グループワーク A

表現の行為と密接に結びつく鑑賞活動の深まり

Group A
課題作品:
パウル・クレー
《花ひらく木をめぐる抽象》 1925年
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受講者:
11名(中学校教諭8名、指導主事1名、学芸員2名)
ファシリテーター:
田中 晃(川越市立美術館主幹)
サブファシリテーター:
遠藤 詠子(箱根写真美術館副館長)


活動内容


お互いに顔を見合ってスケッチ

1. 自己紹介及び作品について考える活動

グループワークはカードを使って展開した。第1のカードは冒頭の基調講演を受け、見る活動と描く活動の関係を楽しみながら互いに顔を見合ってスケッチするというもの。1枚のカードに相手をスケッチしてあげ、その後、自己紹介を行いながら本研修で自分なりに解決したいことを提示してもらい、グループワークを自分の課題解決の場として参加してもらった。次の第2のカードは作品に示された記号と同じ記号が示してあり、その作品について考える活動。人物画が多い展示室であったため、ある1枚の絵の中の人物になりきって自己紹介を考えてみた。その後、3人でグループになりクイズ形式で互いにどの作品を選んだかを当てた。作品をよく見て特徴をつかみ、それを伝え共有し合う鑑賞が自然に行われていた。その後、人物画をモチーフにどのような鑑賞が考えられるか各自で考えた。


特徴をつかみ、伝え、共有し合う鑑賞

2. 課題を発表し、参加者と対話をしながら鑑賞

はじめに課題を発表し合う。自分なりのねらいや作品の背景、作者に迫るなど、実に多様な視点が出された。人物画はさまざまな想像を掻き立てるので良いという意見もあった。この活動から作者の意図やモチーフにつながる意見が出てきたところで、後半はクレーの作品『花ひらく木をめぐる抽象』について、参加者と対話をしながら鑑賞を行った。見えるものの印象やそれぞれの感想は「何をどう表現しているのか」という問題につながる。その中から、絵を回転させる見方、法則的な色と形の組み合わせなど表現との密接な疑問や発言が生まれてきた。このような抽象作品を使ってどう中学生にアプローチするかを考えていき、最後にはリズムや感じる風など身体性を意識した鑑賞法などが提案された。これを実際に拍手のリズムで表現してみることで作者が表現しようとした世界に垣間入り込んだようだった。



グループワークは課題解決の場

3. ディスカッションで情報共有

参加者の疑問や実情をもとにディスカッションを行うことで、各地で取り組んでいる事例や、悩みなど情報交換も含め共有できた。



発表

1.前半の活動について
スケッチによる自己紹介から始まり、その後、人物画を鑑賞してその人物になりきる活動を行った。なりきり自己紹介は3人のグループになってクイズ形式で楽しみながらできた。人物画鑑賞のアイデアは様々な視点がありとても参考になった。

2.後半の活動について
パウル・クレーの作品をもとに鑑賞の指導について考えた。抽象はあまり扱わないので新鮮だった。多くの鑑賞法が意見交換され深く掘り下げていく鑑賞ができ、表現活動につながるアイデアも出た。最後に五感を使って感じてみようということで、手をたたくリズムでこの作品の世界を表現し、それを全員が分担して披露した。

グループワーク講評

美術においては、verbal(言葉)とnonverbal(言葉を用いない)の両方を用いることが言語活動だと思います。このグループは、nonverbalの身体感覚を使って、感性を豊かにする活動ができていたと思います。感じたことを身体で表現する、その身体表現を今度は言葉にするという作業が見られました。
中学生になると身体感覚を使わなくなりますが、身体を使うと感覚は鋭敏になります。ですから、身体を使って表現する活動を取り入れると言語化が進みます。そして、verbalとnonverbalな活動を往還することで鑑賞は深まっていくと思います。

三澤 一実



ファシリテーター感想

展示室1はハイライトのコーナーですが、壁も照明も少々暗く、一日過ごすのは果たして…?と思いましたが参加者の積極的な意識と協力で、終始和やかで深い活動ができました。人物画の作品で考える鑑賞の指導は中学生という発達や地域性、実態などから方法も様々で、ねらいと活動をよく考えるきっかけとなりました。後半は1枚の抽象画を長い時間かけてじっくり見ることで、細かな気づきや幅広い解釈が生まれるなど、普段なかなかできない体験や発表を通して鑑賞の奥深さが共有できたとても心地よい時間でした。学校と美術館それぞれの特性を考えながら鑑賞する姿を想像しつつ、中学生にどのような力が育つのか、連携の姿を考えながらともに深めていけたように思います。これを機に全国で鑑賞の指導がますます豊かになればと考えます。私自身もたくさんのヒントをいただきました。参加者の皆様およびサブファシリテーターの遠藤様、どうもありがとうございました。

田中 晃

サブファシリテーター感想

昨年は小学校、今年は中学校のグループにサブファシリテーターとして参加させていただきました。研修を通して、発達段階に合わせた鑑賞を考える大切さと難しさを感じました。田中先生のグループでは、前半は人物画を中心とした作品群を、後半はパウル•クレーの抽象画を鑑賞し、それぞれについて活動のアイデアを出し合いました。人物画鑑賞では後の学習効果を期待した活動、抽象画鑑賞では五感や身体を使った活動が考えられました。違った作品を鑑賞することで多様な活動を考えられたと思います。中学生は、知識欲、理解度や経験値も成長する時期であり、個人差も大きいため、アプローチや発問、活動の目標設定等、難しい点も多いようでしたが、感受性や社会性が育つ時期こそ、美術館に足を運んで本物を感じてもらい、広い世界を体験してほしいと思います。私自身そのために美術館側が出来る事を考える良い機会となりました。

遠藤 詠子



受講者感想(抜粋)

中学校教諭
  • 自由発言形式で大変発言しやすかった。また、講師の田中先生が提示して下さった話の視点や切り口が大変ユニークであり、楽しく研修することができた。
  • 自己紹介から工夫あり(2人でスケッチ)→(作品を通してなりきり自己紹介3人グループ)それからのグループワークで打ちとけやすく、1日終了後には一体感が生まれていた。ファシリテーターの進行のうまさだと思う。いろいろな見方、考え方、アプローチを学ぶことができた。
学芸員
  • グループ内で色々な自分とは違う意見を聞けておもしろかった。ファシリテーターの先生の間合い、発表の受け止め方が勉強になった。話しやすい雰囲気がとても魅力的だった。

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