グループワーク I

繋ぐがキーワード。デジタルカメラで彫刻鑑賞

Group I
受講者:
11名(中学校教諭7名、学芸員3名、指導主事1名)
課題作品:
オーギュスト・ロダン [パリ1840年-ムードン1917年]
《接吻》1882-87年頃(原型)
ブロンズ 87 x 51 x 55 cm
国立西洋美術館蔵
>> 作品解説はこちら
ファシリテーター:
三澤 一実 (武蔵野美術大学教職課程研究室 教授)
サブファシリテーター:
木内 祐子 (国立新美術館学芸課研究補佐員)

《接吻》


活動内容


美術館との連携方法や課題をディスカッション


触れることで立体感を実感


デジタルカメラのムービー機能を使って
言葉で伝える彫刻紹介

私たちのグループはロダンの彫刻作品の鑑賞を行いました。午前中は美術館との連携に関わる課題を議論し合い、例えば、美術館までの距離が遠いとか、必要な時間確保が難しいなど物理的な条件で連携が出来ない学校において、どの様な連携方法が考えられるか。また、これらの問題を乗り越え行われている実践の紹介などをし合いました。特に、ネットの利用や大学との連携、PTAの協力による連携構築の可能性、県の僻地対策予算の中での芸術鑑賞の枠を活用するなどのアイデアがでてきました。

その議論のまとめとして、やはり美術館と学校を繋ぐ人が必要だという結論に達し、旭川のプロジェクトチーム事例など報告がありました。学芸員、教職員のお互いの仕事、考えなどを知る大切さや、スタッフが集まる場があることがあってこそ活動が可能であること。また、そのきっかけを作ったのは、大学の先生であったことなどの報告がされました。

午後はロダンの彫刻を鑑賞しました。数名の方から彫刻の鑑賞は難しいと意見が出ましたが、グループで、どの様に鑑賞したいか話し合い、実際に触察するとか、対話により鑑賞をするとか、写真を撮って紹介するなどの鑑賞方法が提案され、まず、綿手袋を装着し作品を触ってみることにしました。すると、「目で見たときと違う」とか、「意外とゴツゴツしている」などの素直な感想が出てきました。最終的には、デジタルカメラのムービー機能を利用し、彫刻の美を、ことばと映像で伝える活動をしました。

デジタルカメラのムービー機能を使った彫刻紹介では、鑑賞者が見るポイントを焦点化したり、感じた美しさを言語化したりする中で、鑑賞者自身の作品鑑賞が深まっていく様子が感じられました。また、撮影した映像を鑑賞し合う中で、鑑賞者の視点が映像を通して共有できるなど、新たな鑑賞の可能性が感じられる活動となりました。


発表

「デジタルカメラで彫刻鑑賞」

今回、彫刻の鑑賞を行うに際して、当初、未経験ゆえのとっつきにくさがありましたが、触ったり、身体を使って真似をしてみたり、お気に入りのビューポイントを紹介したりする中で、彫刻の鑑賞の仕方も色々あると気づいていきました。中でもデジタルカメラのムービー機能を使った鑑賞レポートは、記録された映像が鑑賞者の視線となり、録音されたナレーションを聞くことで、撮影者が感じた鑑賞体験を共有することができました。見ることと映像に表現する表現と鑑賞の一体化により鑑賞活動が深まると同時に、映像やことばに表現しなければならないという条件が作品を漠然と見ることを許してくれませんでした。


ファシリテーター感想

午前中の美術館との具体的連携づくりでは、教員と学芸員だけで連携をつくりだすのではなく、教員と学芸員の間に、NPOや大学の教員を介させるとか、また、ユニークな意見では、PTAに美術館と学校を繋ぐ役目をしてもらうなどの可能性を感じさせる意見が出てきました。連携は該当者だけで考えていてもなかなか生み出せられません。美術館と学校を繋ぐ第三者をいかに巻き込むかがポイントだと感じました。
彫刻の鑑賞では、様々な鑑賞方法を試したりする中で、先生方が徐々に彫刻に親しみを感じていく姿が印象的でした。何か知識を教えなければならないと感じている先生も、素直に感じたことをことばに表したり映像に表現したりするなど、表現を伴う活動で鑑賞が深まることを実感できたと思います。デジタルカメラの活用も、地域にある彫刻作品などを、授業外の時間を活用して解説付きで動画撮影するなど有効に使えそうです。

三澤 一実

サブファシリテーター感想

美術館と学校と地域が協力すると、きっとワクワクすることが起こる。そう実感した、参加者の皆さんの前向きな姿に刺激を受けたグループワークでした。前半の座談会では、美術館と学校の繋がりを作る事例や、美術館を活用した美術部の活動の提案について意見交換が活発になされ、「生徒を美術館に連れて行きたくても、物理的な要因により難しい」という声が全く聞かれなかったことに驚きました。「できることからやろう」と発言があったように、自分たちの活動から現状を変えようと努力している先生や指導主事、学芸員の方が全国にいるのだと、勇気付けられる気持ちでした。 後半は、鑑賞活動としての作品紹介の動画作り。2人1組でのチームワークが大成功だった理由には、三澤先生による題材設定の巧みさはもちろんですが、座談会で築かれた参加者どうしの信頼関係もあったのではないかと思います。
この体験を学校に持ち帰って、子どもたちに還元することができる先生方をうらやましく思います。鑑賞による、ひとりでも多くの子どもの心の成長を願っています。

木内 祐子


受講者感想(抜粋)

中学校教諭
  • 生徒に授業をしていながら、実際に生徒と同じ経験をしたことがなかったので、追体験できてよかった。美術の先生や学芸員の方と一緒にグループワークをすることで反省点・改善点が見えてきて良かった。
  • 話を聴く、考える、話をするという言語活動を駆使して学ぶことは大きかった。
  • グループワークの発表で、各グループが考えた授業展開を他のグループの作品を対象にした実証をしてみれば、よりお互いの考えを深く理解できる研修になるのではないかと思った。
学芸員
  • 違う立場から参加者全員が問題を提出し、解決策を出し、実践例を紹介するなどして、自分のこととして主体的に関われる雰囲気づくりをして下さったのでとてもよかった。
  • ビデオを使用した鑑賞法は非常に参考になった。
  • コミュニケーションを通して作品とのさまざまな対話が産まれ、その中から現在の学校教育の考えるべき事、求める事が少し理解できたように思う。

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