グループワーク B
対象や自己の内面を深く見つめる鑑賞について考える
- 課題作品:
- 関根正二《三星》1919年
>> 作品情報はこちら(画像有り)
村山槐多《バラと少女》1917年
>> 作品情報はこちら(画像有り)
- 受講者:
- 11名(中学校教諭7名、指導主事1名、学芸員3名)
- ファシリテーター:
- 小池 研二(横浜国立大学教育人間科学部 准教授)
- サブファシリテーター:
- 平谷 美華子(東京富士美術館学芸部学芸課 学芸員)
活動内容
1.作品で自己紹介
展示から作品を一つ選び、それを使って自己紹介をするところからグループワークを始めた。突然で困惑した様子の方もいたが、全員思い入れたっぷりに話していた。
2.いきなりギャラリートーク
2~3人のグループを作り好きな作品でトークをしてもらった。中学生にどんな質問をするか、作品のどんなところを見てもらいたいかなどを考えながら取り組んだ。本研修が受け身のものではなく、参加者が自ら活動していくものであることを実感しているようだった。
3.テーマ作品と対面
鑑賞の対象が《三星》と《バラと少女》の2作品であることを告げ、午後はこの2作品について思いを語ってもらった。参加者の第1印象は「黙って通り過ぎてしまう作品」「中学生相手に授業をするのは難しいだろう」といったものが多かった。
4.授業プランを考えよう
2つの作品を使って授業を行う場合、どのような質問が考えられるか付箋を使って書き出した。質問は2つの作品を比較したものとそれぞれの作品についてのもの、また目に見えるものと概念的なものを問うものなどにわけることができ、そこから授業のプランを考える方向性が見えてきた。
5.グループ発表・まとめ
午前中のグループに分かれて授業プランを考えた。2点を比較したものや一点に絞ったものなど授業の目的をとらえながら考えたプランが発表された。最後に全員で作品にもう一度向き合い、今日の活動の振り返りをした。情報をいつどのように与えるのか、例えば失恋というような中学生が興味を持てるキーワードを設定してはどうか、作家と鑑賞者の視点が違ってもいいと思うと自信を持って授業ができるなどの多くの意見が出た。
発表
受講者の代表の方に、一連の活動の流れを短い時間で手際よく発表してもらった。特に小グループに分かれての授業プランの発表は①2つの作品から共通点を探し、美術館での鑑賞を想定しスペースを活用した活動をする、②印象を言語化し、鑑賞の過程で自分の中に変化が起こったかを考えていく、③槐多の作品の見えない部分を想定し、背景のバラと少女の関係について考える、④村山槐多の作品が制作された時代背景を考え、課題解決型の活動を見据えて、ディベート形式の授業を考える、の4つを紹介してもらった。どのプランも今回のテーマ作品の意味を引き出すためにユニークな方法であり、中学生の鑑賞について正面から取り組んだものであった。
グループワーク講評
このグループでは、作品から何を学ばせるのか、という最終的な目標を徹底的に議論できたことが重要だったと思いました。私たちは鑑賞の方法を考えがちですが、同時に目標、例えば観点別目標に即して言うならば、鑑賞の能力を高める「関心」「意欲」「態度」を追求していくことは重要です。また、見ることや発見することの面白さに気づかせたり、興味をもたせたりする仕掛けが、キーワードになるでしょう。情報も、興味を持たせるための手段です。そう捉えれば、情報の与え方についても整理ができるのではないでしょうか。
三澤 一実
ファシリテーター感想
「この作品を受講者の先生方はどう感じるだろうか、今回のグループワークが有意義だったと感じてくれるだろうか」。私が選定した後、再びギャラリーで作品と対面している時の思いでした。2つの作品は一見すると地味な印象を受けます。しかし鑑賞を続けると作者の感情やエネルギーがひしひしと伝わってきます。若い時代に描いた作品でもあり、中学生もきっと共感するものがあるのではと思い、サブファシリテーターの平谷さんと相談したうえで、最終決定しました。活動の中で、先生方が段々とこの作品について見方が変化していく様子を見ると、選定は間違っていなかったと思いました。活動は先生方にできるだけお任せし、主体的に考えてもらうようにしました。幾多の失礼お許しください。それでも結果的には鑑賞を自分のこととして先生方が捉えてくれたと思っております。また、平谷さんには本当にお世話になりました。Bグループの皆様どうもありがとうございました。
小池 研二
サブファシリテーター感想
リニューアル後、東近美の常設展を改めて鑑賞できることに、内心ワクワクしながら事前打合せをし、当日を迎えました。始めに好きな作品を選び選んだ理由と共に自己紹介。地域もキャリアも様々な先生方の豊かな人となりを感じることができました。そのような先生方から今回学ばせていただいたことは、どのような状況下にあっても一貫して「子どもたちのため」との姿勢です。さて、題材は村山槐多と関根正二という早世の画家、失恋からの一時の激情が溢れんばかりの作品。この一筋縄ではいかない題材への先生方の反応は…?記録をしながら、ひた「子どもたちに本物を」「子どもたちの感性を大事に」「子どもたちに正しい知識を」…と、繰り返される言葉の中に、題材という難所をひょいと飛び越え、真剣に胸中の子どもたちと向き合う先生方のぶれない柱・情熱を感じずにはいられませんでした。私も「何のため」の鑑賞教育か確かめながら、現場に還元して参りたいと思います。
平谷 美華子
受講者感想(抜粋)
- 中学校教諭
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- どのように話し合いを進め深めていくか、1からの課題を与えられてその課題が意図しているものは何だろうと考えることからはじまって思いっきり思考できた。
- 学芸員
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- 作品の見せ方にも様々あり、何を考えさせたいか気づかせたいかを考え授業を作って行く事が大事だと思った。また学芸員として連携していきたいと思った。
- ファシリテーターの小池先生がとにかく粘り強くグループのみんなが動くまで待って下さった。この待つ姿勢が大切だと痛感した。
- 指導主事
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- ギャラリートークを改めて認識して行うことで対話型鑑賞授業の重要性を実感することができた。今後現場への支援に生かしていきたい。