グループワーク E
もっと楽しい、鑑賞の時間!
- 課題作品:
- 靉光 《眼のある風景》 1938年
>> 作品情報はこちら(画像有り)
- 受講者:
- 8名(小学校教諭5名、学芸員3名)
- ファシリテーター:
- 弘中 智子(板橋区立美術館学芸員)
- サブファシリテーター:
- 田村 麗恵(東京都美術館学芸員)
活動内容
1. 自己紹介とアイスブレイクを兼ねて鑑賞
参加者は小学校の先生と学芸員で、事前アンケートでは、ほとんどのメンバーが対話式の作品鑑賞を行ったことがある、ということだった。そのため、これまでの鑑賞のアイデアを参加者全員で持ち寄り、もっと楽しい鑑賞の時間を持つための議論と情報交換の場とした。グループワークの始まりは、美術館のエントランスホールにした。建物を見渡した後、展示室へ移動し、靉光の《眼のある風景》の前に集まった。自己紹介とアイスブレイクを兼ねて鑑賞を行った。作品をじっくり1人で、続いて2人、4人で見る時間を作り、知り合ったばかりの仲間の作品の見方に耳を傾け、ゆっくりとした鑑賞の時間を参加者自身に味わってもらった。
2. 鑑賞の「悩み」を話し合う
簡単な自己紹介の後に、さっそく鑑賞の「悩み」を打ち明けた。キーワードを付箋に書いて、模造紙に貼り、グルーピングを行った。グループで長い時間をかけて議論したのは、先生と学芸員がお互いに何を要望し、提供できるのか、という話題であった。小学校の子どもたちを美術館で受け入れ、学芸員がギャラリートークを行い、先生が見守る、これは全国各地の美術館で日常的に行われ始めている。しかし、先生や学校の要望、美術館の提供出来る鑑賞ツールや作品の情報などが具体的に提案される機会がなく、そのため、学校から美術館に丸投げしてしまう、といったことが起こってしまうようだ。一方、数回に渡る事前打ち合わせと授業を行い、結果、子どもたちがのびのびと鑑賞を楽しめた、と報告された先生もあり、普段からのコミュニケーションの重要さが確認できた。また、美術館訪問が容易ではない場合は、校内にある作品を活用して「見る」力を鍛えておくことも提案された。最後に、美術館でギャラリートークを行う際は、先生に子ども達の関心、学習の状況を美術館に伝えてもらい、美術館から作品情報や画像などを提供することで、限られた時間でも充実した鑑賞の時間が持てるだろう、という結論に至った。
発表
発表では、グループワークの流れに沿いながら、《眼のある風景》について、どのようなトークの展開が想定できるかについて、お話しした。靉光の《眼のある風景》は、力強い眼と、不定形なものが描かれており、題名も抽象的で、見る者に解釈を委ねられた作品である。小学生であれば、どの学年であっても鑑賞できる作品であろう。鑑賞の時間を充実したものにするためには、先生からは図工や社会の授業、社会見学で行った場所など子ども達が体験したものの情報提供が行われ、また学芸員からは事前授業のための図版や子どもの年齢に合わせた作品情報の提供を行うことが理想的である、と私たちのグループでは考えた。
グループワーク講評
最初に1人でじっくり鑑賞、次に2人、4人と人数を増やしながら見方の違いを感じとらせることが考えられました。ここでも大切なのは1人での鑑賞体験。自分の考えがないことには比較もできず、他者の意見が安易な終着点となりかねないからです。では今回参加者が体験したように、作品のアプローチ方法がすぐに見えてこない場合はどうするか。形や色彩など〔共通事項〕への立ち戻りによって、図画工作科,美術科の教科性を明確にすることが、本研修を通して確認できたようです。
東良 雅人
ファシリテーター感想
今回の参加者の多くは既に鑑賞の授業や、ギャラリートークを行っていた。小学校も美術館も、時間や人員、予算に厳しい制限が加えられ、子どもたちが作品を鑑賞する時間を充実させるための様々なことの理解が大切な時期に来ていると感じられた。また、デジタル技術の発達で、精度の高い作品画像や作品情報の提供が可能になり、教室での鑑賞の機会が増えてきているようだ。
本物の美術作品を子どもたちに見せることは、もちろん大切な事だ。その時間をより充実させるためには、学校と美術館の打ち合わせや子どもたちへの事前レクチャーが有効だ。学校と美術館が連携して授業を行う機会は増えている。本物を見る、限られた美術館での鑑賞の時間を充実させるためには、先生からは授業の様子や子どもたちの関心事についての情報を提供してもらい、美術館からは提供できるツールや作品情報などを紹介し、相互の理解を深めることが重要だと、強く実感させられた。
弘中 智子
サブファシリテーター感想
《眼のある風景》という未知の作品に対し、真摯に向き合い、思考は“個人”と”仲間“との間をめまぐるしく行き来しながら、グループワークは深まっていきましたが、特に印象的だったのは、鑑賞にまつわる「お悩み」を書きだした付箋を分類したときです。それぞれの悩みが少しずつ繋がっていて、独立していなかったのです。立場や経験の異なるメンバーたちが、実は同じ課題や似通った問題に直面しているということを、痛切に感じた瞬間でした。そしてグループワークを通じてそのことを共有し、問題解決に共に向かってゆく場なのだと改めて気付かされました。最後に「おみやげ」を持ち帰ってほしい、という弘中ファシリテーターの思惑とおり、問題を分かち合い、解決方法を探る過程そのものが、格別の「おみやげ」となったのではないでしょうか。私も皆さんと同じく、新たな視界が次々と開ける、得がたい経験をさせていただきました。ありがとうございました。
田村 麗恵
受講者感想(抜粋)
- 小学校教諭
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- 1人で見て、2人で見て、グループで見て、見方が様々ありグループの皆さんと対話しながら新しい視点もみつけ充実した時間となった。
- 先生や他県の学芸員の方と悩みや問題点などを話し合うことができてよかった。とても有意義な時間だった。
- 1人だけでなく複数の目で作品を見ることで新たな見方を知ることができた。美術館の学芸員の方の意見は参考になった。
- 学芸員
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- 現場の先生ときちんとお話をした事がなかったのでとても参考になった。ファシリテーター、サブファシリテーターのリードがよく沢山の意見が出た。
- 教員の方の目からの鑑賞についての意見を聞けてたいへん参考になった。