グループワーク H

中学生の鑑賞~抽象的な作品を題材として~

Group H
課題作品:
ゴームリー《反映/思索》2001年
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受講者:
10名(中学校教諭6名、指導主事1名、学芸員3名)
ファシリテーター:
松永 かおり(東京都教育庁指導部指導企画課 指導主事)
サブファシリテーター:
吉澤 菜摘(国立新美術館学芸課 アソシエイトフェロー)

活動内容

グループワークの流れ

  1. 自己紹介
  2. 課題作品の選定理由についてファシリテーターから説明
  3. それぞれ自由に鑑賞→作品の前でギャラリートーク(まず、それぞれに自由に意見を出す)
  4. もう一度、自由に鑑賞する時間
  5. 意見交換
  6. サブファシリテーターから、学芸員として作品の情報(作者の意図や作品の背景についての情報)と資料を提供
  7. 作品についての情報を聞いた上でさらに鑑賞
  8. 与えられた情報を踏まえた上でギャラリートーク
  9. 午前のギャラリートークを踏まえ、中学生を対象としたプログラムを考える
  10. 各自ワークシートを用いて、与えられた現代美術のエリアから一つの作品を選定し、プログラムを作成
  11. 選んだ作品の前で、一人ずつ発表
  12. 発表に基づいてディスカッション
  13. まとめ

各自、鑑賞してプログラムを考えた

受講者の皆さんが、実際に美術館を活用した鑑賞教育を行う際の手立てが具体的にイメージできるような流れを大切にしたグループワークを心掛けた。発問に対する子どもたちの反応を予想し、時にはなかなか発言が出なかったり、ギャラリートークが盛り上がらなかったりする場面も想定しながら、その際の手立てについて考えて意見交換することから、自然に発問やワークシート作成時のポイントを導き出した。また、「学芸員の方と教員が、どのように連携しながらギャラリートークを進行するか」についても、実践的な取組を通して感じ取ってもらった。抽象的な作品から受ける印象を自由に意見交換していく中で、中学生の心の動き、感受性などを大切にしながら作り上げていく鑑賞の在り方を考えていった。



作品の情報を聞いて自由に鑑賞

発表により授業のアイデアが膨らんでいく


発表

グループワークの流れと感想を中心に発表し、鑑賞はやはり事前の準備がたくさん必要だと思った。中学生は、発問に対してなかなか答えが返ってこないことも珍しくない。生徒が自分の価値観を作り出すところまで、どうやったら持っていけるのか、難しいと思ったが、ワークシートや発問の工夫で改善して、子どもたちに新たな価値を生み出すきっかけを与えることができることが確認できた。美術館、学校共に発信して、子どもたちが来たい、行きたい、と思う連携を行っていきたい。また、各自で考えた中学生を対象としたプログラムの発表では、他の先生や学芸員の方の意見を聞いて、授業のアイデアがふくらんだ。美術館にも積極的に相談して実践していきたい。

グループワーク講評

「(この像を見て)何がわかりますか?」という質問から入るのは、子どもたちに議論を引き起こすのに良いでしょう。そして、子どもたちがそれぞれに異なる意見を述べるなかで見えてくる共通性が、この作品の魅力になってきます。次に情報提供を行うわけですが、重要なポイントは情報の与え方です。情報によって問題を解決するのではなく、子どもたちの次の思考が深まるような情報の与え方でなければいけません。その結果、「(この像は)精神の器である」という言葉が、子どもたちから出てきたら最高じゃないでしょうか。そうした言葉が出て来るように情報を与えることができれば、子どもたちにとって非常に印象深い美術体験になると思います。

三澤 一実


ファシリテーター感想

受講者の皆さんは、「鑑賞の授業を思うように組み立てることができない」「苦手意識がなかなか拭えない」という方から、すでに地元の美術館で教育普及のプログラムを作成した経験をお持ちの方まで、「美術館を活用した鑑賞教育」に対する経験値が様々でした。そんな中で、「受講者にとってどのようなグループワークを行うことが最も有効なのか?」を考えたときに、私の中では、やはり、「中学生の実態」に焦点を当てることが柱であると考えました。作品を選定するとき、ギャラリートークでの発問やワークシートに記入する文言を考えるとき、受講者の皆さんが、できるだけ中学生の姿を具体的にイメージし、順調な流れだけではなく、行き詰まる場面の想定をしながら、「一体どのような鑑賞を行うことが、中学生に必要なのか?」という本質について話合いを進めることができました。各地での、これからの皆さんの御活躍を心からお祈りしています。

松永 かおり

サブファシリテーター感想

ゴームリーの作品の鑑賞とギャラリートークを行った午前中は、参加者の「見る力」に何度も驚かされました。私の役割はトークの途中で作品や作家の情報を提示していくことでしたが、そういった知識を与えるまでもなく、参加者からは作品の主題に迫る意見が次々と出てきました。参加者自身も、時間をかけた鑑賞と対話が、より深い作品理解につながることを実感できたのではないでしょうか。午後は、美術館と連携した鑑賞授業を考える時間。各自がそれぞれの学校、美術館、そして地域の状況を鳥瞰しながら、鑑賞授業の組み立てを熟考していました。それは一人の鑑賞者だった午前中とは違う、ファシリテーターとしての視点を意識した活動だったと思います。そんな参加者の姿勢の変化を見て、松永先生の丁寧な主導によるグループワークの成果を感じました。グループワークを通じて学んだ、鑑賞活動におけるファシリテーターの視点を、私自身も今度の仕事で活かしていきたいと思います。

吉澤 菜摘


 

受講者感想(抜粋)

中学校教諭
  • ゴームリーの立体作品を見てじっくりと時間をかけて意見を出し考える体験は、それぞれの経験や今までの生活(歴史)そしてそれぞれの立場等で違い大変よかった。中学生であっても充分実践できると体感できた。
  • 対話による鑑賞教育を実際に体験し、お互いの情報交換をすることで作品に対する見方が深まった。他者の意見を聴くことで新たな発見があるということが実感できた。
学芸員
  • グループワークではそれぞれの先生や学芸員の方の鑑賞の視点や方法を伺うことができ参考になった。全体で発表、講評をいただくのもよかったが、グループ毎に意見交換する時間をもっと設定していただければ、改善のための具体的な視点を得ることができたのではないかと思う。
  • 鑑賞教育の目的意識を明確にすることができた。
指導主事
  • グループ活動は大変有意義であった。

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