グループワーク D

「みる・きく・はなす」時間

Group D
受講者:
10 名(小学校教諭6名、学芸員2名、指導主事2名)
課題作品:
ギュスターヴ・クールベ
[オルナン1819年-ラ・トゥール・ド・ペイル1877年]
《罠にかかった狐》1860年
油彩・カンヴァス 81.5 x 100.5 cm
国立西洋美術館蔵
>> 作品解説はこちら
ファシリテーター:
弘中 智子(板橋区立美術館 学芸員)
サブファシリテーター:
平谷 美華子(東京富士美術館 学芸部 学芸課 学芸員)

《罠にかかった狐》


活動内容

1 美術館、メンバーとの出会い

グループワークの始まりは西洋美術館前庭で行った。自己紹介と共に「初めて出かけた美術館」の想い出を話す。その後、誰もが最初に出会う「作品」の一つ、美術館の建物を鑑賞した。



一人で見た後、二人で鑑賞

2 作品を見る

クールベの《罠にかかった狐》を最初の3分は一人で黙って、続いて二人一組で話し合いながら見る。一人で見る、二人で見ることの違いを話し合う。二人で見ると描かれたモチーフ、技法など様々な観点から作品を見ることができるため、作品への理解が深まる。



小学生への授業を想像しながら議論を展開

3 小学生と作品を見るなら…

多くのメンバーが普段から接している小学生が、この作品を見る時にどのような反応が想定できるかを議論。「痛そう」など狐に感情移入するのではないか、国語で「ごんぎつね」を学んだ後ならば、狐がなぜこの状況に陥ったのかを想像するのではないか、など。 続けて、小学生と作品を見る際に、どのような言葉がけが考えられるのかを話し合った。参加者の中から模擬ギャラリートークをされる方がいらしたので、小学生の反応を想像しながら改めて作品をみて話し合う。ギャラリートークでは、最初に作品の「気になるところ」を聞き出し、そこから展開させて、参加者同士の意見を聞きつなぎながら作品全体を考える、という流れが提案された。


「小学生との美術鑑賞」の悩みを付箋に書き
出した

4 「美術鑑賞の授業」の悩み相談

各自の経験の中で「小学生との美術鑑賞」の悩みを付箋に書き出した。「時間の確保」「人数の多い学校の対応」「作品鑑賞時の問いかけの言葉」「鑑賞作品の選定方法」「言葉の出にくい子どもへの対応」など。限られた鑑賞の時間を充実したものにするために、普段から身近にある画集や校内にある作品を使って鑑賞の体験をしておく、美術館が作成した鑑賞ツールや出前授業の活用などがそれらに対応する実践例として出て来た。 以上、作品と小学生を先生と学芸員がどのようにしてつなげていくのか、現場の悩みや実践例を交換する時間を長く持った。


発表

発表は参加者の中から、ギャラリートークを実践してくださった先生にお願いした。まずは作品を前に模擬ギャラリートークを実施。子どもたちが各自で関心を持ったことにお互いに寄り添うことができるように、問いかけは短く、解りやすい「絵の中に気になるところはある?」といったものから始め、その反応をつないでいく。 また、作品選定については、動物や人間が描かれていると小学生は作品に入りやすいという経験に基づいた話も紹介した。子どもたちが学校単位で美術館へやってきて、短い時間を充実したものにするために、普段の学校生活の中から鑑賞を日常のものにすること、そして美術館では各自の作品への見方や関心を広げることの大切さについてお話した。


ファシリテーター感想

国立西洋美術館の作品と美術鑑賞についてじっくりと「みる・きく・はなす」時間となった。今回のテーマ作品《罠にかかった狐》はいわゆる、美しい、楽しい絵ではない。参加者からは当初「なぜこの作品?」という疑問も出たが、自ら鑑賞し、子ども達の反応を議論する時間を経て、参加者の多くがこの作品に親しみを感じてくださったことは、ファシリテーターとして嬉しいことであった。後半は美術鑑賞の現場での悩みを話し合い、解決策、実践例を紹介しあう時間に充てた。子どもたちが美術館で過ごす時間は、残念ながら限られている。この時間を充実させるために、既に学校にある画集や作品、美術館が開発したキットを使って「みる・きく・はなす」練習を普段からしておくことが必要だという話が出た。 私は普段、美術館に勤務しているため学校の実態はよく解らないが、子どもたちが学校などで集団生活を送り、成長して行く過程で「美術鑑賞」は複合的な学びの場となることを確信した。

弘中 智子

サブファシリテーター感想

地域やキャリアもさまざまである先生方と濃密な時間を過ごせました。心より御礼申し上げます。
弘中グループは、はじめにひとりで鑑賞した時と二人で鑑賞した時の違いを比べ、皆で鑑賞することの利点を実感するところからスタートしました。その後、子どもの気持ちになって鑑賞した時は、特に小学校の先生方は発達段階や他教科からの影響など、私の知らない現場視線の意見をたくさん出してくださり、非常に勉強になりました。
美術館を活用すること自体が困難な学校が多い中で、どうWinWinの関係で美術館を活用した鑑賞教育ができるか。学校から美術館には電話さえ緊張が伴う等との意見を伺った時に、美術館からも積極的に地域の学校、特に鑑賞教育に意識の高い先生方と繋がっていき、壁をなくしていくことの大切さをあらためて痛感致しました。
弘中さんをはじめ、素晴らしい先生方と出会えたことに感謝致します。

平谷 美華子





受講者感想(抜粋)

小学校教諭
  • 絵の見方は様々あるということをグループのみなさんと対話することで実感した。また、鑑賞の授業を日常でも行っていきたいが、なかなかできない現状である悩みに対して、とてもよいアドバイスやアイディアをいただくことができた。
  • 一つの絵を丁寧に鑑賞できたのがよかった。ファシリテーターによって、グループワークの進め方が違うのは、ファシリテーターの考えが反映できるのでとても良いと思う。
  • 美術館の学芸員の方々から学校への出前授業や学校内に飾ってある作品を活用したギャラリートークなど、美術鑑賞をぐっと身近にするご提案をいただいて、大変参考になった。
学芸員
  • 普段なかなか直接意見をかわすことない学校教員の方とじっくり意見をかわし、参考になることが非常に多かった。大変良い機会だった。
指導主事
  • 学校教員、教育委員、学芸員がともに参加し、課題を出し合って協議できたことが有意義だった。小中教員を混合することも今後は考えられると思う。

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