がきっかけとなって、「本当?」「ホントだ!」「じゃあこれは?」と留まることなく意見が交わされます。当然、考えが異なることだってあります。そんな場合には、そのことの根拠がどこにあるのかを求めて、何度も視線が作品の上を駆け巡りました。まさに今回のグループワークの主眼である「みるみるうちに絵と話す」体験です。そうするうちに知らずイコノロジーの領域にまで足を踏み入れていたCグループでしたが、いわゆる宗教画の“お約束事”を次々と(文字通り!)看破するに至り、見る力ってすごいなぁとしみじみ実感しました。合間に挿入されるしばしの沈黙も、1点の作品と向き合う深さが静寂を豊かさに変えているようでした。
今井 陽子
受講者感想(抜粋)
- 小学校教諭
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- 一枚の絵にどっぷりつかる活動はものすごくエネルギーがいるが、満足感も大きいものだった。“絵と話す”という感覚はもちろん、対話、交流によって世界が広がる感じでとても心地よい一日だった。
- ギャラリートークの方法を体験できた。子どものイメージ、世界観を引き出すための問いかけにいつも悩んでいるが、作品を見てわかる「事実」と、そこから考えて想像をする「推理」を分けてかくことが、ヒントになった。
- グループによって内容が違っていた意図がわからなかった。最後にグループ発表をしたが、他のグループが何をやっているのか、いまいちわからなかった。
- 学芸員
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- 教員と学芸員の見え方が異なる面白さを感じた。
- 今後の実践につながるような内容であり、大変有意義だった。南先生、グループワークの仲間に感謝している。