グループワーク C
子どもとアートのアイダには
- 課題作品:
- 古賀春江 《海》 1929年
>> 作品情報はこちら(画像有り)
萬鉄五郎 《もたれて立つ人》 1917年
>> 作品情報はこちら(画像有り)
- 受講者:
- 9名(小学校教諭5名、学芸員4名)
- ファシリテーター:
- 斎藤 佳代(東京国立近代美術館工芸館 研究補佐員)
- サブファシリテーター:
- 本間 美里(東京都港区御成門小学校教諭)
活動内容
1.作品と向き合う
メンバー全員で1つの鑑賞をすることからグループワークを始めた。1点目は古賀春江《海》。有名な作品なので初見でない参加者も多かったが、キャプションと作品解説を隠してオープンエンドなトーク形式をとったためか、作品の描術に多くの時間を費やし、画面上の数々の対比や構造へと話が広がっていくような、じっくりみることを主眼に置いたセッションとなった。2点目は萬鉄五郎の《もたれて立つ人》を鑑賞。この作品ではファシリテーターによる焦点化や見方の誘導、作品の情報を鑑賞者と共有することで、美術史的な視点も交えた鑑賞となった。
2.互いに向き合う
自己紹介として、日々の実践に対してこの研修に期待していることを発表しあった後で、先ほど体験したグループでの鑑賞についての感想や1点目と2点目のトーカーのファシリテーションの違いについてディスカッションを行った。
3.子どもたちの視点を想像する
午前の最後と午後の最初の時間を使い、自分が小学4年生になったつもりで《もたれて立つ人》の感想を付箋に記した後、全員でこれらを共有しながら分析を試みた。付箋に書かれたコメント(ここでは子どもの発言とみなす)を、色に関するもの、形に関するもの、印象や感想、謎や問いかけ等に分類し、それらが互いにどう関連しあっているかを議論した。模造紙上に出来上がったコメントマップから、子どもの興味がどこに向かうのか、それらをどのように結びつけると鑑賞が深まるかについて話し合った。
4.子どもと作品をつなげる
模造紙上で起こったことを一種のギャラリートークと想定。それに続く、あるいはそこに向かう活動を小グループに分かれて考察。途中経過を発表し、互いに批評しながらブラッシュアップを行い、3種の方向性を検討した。
5. 共同作業を振り返る
グループワークを振り返り、各人がどのような感想を持ったか、今後の活動にどう反映していきたいか共有し、グループワークのクロージングとした。
発表
Cグループでは代表者1名が時間軸に沿って紹介しつつ、午後の活動で検討した授業、即ち小学4年生を対象とした美術館でのギャラリートークと組み合わせる授業案の幾つかについて発表した。カメラを使って人体を様々な角度から撮影することで、複数の視点が1つの画面内に構成されていることを追体験する活動、美術館を再訪し、同作家の別作品を鑑賞して作者個人の中の変遷に出会う体験をする活動、他者と鑑賞する中で様々な解釈を受け入れると同時に自分のお気に入りの作品をみつける活動、シンプルな幾何学形態をつかって人体をつくってみる、画像を用いた学校での事前準備を行うなど様々な案が浮かびあがりつつ、質疑応答により検討が繰り返されたことが強調された。
グループワーク講評
指導者自身が作品をじっくり見るプロセスの重要性を確認できたのは一つの成果。そして互いの見方や感じ方に触れた体験は、子どもたちの鑑賞を具体的にイメージしやすくしたのではないでしょうか。また研修のまとめとして、学年を具体的に設定してから授業を考えたのはよい手法でした。子どもの実態の把握は、より充実した鑑賞体験の想定を可能にするからです。子ども自身の視点をスタートラインとして、作品にアプローチしていくことが大事だと思います。
東良 雅人
ファシリテーター感想
グループワークの内容については、当然準備をした上で進行表も作るのですが、参加なさる方と直接お目にかかって初めて何をすべきかが明確にみえてくることがあります。午前中は1時間近くにも及ぶ作品を介した濃密なコミュニケーションをとった後に自己紹介とディスカッションをすることで、自分と向き合い仲間と出会い、関係性を構築する時間となりました。学校と美術館の連携をどうやって始めれば(深めれば)いいのか、指導者が伝えたいテーマ設定の是非やその方法論、この辺りが今年のグループワークの肝になると考えました。この時点で私が描いていた青写真は修正せざるを得ないわけですが、これが本研修の醍醐味でもあります。午後の、授業案を考える活動で互いのアイデアを冷静に分析しながら、仮想のプログラムを精査して行く過程は、経験の多寡にとらわれることなく、また、様々な制約について考慮に入れながらも闇雲に縛られることがない、極めて前向きでダイナミックなものとなりました。4時間以上にもわたるグループワークは、萬鉄五郎をも含めた12名の対話の場となったように感じました。
斎藤 佳代
サブファシリテーター感想
まず、皆さんの熱心に学ぼうとする気持ちや、皆で創り上げていこうというエネルギーにとても驚かされました。最初のギャラリートークから積極的な発言が出され、他者と鑑賞を楽しみながら絵の見方や感じ方を自然と学んでいたように思います。「こんな見方があった」「同じ考えの人がいるのが嬉しい」など、皆で対話することの良さを感じ、それぞれの思いを共有することができました。後半は、小グループになり、小学4年生を想定しての授業を考えました。目的、子どもの実態、支援、教材開発、美術館との連携など、リアリティを持ったグループワークになり、具体的な意見が出されました。この研修では、明日から実践したいもの、これからじっくり考えていきたいこと、そして学校と美術館との連携など多面的に学ぶことができると思います。研修者と美術館の双方が、よりよい鑑賞教育を目指し、まさに「対話」をしながら学んでいく素晴らしい場だと思います。
本間 美里
受講者感想(抜粋)
- 小学校教諭
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- じっくり作品を見たり他の方と話し合ったりすることで作品の見方が広がり深まったように思う。ファシリテーターの先生方のおかげで、子どもの気持ちに戻れてドキドキしたりワクワクしたり楽しかった。
- まず自分が作品に向かい合う時間、グループの人の見方に共感したり考えたりした後の自己紹介の流れもよかった。発表ではなく、ワーク自体に時間を費やせて良かった。
- 学芸員
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- 自分自身で対話型鑑賞を体験するということを、丁寧に時間をかけてやっていただけたのがとても良かった。「結論」「1つの答え」を出さないで意見を出し合うことは、学校での勉強と違い不安な先生もいらした。その中で「それで良い」ことを実体験できたのは経験として大きい。
- 他の参加者の意見を聞くことができて興味深かった。斉藤さんのギャラリートークとてもスムーズで上手だった。