グループワーク F
想像力まで総動員させた有機的な鑑賞
- 受講者:
- 11名(小学校教諭7名、学芸員3名、指導主事1名)
- 課題作品:
- 1. マリー・ガブリエル・カペ
[リヨン1761年-パリ1818年]
《自画像》
1783年頃
油彩・カンヴァス
77.5 x 59.5
国立西洋美術館蔵
>> 作品解説はこちら - 2. ジャン=マルク・ナティエ
[パリ1685年-パリ1766年]
《マリー=アンリエット・ベルトロ・ド・プレヌフ夫人の肖像》 1739年
油彩・カンヴァス
101.8 x 82.8
国立西洋美術館蔵
>> 作品解説はこちら - ファシリテーター:
- 齊藤 佳代(東京国立近代美術館工芸課 研究補佐員)
- サブファシリテーター:
- 田村 沙理(鎌倉彫資料館)
活動内容
作品に向き合う時間 (45分)
ファシリテーターの簡単な挨拶の後すぐに作品前に移動し、作品に描かれていること、気づいたことや気になったことなどを自由に発言する対話を通じた鑑賞を行った。比較的描かれた要素の少ない肖像画と自画像2点を鑑賞したが、参加者からは非常に多くの発言が得られた。はっきりとは表されていないことへの想像や推測、描かれたモチーフが表象する事物やメッセージ、更には描かれた(であろう)時代の文化背景まで、鑑賞者各自の経験や美術史の見識のみならず、想像力まで総動員させた有機的な鑑賞となった。この段階では職務を離れ、一鑑賞者としてそれぞれが作品と向かい合った。
人間関係構築の時間 (20分)
それぞれが行ってきた実践の紹介と本研修に期待する事を交えた自己紹介。経験の多寡や学校や地方の特殊性、独自性がつまびらかになると同時に、中学校ならではの鑑賞教育の課題が漠然とだが浮かび上がった時間でもあった。
作品分析の時間 (40分)
2班に分かれての活動。冒頭で行ったグループでの鑑賞で出てきた発言を1項目ずつ付箋等に書き出し、それらを主観的感想と客観的事象に分類したり、関連づけたり、グルーピングしたりする作業を行い、模造紙にマップのようなものを作成。その後発表し合い共有した。ここでは、自由な発言から紡ぎだされた様々な発見や解釈を客観的にとらえなおすことで作品を分析する事を企図した。午前の活動は、まずは先入見を持たずに作品と向き合い、自らの目でみて、考え、分析する。その後資料にあたり作品についての情報を得るという鑑賞をナビゲートする場合の準備のプロセスを体験したということもできるだろう。
対話を深める時間 (80分)
午前中の活動を振り返った後、鑑賞者から教員や学芸員などに立ち位置を戻し、中学生の鑑賞について議論した。予定の時間を大幅に超過することになったが、美術教育における鑑賞活動の意義、生徒や学校組織の実態に即した実践可能性、鑑賞教育の基礎・基本の定義についてなど多岐に渡り、有意義かつ建設的な討論となった。
現場への還元を検討する時間 (40分)
実践のアイデアを付箋に書き出し、それらをオープンエンドな鑑賞、知識を伴う鑑賞、事前授業、事後への展開、制作とのつながり、美術館との連携などに分類し、様々な可能性が考えられる事を確認した。
発表
他グループとの共有の時間
グループの代表1名による発表。6分という限られた時間であり、Fグループはトップバッターであったので、とにかく時間内にまとめることを発表者にお願いした。グループワークの内容を時系列に簡潔にまとめた内容で、グループ内の参加者から発表を改めて聞く事が自身の振り返りになったというコメントが出たのが印象的だった。
ファシリテーター感想
グループワークの始めに行った対話を通じた作品鑑賞より、その後の展開が2つの点で特徴づけられた。1点目は自分の目で作品をよく見て、自由な発想で作品の観察と解釈を試みる時間を確保できたこと。そして他者の意見を取り入れることで解釈に多様性がもたらされ、多角的な作品分析ができたことである。鑑賞の授業やプログラムを準備する際には、この作品をよく見て、まずは自分で考え、解釈した上で資料にあたることが非常に重要になってくる。このプロセスを共同作業で体験したことで、作品の時代背景や作者の意図等の情報を鑑賞者に提供する意味、提供する内容や量やタイミングについても自然と検討する事ができたのではないだろうか。
2つ目は対話により、絶えず多様性、異なる可能性への扉が開かれ続けたことである。その後具体的な事柄について議論する際にも、簡単に結論におとしこむのではなく、更なる可能性を探し続けることができたように見受けられた。
グループFによる共同作業は、参加者一人一人の実践の素地固めとなったのではないかと思う。
齊藤 佳代
サブファシリテーター感想
今回中学校教員のグループに入り、学習の楽しさや親しみを伝えようとする傾向にある小学校教員と全く異なる視点でグループワークが展開していたので少し戸惑った。そのなかで特に気になったことは、まず出前授業や教材のニーズが意外と小学校と同じくらいあるということであった。美術教育にも地域差があり、金銭的な問題、施設自体がないなど様々な要因で行くことができない学校が想像していた以上に多くあった。当館でも近年問い合わせが来ており、普及事業の一環としてぜひとも取り組みたいと思った。また、美術鑑賞の時間を美術の授業だけではなく、生徒自身、その人となりを知る手段として有効なのではないかという議論があった。いじめ等の問題からの関連であったが、美術教育から離れた時、学校の役割、施設側の役割を考えるなかで、どのように関わっていくか慎重に考えていきたいところである。
田村 沙理
受講者感想(抜粋)
- 中学校教諭
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- 何もない状態から、絵を見る楽しさ、想像の広がりを楽しむことが出来た。解説を知ってしまうと、それ以外に見えない、見つけられないことに気がついた。こうした視点を生かして、ワークシートの工夫などやっていきたいと思う。また、作品が代わると、いろいろな切り口で鑑賞の授業ができるのだなと思った。彫刻のグループのグループワークで、手や足に注目したところは特に参考になった。
- 各グループの鑑賞方法が異なり、発表によってさらに視野が広がった。
- 経験豊富な現職の先生方、学芸員の方、そしてファシリテーターの方によって、有意義な時間を過ごさせてもらった。美術はほぼ一人で担当しており、いろいろな方との意見交換が普段なかなかできないので、こういった機会はとても勉強になった。また、日々の授業をもっと工夫したいと改めて思った。
- 学芸員
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- 研修の導入にふさわしい内容だった。このグループワークを通して、個人的に感じていた鑑賞教育の疑問に対する答えを求めていくことができた。
- 指導主事
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- ファシリテーターの役割の重要性を改めて痛感した。グループワークでは、様々な地区から参加された先生方のご意見を聴くことができ、大変有意義だった。