グループワーク F
展示空間全体を、味わうことから
- 課題作品:
- 小倉遊亀 《浴女その二》 1939年
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- 受講者:
- 10名(中学校教諭6名、指導主事1名、主査1名、学芸員2名)
- ファシリテーター:
- 濱脇 みどり(西東京市立田無第一中学校教諭)
- サブファシリテーター:
- 八巻 香澄(東京都庭園美術館学芸員)
活動内容
1. 自己紹介から
まず部屋の外に座り顔を合わせて心の準備をしてから、いざワーク空間へ。10分ほど自由に見た後、「今の気持ち」述べ合う短い自己紹介。最後にファシリテーターより「この空間や作品を自由に使って中学生への提案を考える」とワークの目的を話す。
2. 一点を見る
作品は東山魁夷《白夜光》と小倉遊亀《浴女その二》の2択により小倉遊亀に決定。中学生と話をする要素がたくさんあると考えた参加者が多かった。着物の質感表現や人物の姿勢などがもたらす柔らかい雰囲気、画面構成・視点の不思議さ・大胆さなどから、次第に時代背景や作者の表現意図へと話題は進んだ。充分に時間をかけられなかったのが残念。
3. 展示空間全体を味わう
作品の種類や傾向から並べ方、壁面や床の色など、展示空間全体を味わい直し、午後の活動への入口とする。画面構成の大胆さや技法の多様性などから、戦後の日本画家たちの挑戦に話が及ぶ。最後に展示を企画した学芸員に登場してもらい、展示意図を聞く機会も得た。
4. 中学生への投げかけを考える
はじめに、取り上げたい作品や鑑賞活動の狙いなどを出し合い、視点の近い参加者同士で3グループを編成。それぞれに分かれて生徒への働きかけの狙いと方法を探っていく。3グループとも何らかの形で生徒が作品と実際に対面する鑑賞活動をイメージし、話し合いを進めた。各学校の鑑賞に向かう生徒の実態や、鑑賞だけでなく活動全体を通じて生徒に身につけてほしいことや大切にしたいことなどについて、交流が進んでいた。
発表
①縦線による画面構成が特徴的な風景が2点をじっくり見せることを狙ったグループ、②人物肖像3点を使い、表現活動につなげようとしたグループ、③展示作品全体を使い、美術館の敷居の高さを克服することを狙ったグループ。作品解説風に、模擬授業風に、話し合いの熱気を伝えるレポートのように、3様のスタイルでの発表となった。各グループの対象作品や発表内容が全く異なるため、10分という発表時間はでは参加者にとって他発表の概要をつかむことも難しかったかもしれない。しかし各グループの代表者を見守るメンバーの眼差しが和やかで温かく、子どもの鑑賞活動に向けての考え方が共有され、信頼関係が生まれたことが伺われた。
グループワーク講評
このグループは、子どもの反応を想定しながら、オーソドックスな三つの鑑賞プログラムを考案していますが、それらが目の前にいる子どもたちに本当に可能かどうかを把握することが重要だと思います。子どもたちが何を欲しているのか、またそれを欲するように導くにはどうしたらよいか、ということを考慮すれば、これらのプログラムも充実してくると思います。また、表現と結びつける鑑賞を考えるうえでは、表現は主題が重要となるので、作品の表面的な特徴や面白さを鑑賞するだけでなく、その背後にある作者の思いや考えまで深めていく鑑賞が必要となるでしょう。
三澤 一実
ファシリテーター感想
昨年、東京国立近代美術館の開館60周年記念展示を個人的に鑑賞して、とてもワクワクした。展示の意図や企画者の思いをはっきりと感じることができたような気がしたからである。そんなことから今回のグループワークでは参加者が展示空間全体から受けた各自の感じを基に、自分の身近な中学生の実態に合わせて多様な鑑賞活動を考えてもらうことを狙いとした。けれども、活動時間が結果的に細切れになってしまい、一つ一つの活動を深めたり参加者全員の考えを共有したりすることが十分にできなかったのではないかと反省している。対話型の鑑賞スタイルは一般化しつつあるけれども、展示作品を媒介として、せっかく集った参加者が交流を深める経験をすることが大切であるのだと、改めて思い至った。来年また機会をいただけるならば、より美味しく味わいしっかり吸収できるワークを提供したい。
濱脇 みどり
サブファシリテーター感想
私は美術館職員なので、鑑賞プログラムを考える際、ポジティブな気持ちで作品に向かっている人を想定してしまいがちです。自主的に美術館のプログラムに参加する人は、すでに鑑賞する心構えで来館している人が多いので、ついそういう勘違いをしてしまうのです。でも当然のことですが、美術館という場所に緊張したり、何をしていいのか戸惑っていたりする人もいます。さすが学校の先生は分かっていらっしゃる。「中学生にとって、いきなり美術館に来て鑑賞というのは敷居が高い」「まず美術館に興味をもって、また来たいという気持ちにさせることが大切」とても考えさせられました。
美術館に慣れていない小中学生は「暗いな。静かで落ち着かないな」とネガティブな印象をもつかもしれません。でもネガティブな気持ちも、もちろんOK。それを認識することで感覚を研ぎ澄ませて、ゆっくりと気持ちを整えて鑑賞につなげていきましょう。それを受け止めてファシリテートできる美術館でありたいと思います。
八巻 香澄
受講者感想(抜粋)
- 小学校教諭
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- 他の参加者と絵について話していくうちに、絵がだんだんと好きになっていく感動を味わった。生徒にもこのような体験をさせたいと思った。
- 自分のやろうとすることや諸先輩方の意見を組み合わせたり練ったりすることで持ち帰ろうと思えるプログラムを作ることができてよかった。実情に合っていて突飛で驚きのある提案がほしいと思った。
- 学芸員
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- 普段は美術館内で終わる活動が、現場の先生方のリアルな話をききながら、学校現場とつながるような鑑賞教育についてしっかりと取り組めたことは良い刺激になった。
- 指導主事
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- 作品を見るときの鑑賞の視点を学ばせていただいた。グループ内で話していると、それぞれの立場や子どもの実態も様々であることがわかり、よかった。